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島内宏明
楽天イーグルスの4番・島内宏明は、相手投手にとってかなり嫌な打者だろう。選球眼よく、コンタクト能力に優れているうえ、長打力も備える。しかも、飄々としていて「何を狙っているかわからない」という。
この意図の読めない感じは、取材時の受け答えでも同じ。私自身も2015年から折々で島内選手を取材してきたが、斜め上を行く返答や球をうまくカットするかのようにいなされることは少なくない。そんな彼だから、試合でのユニークなコメントが生まれ、ファンからも注目されるのだろう。
そもそもなぜ、ああいった独特のコメントを発するのかが気になる…ということで、本人に先月末、リモートで話を伺ったのでお伝えします(いなされている部分も多々ありますが、何卒ご容赦ください)。
―― 調子はいかがですか?
島内:はい、まだ死んでないんで大丈夫です。
―― 今年は面白コメントがあまり出てないかと。
島内:あんま打ってないからじゃないですかね。そのうち、(打ち出したら)出るようになったらいいなと思っています。
―― そもそも、ああいうコメントを言ってきた理由を教えてください。
島内:理由はね、(広報の)村上さんが…。村上さん次第なんです(笑)。
―― 村上さん、そうなんですか?
村上広報:違います(笑)。
島内:村上さんがほとんど作ってるんで(笑)。
―― ええと…、村上さんが面白くアレンジしてコメントを出すことを、島内さんが認めているっていうことですか?
島内:はい、僕は後で記事を見てびっくりします。
村上広報:アレンジしてないです!島内選手が言ったことをそのまま出してますから!!
―― 島内さん…。ともあれ、ああいった面白いコメントを発すると注目度も上がります。それでプレッシャーを受けるということはないんでしょうか?
島内:いや、もう僕、だいたい打席に入るときは腕震えながらです。ぶるぶる震えてますからね。今も震えてますよ。
―― いや…震えてないと思いますけど…。ものすごい飄々と嫌なバッターな感じで出られてるように見えますよ?
島内:今も震えてますから(笑)。
言っていることと醸し出す雰囲気はむしろ真逆。こうした“圧”は、打席でも漂っているのではないか。なんと嫌な打者だろうか。とはいえ、話しているとその人柄の良さは隠せないようで、「震えてる」みたいに明らかな冗談を言っているなという時は、笑顔をのぞかせる。
昨季は打点王にも輝き、球団生え抜き記録の21本塁打もマークした。昨年に続いて、今季もチームの4番に座る。これまでにも折々で話を聞いてきたが、そんな冗談とは裏腹に実績からなる落ち着きは、ますます増して見える。続けて、バッティング感覚と気持ちの切り替えについて、考えを聞いた。
―― 以前にも、バッティングの感覚について、繊細すぎることを自負していて、バットも細かく変えていると教えてくれましたが。
島内:そうですね。バットケースは3つ。常に30本くらい持って行っています。だいたい使うのは一緒なんですけども、やっぱり揃えておきたい。それが今ちょっと、良いのか悪いのかわからないとことはありますけども。考えすぎているかなと思うこともあります。
―― 他の選手のバットを借りてっていうこともありました。
島内:そうですね、その時は自分の感覚がなくて、どのバットを使っても一緒だなっていう時でした。
―― 昨季、「西口投手や安樂投手のバッティング練習を見たら打てた」といった面白コメントをしていましたが、あれはきっかけというか本当に参考にされていたのでは?
島内:そうですね。やっぱりピッチャーがバッティング練習をすると、考えずに来る球を打つっていうシンプルなことができているんです。でも、バッターはやっぱり考えすぎてしまう。
ピッチャーも投げることに関して同じと思います。やっぱり自分の専門のこととなると、ちょっと考えすぎちゃうところが出てくると思うので。そういうところを参考にはしていました。
―― 自分で考えすぎてしまう時、どうやって切り替えようと試みるのでしょうか?
島内:(村上広報の顔をみてにんまり笑うと)村上さんの顔を見ます。ちょっとホッとする部分があるんです。しばかれる時もありますけど。
村上広報:しばきません!(笑)
島内:シーズンは長いので、現場にいる時は周りの人とコミュニケーションを取りながら、いろんなきっかけを探すということもあるんです。
―― では、現場を離れた後は、どうやって気持ちをオフにしているのでしょうか?
島内:あんまり野球のことは考えないようにはします。あと最近、自転車にはまっています。2台あります。
―― 今!? 疲れないですか?
島内:全然、疲れないです。電動なので。車で山に行って乗ったり、川辺を走ったり。(しばし間の後、にわかに笑い出す)最近は使ってないですけど。
―― どっちやねん!ええと…では島内さんにとって、4番の理想像とは?
島内:どっしりしていなければと思いますけど、僕にはできないです。
そう言って真顔で謙遜する。予想外の返答に翻弄されたインタビューだったが、思うにきっと、どっしりは必要ないのではないか。彼はそのままでいいのではないかと思われた。
確かに4番といえば、以前まではどっしり構えて、溜めたランナーを一発でホームに返すといった役割があるとされてきたが、それも近年では変わりつつある。石井監督も「ホームランがたくさん打てるから4番ではない」と明かしたように、島内の確かな打力と駆け引きのうまさを買っているのではないか。
天然のようにも思える受け答えだが、時に“考えすぎる”ほどの頭脳派。雑談から相談ごとに発展することもあるとか。ファンからいただいた相談にも応じてくれるとのことなので、引き続きお伝えしたい。
取材・文:松山ようこ/写真:東北楽天ゴールデンイーグルス提供
松山 ようこ
翻訳者/ライター/インタビュアー。主にスポーツやエンタメ分野にて実績多数。野球はプロ野球からMLB、他にもマイナースポーツからオリンピック大会まで、国内外の競技場や大会での現地取材を数多く経験するスポーツ好き。アスリートはじめ、一般人から著名人まで幅広くインタビューし、日本語と英語ともに記事やコラムにする。訳書『ピッチングニンジャの投手論』『ベイダータイム』。 ※『ピッチングニンジャの投手論 PitchingNinja's analysis of Japanese MLB Aces』 ※『VADER TIME ベイダータイム: 皇帝戦士の真実 』
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