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宮浦健人(ウルフドッグス名古屋)
今年11月29日、エントリオ(豊田合成記念体育館/愛知)で開催された『大同生命SVリーグ 2025-26 男子』レギュラーシーズン第6節・GAME1の試合後。
フルセットでヴォレアス北海道を下したウルフドッグス名古屋の宮浦健人は少しばかり苦悶の表情を浮かべていた。聞いたところ、その日の試合の第3セットでディグ(スパイクレシーブ)に入った際、隣にいたティモシー・カールと接触。カールのすねが宮浦の腰あたりにヒットしたのだという。
「腹筋と言いますか、腹圧がまるでかからない状態になったので、アタックに跳ぶのも辛かったです。もう第5セットは『やばいな、これ』と思いながらプレーしていました」
仰向けになりながらガッツポーズ
その最終セットで宮浦は難しい体勢からアタックに跳び、身体を後方へ投げ打つようにしてスパイクを決めると、そのままコート上で仰向けになりながらガッツポーズを繰り出した。
深津英臣が駆け寄り、宮浦の両腕をしっかりとつかんで引き上げる。チームを勝利にぐっと近づけたアタックはその実、満身創痍の中で決めたもの。宮浦は噛み締めるように振り返った。
「身体がそんな状態であっても、やるだけですから。そこは鎮西魂です」
大同生命SVリーグ 2025-26 男子
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第6節 ウルフドッグス名古屋 vs. ヴォレアス北海道(11/29)
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第6節を週末に控えた11月24日、宮浦の母校である熊本の名門・鎮西高校を半世紀に渡り指導した畑野久雄監督が逝去した。享年80だった。葬儀にも出席した宮浦は恩師の存在をこのように語る。
「やはり今の自分があるのは、畑野先生とのご縁があったからこそだと思います」
日本トップレベルのオポジット宮浦
熊本出身で、黄色のジャージに惹かれた宮浦は鎮西中学に入学したときから、同じ体育館で高校生たちと日々を過ごしてきた。もちろん、そこには畑野監督もいた。
「僕たち中学生は部員も少なくて、高校生の隣でちょこっと練習している具合でした。畑野先生は高校生への指導がメインですが、ときには接していただく機会もあり、そのときはとてもやさしかったです。一方で高校に進んでからは、厳しく指導していただきました。先生はそこにいるだけで、それに一言二言でその場の雰囲気がぐっと引き締まるんです。すごかったですね」
表現すれば「厳しい」という言葉になるが、宮浦の記憶にあるのは叱咤のたぐいではない。
「とても怒られた、という記憶はないんです。それはもう厳しかったですが、畑野先生には大事なことを教えてもらったといいますか」
たくさんある教えの中でも、宮浦が挙げたのは「上を目指すために必要なこと」。ずばり、それは…。
恩師の教えを胸にプレーする宮浦
「いつでもどんなときでも謙虚でいなさい、ということです。謙虚でなければ、満足してしまうし、そうなれば上を見ることもできない。やはり謙虚さが必要なんです。それに鎮西高校はたくさんのOBの方々がいらっしゃいますが皆さん、『当たり前のことを当たり前に』できなければ成長できないことを身に染みて分かっています。そうした考えが土台となって今、自分はバレーボールができていると感じます」
大同生命SVリーグ 2025-26 男子
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第7節 ジェイテクトSTINGS愛知 vs. ウルフドッグス名古屋(12/6)
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第7節 ジェイテクトSTINGS愛知 vs. ウルフドッグス名古屋(12/7)
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そう話す宮浦だが、元から謙虚で慎ましく、それでいて熱いハートを宿しているのは本人も認めるところ。そのうえで恩師からの教えが今の人間像を形づくっている。
「確かに性格的な部分もあると思います。自分は、ぱっと明るく何かを表現するような性格でもありませんからね。ですが、いっそう謙虚に取り組む考え方が身についたのも、鎮西高校でたくさんの壁をつくっていただき、その壁を何度も乗り越える経験を重ねてきたからこそ。常に100%の力を出すことで自分自身は成長できましたし、高校生活でのそうした成功体験が今の自分につながっています」
鎮西高校といえばエースアタッカーにボールを託すスタイルで数々の栄光を手にし、バレーボール界へ何名ものトップ選手を輩出してきた。宮浦もその1人である。
宮浦自身、高校時代にはエースとして成長を遂げる一方、「春の高校バレー」こと、全日本高等学校選手権大会では準優勝や初戦敗退も味わってきた。その言葉にあるとおり、乗り越えてきた壁は1つや2つ、いずれも決して低くはなく、分厚いものばかりだった。
新たなチャレンジにも取り組む宮浦
それは今も同じ。日本トップレベルのオポジットであるのは誰もが認めるところだが、現在所属するWD名古屋ではチームとしてコンビバレーを磨く中で、速いトスに四苦八苦する姿が見られる。その理由は、自身にとって過去に経験したことがないほどのスピードだからだ。けれども宮浦は言葉に力を込める。
「速いトスが打てるようになれば、それがまた個人的にも強みになりますし、チームにとってプラスになると思うので。まだまだ壁はありますが、トライしていきたいです」
乗り越えた先に成長がある。鎮西高校で過ごした日々が、そして亡き恩師が、そう教えてくれた。
文:坂口功将/写真:WOLFDOGS NAGOYA
坂口 功将
スポーツライター。1988年生まれ、兵庫県西宮市育ち。
「月刊バレーボール」編集部(日本文化出版)で8年間勤めたのち、2023年末に独立。主にバレーボールを取材・執筆し、小学生から大学生、国内外のクラブリーグ、そしてナショナルチームと幅広いカテゴリーを扱う。雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、バレーボール関連の配信番組への出演やイタリア・セリエAの解説も務める。
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