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サーブに入る甲斐孝太郎
まずはコートに背を向けて、片手でボールを高らかに上げながら数歩踏み出す。そこからくるりと身体を反転させてコートに面すると、いよいよサーブのモーションに入る。そのときだ。
「カーイ、キャノン!!」
アップゾーンから、いつものコールがサーブの打ち手へ送られる。国内リーグ「SVリーグ」の男子、サントリーサンバーズ大阪のゲームではお馴染みの光景だ。けれども、ここはドイツの首都ベルリン。そのコールを浴びた甲斐孝太郎は胸を弾ませた。
「仲間がしてくれましたね。なので、日本でプレーするときと変わらない気持ちといいますか。コールしてくれたことで自分も、自分のリズムでサーブを打つことができました」
今年7月中旬にドイツで開催された「FISUワールドユニバーシティゲームズ(2025/ライン・ルール)」。2年前の前回大会に続いてユニバーシティゲームズ日本代表(以下、ユニバ日本代表)に選出された甲斐は今大会、のっけからギア全開だった。
所属先のサントリーで過ごしたルーキーイヤーの2024/25シーズンは主にリリーフサーバーでの起用だったが、ここではオポジットの1番手。サウスポーから鋭いアタックを繰り出す。同様にサーブも高い効果率を生むだけでなく、相手レシーバーを強襲し得点を奪ってみせた。
サーブを打つ甲斐孝太郎
現地7月18日、チームにとっての大会初戦であるチリ戦では、さっそく2本のサービスエースを奪取。それでも本人から出た言葉は控えめだった。
「初戦だったので、試合を通して相手のチーム状態を探っていく必要がありました。そこで最大限の力でサーブを打って、仮にミスをしたら試合中の相手のデータを得られる機会がどんどん少なくなってしまいますから。
なので、今日は選手と選手の間を狙ったりなど、どちらかといえばキープするようなサーブを打つことを自分は意識していました。左利きを活かして横の回転がかかったボールを6、7割程度の力で、という具合です」
パッと見ただけでは、力を加減していたなどわからないほど力強いのだが、本人はチームプレーの意味合いを持ったサーブを、大会の初戦では打っていたというわけだ。いわく、サントリーでリリーフサーバーとして出番がやってきたときはまるで異なる。そっちの場合は…
攻めのサーブを打つ甲斐孝太郎
「そこで力を加減して相手コートに『入れにいく』サーブを打つぐらいなら、替わらないほうがいい、と思っています」
そんな言葉に、ビッグサーバーとしての甲斐の矜持を見た。
それにしても勝負強い。リリーフサーバーでエースを奪う姿や、効果的に相手を崩す場面はサントリーで何度も見られ、だからこそ、その役割を与えられている。一方で「試合にずっと出ているほうが、サーブも含めてプレーはしやすいかもしれません」と言うように、スタメンで出場機会を得た今回のユニバ日本代表でも発揮された。
「サーブを打つときはそれほど緊張していません。どちらかと言えば、守りに入ったサーブを打ってミスするのが自分としては嫌なんです。攻めたサーブでミスするほうが、まし。
高校の時も監督から、『攻めろ』という指示しか受けていなかったので。それを高校、大学と継続して、気づけば常に攻めたサーブを打つスタイルが身についたと思います」
一方で、その強さが兄弟そろって備わっている点が実に興味深い。弟の甲斐優斗(専修大学4年)はシニアの日本代表でプレーし、今年のネーションズリーグ、7月16日のドイツ戦ではマッチポイントからリリーフサーバーとして投入されると、サービスエースで試合を締めくくってみせた。
率直な疑問を、兄へぶつけてみる。どうして兄弟そろって勝負強いサーブが打てるのですか?
「たぶん…、ぶっちゃけ何も考えてないんです(笑)。特にあとのことは。どんなシチュエーションであっても、そこでミスをしたとしても、何も。とにかく思いきって攻めたサーブを打つ。それ以外は考えていないんですよね」
無心で、必殺技を繰り出す。それはもはや達人の境地ではなかろうか。
国際大会を終え、次の舞台はSVリーグ
いずれ始まる2025-26 大同生命SVリーグでもきっと、「甲斐キャノン」コールを浴びながら甲斐はサーブのモーションに移る。
「何も考えていない」?そんなわけはなかろう。「攻める」の一心が生む集中力を持ってして、極上の一本を放つのだ。
文/写真:坂口功将
坂口 功将
スポーツライター。1988年生まれ、兵庫県西宮市育ち。
「月刊バレーボール」編集部(日本文化出版)で8年間勤めたのち、2023年末に独立。主にバレーボールを取材・執筆し、小学生から大学生、国内外のクラブリーグ、そしてナショナルチームと幅広いカテゴリーを扱う。雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、バレーボール関連の配信番組への出演やイタリア・セリエAの解説も務める。
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