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酒井秀輔(VC長野トライデンツ)
開幕節を連勝スタートで飾り、首位で臨んだ第3戦。前節に続いて長野県でのホームゲームに臨んだVC長野トライデンツ、会場には家族連れが目立ち、多くの観客が訪れたが、試合前のウォーミングアップが始まると、観客席から「あれ?」という声が聞こえた。
「外国人選手は出ないの?」
確かに。開幕節での連勝に大きく貢献した207cmのオポジット、マシュー・ニーブスとデンマーク出身のアウトサイドヒッター、オスカー・マドセンはコンディション不良でコートにいない。加えて、今季地元のVC長野に新加入した44歳のミドルブロッカー松本慶彦もベンチ入りメンバーから外れていた。
対するウルフドッグス名古屋はポーランド代表ミドルブロッカーのノルベルト・フベルや、新加入のオポジット宮浦健人など、代表選手もズラリと揃う。
一見すれば、名古屋が圧倒的に有利と見る人が多いのは当然だ。だが、すべて日本人選手で入団間もない若手選手も多い布陣となったVC長野は、その若さや粗さが新たな武器となり、川村慎二監督にも「日本人だけで最後まで戦い切れたのは収穫だった」と言わしめる戦いぶりを見せた。
大同生命SVリーグ 2025-26 男子
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第2節 VC長野トライデンツ vs. ウルフドッグス名古屋(11月1日)
J SPORTSオンデマンドで見逃し配信中
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第2節 VC長野トライデンツ vs. ウルフドッグス名古屋(11月2日)
J SPORTSオンデマンドで見逃し配信中
まず初戦、2人のルーキーが魅せた。
天理大学の先輩でもあるセッターの中島健斗と、サウスポーの酒井は学生時代から磨いて来たコンビネーションを発揮。手堅いブロック&ディフェンスを誇るWD名古屋に対しても、ミドルやレフトを使うと見せてバックライトの酒井を効果的に使う場面も多く、高さや経験で勝る相手に対しても12点のスパイク得点を記録した。
一条太嘉丸(VC長野トライデンツ)
スタメン出場した佐藤隆哉に代わって第1セットに途中出場した一条は、交代直後にスパイクを決めて見せたが、攻撃面ではなく守備面で貢献。ビッグサーバーが揃う名古屋に対して、レシーブで応戦した。
試合は0-3のストレート負けを喫したが、酒井、一条にとってはこの試合がSVリーグでのデビュー戦。試合後には反省や課題を述べながらも酒井は「SVリーグで初得点を挙げられたのは素直にうれしかった」と笑顔を見せた。さらにシンプルな言葉で楽しさを語ったのは一条だ。
「自分が入ってすぐ、1本目のサーブが宮浦さんだったのでドキドキしていた。でも、たまたまそのサーブがネットにかかったので少しホッとして、次の(サーブに対する)パスがセッターに入った時、楽しいな、って。試合に出られること、スパイクが決まること、そういう全部が楽しくて、小学生がバレーボールをやっているみたいな素直な気持ちでプレーができました」
学生時代はエースとして活躍。清風高校では『春高』でセンターコートも経験、日本体育大学でも主将を務めた選手だが、川村監督の指導を受けるうち、考え方や自分の存在価値に対する考え方がガラリと変わったと明かす。
「VCに入ってから、自分はパスで生きていくしかないと思うようになったし、川村さんからも『太嘉丸に期待するのはディフェンスだ』とクギを刺された。
自分が内定で入った時に(VC長野に)いた迫田(郭志)さんや、ブルテオンの仲本(賢優)さん、サイドアウトを取るために必要なのは、ちゃんとパスを返せる選手なので自分もそうなりたいと思ったので、がむしゃらに打ってきた頃もありましたけど、今は自分のやるべきことに対する意識が完全に変わりました」
2日目は初日に一条と代わった佐藤、酒井と同じ左利きのオポジット飯田孝雅が躍動した。試合開始直後から佐藤のスパイクが決まり、レフトへ守備の意識が集まると逆サイドの飯田へ。セッター中島の見事なトスワークも冴え、25-23、26-24で接戦を制し2セットを連取する。
しかし、試合巧者で選手層の厚さを誇るWD名古屋も、佐藤と同世代の水町泰杜のサーブや要所でのスパイクが決まり逆転。
第4セットは開幕節から好調を維持し、VC長野のエースとして存在感を発揮してきたアウトサイドヒッターの工藤有史がサーブ、スパイクでチームをけん引。21-24から23-24と1点差まで迫ったが惜しくも届かず、このセットを23-25で失い、最終セットも接戦の末11-15で制したWD名古屋がフルセット勝ちを収め、VC長野は2敗目を喫した。
あと一歩、勝利を確信できる戦いぶりを見せただけに、選手の表情には悔しさが浮かんだが、川村監督は開幕間もないこの時期に、出場機会を得た選手たちが活躍を見せたことは今後につながると評価しながらも、これからに向けた課題も挙げる。
「昨日の反省を修正して、最後まで戦い抜いたと思います。ただ、高さ、ディフェンス力、多彩な攻撃に対しての対応が少し劣った。昨日今日、日本人で戦って“よく頑張った”で終わるのではなく、なぜ勝ちきれなかったのか。どうしたらいいのかを深堀りして、選手自身が考えていけばもっともっと基準が上がるし、いい練習にもつながる相乗効果になって、チームがさらに強くなっていく。
そういうループができたらいいと思うし、これだけ多くの選手を起用することができたのは間違いなくプラスなので、ここからチーム内競争をしながら、いかにベンチへ入るか。試合に出るかを考えてほしいです」
敗れはしたが、経験という得難い収穫を得た。2戦の中で修正力を発揮した佐藤が言った。
「オスカー、マシューがいる中、メンバー競争も熾烈になるけれど酒井選手とは、たとえ出る機会が少なくても腐らず一生懸命頑張っていこう、と言い合ってやってきました。勝ちたかった、という後悔はありますが、チャンスをもらえた中で酒井と一緒に戦えたのはいい経験だったし、宮浦選手やフベル選手のような各国代表のすごい選手と対戦できる機会も滅多にない。
正直、初戦は気劣りしてしまったんですけど、そのまま終わるのはもったいないと思ったし、川村監督からも『この経験をプラスにできるように堂々とプレーしよう』と言われたので、物おじせずアグレッシブに戦うことができた。自分は控えだから、と思うのではなく、これからは自分もいるんだ、と自信を持ってプレーしていきたいです」
今、日本代表で戦う選手はいなくても、SVリーグで戦う選手たちはここまで、それぞれの場所で輝かしい実績を残し、そのための努力を重ねて来た選手ばかり。この華々しい舞台でも皆が皆、「自分を出せ」とギラギラしながらその時を待ち、どんな強者にも向かっていく。
だからバレーボールは面白い。安曇野で見せたVC長野の姿は、まさにそんな戦いぶりだった。
次は誰が出るのか。どんなプレーを見せるのか。これからがまたとてつもなく楽しみだ。
文:田中夕子/写真:(C)SV.LEAGUE
田中 夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。WEB媒体、スポーツ専門誌を中心に寄稿し、著書に「日本男子バレー 勇者たちの奇跡」(文藝春秋)、「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。「夢を泳ぐ」「頂を目指して」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」、凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること」(カンゼン)など、指導者、アスリートの著書では構成を担当
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