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甲子園で、1試合22奪三振という大記録を打ち立てたことを思い出した。松井裕樹がシーズン最後の日本ハム戦で、先発を担い、4回まですべてのアウトを三振で奪う“12奪三振”というパワフルな投げっぷりを見せた時のこと。
画面を通しても伝わる「絶対にアウトを取る」という迫力。SNSがにわかに、「松井の奪三振ショー」の話題でざわついた。
開幕からセーブ失敗が続き、二軍で再調整するなど不振にあえいだ。「新しい発見」を求めて、シーズン2度目の先発登板だったという。この時のこと、今季のことを、本人に振り返ってもらったところ、意外な思いを強い言葉で明かしてくれた。
◆悪循環に陥った松井裕樹が、最後の登板で掴んだもの
楽天ファンだけでなく、野球好きの多くのファンが「凄い!」と感嘆した12奪三振(トータルは6回14奪三振)。そう伝えるも、松井はあくまで冷静に振り返る。
「自分の中では、良くなかったんですよ。正直、バランスもフォームも全然、合わなかった。際どいところにも投げられない」。
「だから、思いっきり行った中で、ファールだったり、空振りを狙っていくという投球しかできなかったんです。際どいところにも投げられない。強引で、雑なピッチングでした」。
先発として「試合を作る」には、持たない。自分の思った理想とは全く違ったと続ける。
「あれじゃあ、抑えピッチャーがイニングをまたいだイメージ。ただ、5回の終わり方は悪くなかったので、自分のなかで何かが掴めそうと思って、6回も投げさせてもらいました」。
「結果、6回は一番納得する球が多かった。ああいう風に流しながら、思ったところに強い球をという投球を目指してたんです」。
事実、4回は3三振ながら、制球難でランナーを溜めてからの痛打で3失点。5回にも無死1、3塁のピンチを招くと、その後は犠牲フライとショートへのダブルプレーで3アウトに。これで勝ち越し点を奪われたが、志願した6回は三者凡退に仕留めている。
セーブ失敗にあえいだ今季序盤は、悪循環に陥っていたという。「結果が出ないから、バッターから早くストライクを取りたい、アウトを取りたい、早くベンチに戻りたいっていうのが、マウンドでも常に頭にあって、さらに焦っていきました」。
試合中のマウンドで、弱気に陥った時もあった。救ったのはベテラン選手だったという。
「今江さんだったり、嶋さんだったり、直人さんだったり。そういった先輩方が『お前、何やってんだ!』『お前がやらなくてどうすんだ!』って強い言葉で叱咤してもらえて、もう一度また引き締めることができました」。
優しく慰めるのではなく、文字通りの叱咤激励が良かったのだという。松井は、いわゆるエリート街道をひた走ってきたトップ選手。だが、「優しく育てられていないので」と笑う。穏やかな表情で「やわじゃない」横顔をのぞかせた
◆もがく中で松井裕樹が向かう未来
2013年のドラフトで5球団から指名され、ドラフト1位で楽天イーグルスに入団。「桐光学園のドクターK」と名を馳せた松井は、高卒ルーキーにして開幕から一軍で先発を担っている。
だから、今年は「4年ぶりの先発」だったわけだが、その時の先発経験は「あってないようなもの」と捉えている。
「初年度は、星野さんに(先発の機会を)『回してもらった』というのが正しい言い方ですね。ピンチになってもマウンドに立たせ続けてくれた」。
「140球近く投げたこともありますけど、あれがなかったらキャリアのなかで抑えをやることもなかったですし、1年目にあれだけ、1軍でやらせてもらったことが、すべて今につながってます」。
ルーキーイヤーの成績は、4勝8敗の防御率3.80ながら、116回を投げて126奪三振。いきなり投球回数を大きく上回る三振数をマークする快投ぶりで、翌年からのクローザー抜擢へとつながっている。
高卒5年目の23歳は、まるで遠くの景色を見てきたように落ち着いた目つきで、振り返って語った。
「いろいろなことがありました。今年はメンタルも含めて、自分の野球のキャリアのなかで、ここまでうまくいかないことはなかった」。
「そのなかでもがいて、なんとかして自分の形を作ってこられたし、幅も広がった。だから、この道を通ったからこそ、得られたこともすごくあるし、今は良かったと思えます」。
先発か後ろ、どちらが良いのか尋ねるも、冷静に見通して続ける。「クローザー抜擢も、たまたまミコライオがケガをしたことで、9回のポジションが回ってきて、自分にとっての巡り合わせも良かっただけ」。
「また、来年どこで投げるかというのは、きっと自分の野球のキャリアにおいて、大きな分かれ目になると思います。でも、自分の決めるところではないし、自分の意思で決めることではないので」。
松井は、チームの今年をこう振り返った。「1つのアウトを取るために、全員で戦っているのを、今年以上に感じた年はない」。
過去があるから今がある。この経験は、きっと来季の試合で生かされるに違いない。
松山 ようこ
翻訳者/ライター/インタビュアー。主にスポーツやエンタメ分野にて実績多数。野球はプロ野球からMLB、他にもマイナースポーツからオリンピック大会まで、国内外の競技場や大会での現地取材を数多く経験するスポーツ好き。アスリートはじめ、一般人から著名人まで幅広くインタビューし、日本語と英語ともに記事やコラムにする。訳書『ピッチングニンジャの投手論』『ベイダータイム』。 ※『ピッチングニンジャの投手論 PitchingNinja's analysis of Japanese MLB Aces』 ※『VADER TIME ベイダータイム: 皇帝戦士の真実 』
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