【楽天好き】「家族ですから」。選手の寮生活を支える楽天イーグルス『泉犬鷲寮』の中村稔寮長

中村稔寮長

プロ野球界の裏方で、選手たちをサポートする人々に注目するコラムです。今回は選手たちが暮らす楽天イーグルスの『泉犬鷲寮』（いずみいぬわしりょう）で寮長を務めている中村稔さん。

これまでも当コラムでは、プロフェッショナルなスタッフの皆さんを紹介してきましたが、中村さんは40年以上もプロ野球界で汗を流してきた、いわばプロ野球界のプロ。5年間のプロ野球選手生活、32年間の審判員生活を経て、2019年から楽天イーグルスで寮長を務めます。そんな様々な角度からプロ野球界を見てきた中村さんに話を伺いました。

◆審判時代はニュートラル、今は「選手全員かわいいんです」

中村さんの朝は早い。朝3時に起きて、大浴場の掃除にはじまり、寮内の各所の鍵や駐車場の門を開けるなど、早朝から動きはじめる選手や関係者らのために準備を整えておく。寮長の仕事はこれまでとは異なり、表舞台に出ることのない裏方。だが、「僕の仕事は、すべて選手のためです」と中村さんは、清々しいほどの献身を漂わせる。

「とにかく、楽天イーグルスの選手みんなに活躍してもらいたいですね。野手なら打ってほしいし、投手なら抑えてほしい、頑張ってほしいって願うばかりです。審判の時は、どの選手にもそんなことを思ったことないですから、完全に真逆ですけどね」と目尻にしわを作って笑う。

正反対の心持ちが求められる仕事にも迷いはなかったという。その情熱や献身の源を尋ねると、「やっぱり野球が好きなんでしょうね。審判時代は選手と距離をおく身分でしたし、仲良くなっちゃいけない。それが自然と切り替えられて、今は正反対で（楽天イーグルスの）選手全員がかわいいんですよ。また違った目線で、好きな野球と携わることができて充実しています」。

◆一番にぎやかな選手、勉強熱心な選手は？

そんな中村さんを慕って、いろいろな選手が雑談や相談をしにやって来るのだそう。なかでも辰己涼介選手は、打席で内角のボール球をストライクに判定されやすいと感じ、中村さんと話すうちにインコースの見逃し方を少し変えることにしたという。

「選手全員がかわいい」と中村寮長

「たまたまヒントになったのでしょうが、長年審判をやっていた僕の目線がプラスになっているのかもしれない。こんなに嬉しいことはないですね」。

そう言って謙遜するが、中村さんより野球のルールに詳しい選手は寮内にいない。だから試合中継をするテレビの前には、中村さんのもとに選手たちが集まっては、「今のはどういうことだったんですか？」と質問をされたり、野球談義に花が咲いたりするのだという。

「みんな野球に関しては、勉強熱心ですよ。一軍で頑張っている選手たちも、試合に出ていない時は一緒に中継を見たりしてます。宮森（智志）、小峯（新陸）、武藤（敦貴）とかも、みんな一緒にゲームを見てますね。ああでもない、こうでもないって言いながら。一番しっかりしてるのは早川（隆久）。一番にぎやかなのは黒川（史陽）ですね。楽しいですよ」。

◆一緒に暮らしているのだから『家族』。このヤロウと思うぐらいでないと

選手について悪いことを決して言わない中村さんだが、「寮生全員の長所だけでなく、短所ももちろん言えますよ」と明かす。そうでなければ『仕事』にならないとばかりに。

「1つ屋根の下で、同じ釜の飯を食べて、一緒に風呂に入っている『家族』ですから。良いところだけじゃなく、だめなところ、時にはこのヤロウぐらいに思うことがないとね。カチンと来ることもありますが、選手の成長を第一に考えて、大体は堪えるようにしています。選手の成長を促すのが、僕の仕事ですから」。

「落ち込んでいる時なんかも、見ればすぐにわかりますよ。でも、あえて声をかけないようにしています。そういう時は放っておいてほしい時もあるでしょう。もちろん向こうから言ってきたら、何でも聞いてやります。いつもここで応援してるから、一人で悩んでほしくないっていう思いです」。

「選手たちの親代わりみたいなものなので、何かあればいつでも言ってきてほしいな、というのをわかっていてもらえると嬉しいですね」。

厳しいプロ野球の世界を知り尽くした寮長は、若い選手たちにとって何よりの拠り所に違いない。

文：松山ようこ／写真：楽天野球団提供