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バレーボール コラム 2025年10月16日

東美奈、スパイカーが選択肢を持てるよう精度を高く。大阪マーヴェラスの指令塔が見据える新シーズン

SVリーグコラム by 田中 夕子
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大阪マーヴェラスのセッター東美奈

試合開始前の円陣から、気合は十分だった。

チャンピオンリングを贈呈され、いざ、コートへ。大阪マーヴェラスのセッター、東美奈は高ぶる気持ちを抱きながらも表情は冷静に。夏場から積み重ねてきた成果を出すべく、十分な準備をして試合開始の時を迎えた。

大同生命SVリーグ 2025-26

だが、立ち上がり早々、ヴィクトリーナ姫路のサーブで崩され、思い通りの攻撃展開をつくれない、苦しい時間が続いた。

「サーブから攻められて、相手に押されてしまった。1本目が崩れた後、2本目、自分がつなぐところでつなぎきれず、スパイカーにいろいろな選択をさせることができませんでした」

第1セットを落とした後、第2セットを取り返し、第3セットもリードしたが終盤に逆転を喫し、開幕戦は1-3で敗れた。

「後手に回らないように。自分たちのバレーを強気でやっていきたいです」

途中交代でのワンポイント出場にとどまった第2戦はフルセット負け。連敗スタートという結果にはなったが、まだ始まったばかり。自分に言い聞かせるように、東は前を向いた。

大同生命SVリーグ 2025-26 女子

【ハイライト動画】第1節 大阪マーヴェラス vs. ヴィクトリーナ姫路(10月10日)

SVリーグ初代女王となり、連覇への挑戦権を得た。受け取り方次第ではプレッシャーになりかねない立場ではあるが、開幕を約1ヶ月後に控えた際の取材時は、東の表情に余裕があった。

「優勝したことは1つ、プラスの自信になりました。でも正直に言うと、まだ実感がわかない気持ちも大きくて(笑)、プレッシャーに感じることはないですね。だから“連覇”というよりも、今年また始まるシーズンでタイトルを取る。そういう意識しかないです」

スピードを活かした攻撃展開を担う東美奈

入団4年目、160cmの小さな身体に人一倍の闘志を秘める。「小さいと言われるのが悔しいので、セッターでも誰にも負けないぐらいに磨いて来た」というレシーブ力に加え、正確かつ時に大胆なトスワークも魅力の1つ。

スピードを活かした攻撃展開を得意とする中、最も得意とする攻撃がバックアタックだ。セッターとして、理想は「相手に(攻撃の)的を絞らせないように常に4枚攻撃を仕掛けたい」という東にとって、生命線とも言うべき攻撃がバックアタック。

だからこそ開幕戦で使いきれなかったことに悔いを述べたが、日頃から「できれば積極的に使いたい」と話すように、昨シーズンは相手のサーブをレシーブしてからのサイドアウト時や、ラリーが続いた場面でもバックアタックを選択するケースが多かった。

大同生命SVリーグ 2025-26

その結果、思わぬ効果も生まれた。チームにとって攻撃の枚数が増えたのはもちろんだが、セッターだけでなくトスを受けて打つ、アウトサイドヒッターの選手にも新たな引き出しと武器が加わるきっかけとなった。特に象徴的だったのが、レギュラーシーズンでMVPも受賞した林琴奈だ。

レフトだけでなく、セッター対角のポジションもこなす器用な選手で、攻撃はもちろん守備にも定評がある。まさにSVリーグ、日本女子バレーの象徴とも言うべき選手であり、東京、パリと2度の五輪にも出場した経験豊富な選手でもある。

対戦相手からすれば実に嫌な選手で、味方にとってはこれほど心強い存在はいないにも関わらず自己評価が低く、できることよりもできないことに目が向く。なんでもこなしているように見える林にとって、実は「あまり得意とは言えない」プレーがバックアタックでもあった。

セッターの東は積極的に使いたい。チームとしても攻撃枚数を増やしたい。加えて酒井大祐監督が就任した昨季、酒井監督は選手とコミュニケーションを重ねながら「たとえミスをしても積極的にチャレンジすること」を促し、求めてきた。

大同生命SVリーグ 2025-26 女子

もちろん林も例外ではなく、両サイドとミドルと同じテンポで繰り出すバックアタックにチャレンジした結果、バックセンターからスピードを生かしたパイプを次々決めるシーンが増えた。

その結果、攻撃枚数が増え、攻撃に対する意識も向上。レギュラーラウンド1位、チャンピオンシップも、Astemoリヴァーレ茨城、デンソーエアリービーズとの連戦を制し、決勝ではNECレッドロケッツ川崎にストレートで連勝。

SVリーグの初代女王となったことに加え、東はセッターとして確かな手応えを得ることにもつながった。

連覇に挑む新シーズン

「自分自身にも波がある中で、どうやって勝っていくか。振り返ると、NECに最後で負けたシーズン(2023-24)は、ただガムシャラだったんですけど、昨シーズンは(監督の)ダイさんのおかげで、視野を広く、余裕を持ってスイッチを切り替えることができるようになった。

常にスパイカーが一番いい状態で決められるように、ということだけ意識してきたんですけど、決勝のデータを見たら、誰かに頼ることなくみんなが均等に決めていたので、それは1つ、自分の中でやりきった、という思いもありました」

歓喜の時は一瞬で、あっという間に新シーズンが開幕した。しかも「連覇」を狙うシーズンの始まりだが、東に気負いはない。

「いろいろ対策されると思うんですけど、それでもスパイカーに選択肢を持たせられるように精度を高く、駆け引きももっとうまくなりたい。ブロックされても、決めるための道をつくるのが私の役目。

タイトルがほしい、優勝するために頑張るんじゃなく、いろんなものをつくりながら、チャレンジしながら全員でトライし続ける環境をつくって、全員でいいものを吸収しながら最後、一番いい形で終わりたい。あの瞬間、あの場でしか味わないものがあるので」

勝って得られるものがあるように、負けて得られるものもある。開幕戦で敗れた直後、悔しさを噛み締めながらも東は前を向いた。

「ミドルの使用も少なくて、パイプももっと種類多く練習してきたんですけど、そこにトライすることができなかった。もっと自分がラリー中にも時間をつくってスパイカーの選択肢が増やせるようにしたいし、自分たちの強みであるディフェンスからの4枚攻撃を出していきたい。

たくさんの方が会場に来て下さって、心が熱くなるようなプレーを見せたかったけれど(開幕戦では)できなかったので、次は見せられるように。もっともっと頑張りたいです」

長いシーズンはまだ始まったばかり。またここから。課題もすべて、成長と進化につながる財産だ。

文:田中夕子/写真:(C)SV.LEAGUE

田中夕子

田中 夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。WEB媒体、スポーツ専門誌を中心に寄稿し、著書に「日本男子バレー 勇者たちの奇跡」(文藝春秋)、「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。「夢を泳ぐ」「頂を目指して」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」、凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること」(カンゼン)など、指導者、アスリートの著書では構成を担当

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