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西村海司(清風)
最後の1本は、意地と成長の証だった。
準々決勝、駿台学園高校(東京)に1セットを先取され迎えた第2セット終盤、清風高校(大阪)のエース、西村海司(1年)は、セッターの森田陸(2年)に「自分へ上げろ」とばかりに声を張り上げ、バックアタックのトスを求めた。
そして、その声と心意気に森田も応え、西村が決め21-24。相手のマッチポイントは続く中、田原璃晟(2年)のブロックで22-24と追い上げたが、最後は清風のサーブがアウトになり22-25。優勝を目指して臨んだ、選手たち全員が初めてのインターハイはベスト8で幕を閉じた。
試合後、悔しさを噛みしめ、西村は言った。
「駿台はディフェンスがいいチームなので、簡単に決められないことはわかっていました。でも、それでも僕が決めなきゃいけなかった。決められなくて、先輩に申し訳ないです」
終盤まで競り合いが続く中、20-20から駿台学園が2点を抜け出した場面でも森田は西村のバックアタックを選択した。だが、渾身の一打はネットに阻まれた。
最後の1本は、その直後。
「陸さんが『海司に上げるから』って言ってくれて。そこで1本ミスしてしまったけど、もう1回、トスを呼ぶことができた。そこは少し、成長できたところでした」
1月の春高には10年連続で大阪代表として出場し続ける清風だが、インターハイは4年ぶり。3位になった2021年の大会以来だった。チームを率いる山口誠監督も「本当に苦しかった」と振り返る時間を経て、ようやくたどり着いた夏の大舞台。
選手たちにとっては初めてのインターハイだったが、中学でも実績を残してきた選手が揃う今年は、3月の『さくらバレー』(全国私立高校選手権)も初制覇。近畿大会も優勝、さらには高校だけでなく、大学やクラブチームも出場する天皇杯大阪予選も制し、大会前から優勝候補の一角に挙げられ臨んだ大会だった。
1年生エースの西村海司
高い攻撃力を誇る選手が揃う中、最も注目を集めたのが1年生エースの西村だ。181センチで最高到達点は338センチ、抜群の跳躍力を武器に清風中学だけでなく中学選抜でも主将を務めた。
高校入学直後からレギュラーの座をつかみ、この3年、苦杯を嘗めた昇陽高校との対決を制し、インターハイ出場を決めた直後は、「西村海司はこんなものか、と思われたくないプレッシャーはある」と吐露していたが、今回同様に優勝候補と挙げられる中で挑んだ昨年の中学での全国大会準決勝で敗れた悔しさを晴らす。初めてのインターハイは、自分の壁を乗り越えるための場所として位置づけ臨んだ大会でもあった。
「中学1年の頃から、僕は大事な場面で弱気になってしまって、逃げることが多かった。打たなきゃいけないところで、強気で打つことができなかったんです。清風中学の伊藤(晋治)先生にも『闘志を持ってやれ』と言われたので、中学3年間、バレーノートに『闘志』と書き続けた。
それで少しずつ変わることができたと思うんですけど、中学と高校ではかかるプレッシャーも違う。勝つのが難しいからこそ、みんなで1個ずつ、強さも雰囲気もつくっていきたいです」
だが大会直前、思わぬ試練に見舞われた。開幕を5日後に控えた24日、練習時に右足首を捻挫した。練習参加を見送り、できる限りの治療に専念し、チーム練習に合流したのは大会2日前。コートに立つ全員が「緊張した」と振り返る予選リーグ初戦、「全く緊張しなかった」と笑う西村には、もっと別の不安が頭を占めていた。
「足首が大丈夫なのか、ちゃんとできるのか。そればっかり考えていて。(インターハイ)予選の昇陽戦は、今までにないぐらい緊張したんですけど、今回は全く。こんなに緊張しなかったのも初めてでした」
試合と治療、並行しながら連戦を戦った。日に日に回復の兆しは見えつつあったが、試合が続き、強度が上がれば疲労も増していく。捻挫の影響だけでなく、なかなか調子が上がらずに焦り、時に苛立ちも露わにする西村に、再び闘志のスイッチを灯したのが決勝トーナメント初戦、高川学園(山口)との第1セットを終えた後、第2セットを迎えるまでのセット間に山口監督から発せられた激だった、と西村が振り返る。
サーブを打つ西村海司
「『勝たないかんとか、考えるのはやめろ。ここからが、お前らのバレーやぞ』と。先生はいつも熱く語ってくれるんですけど、僕自身、先生が言う通り、やるべきことが全然できていなかった。その通りや、もっと頑張ろう、って。あの時スイッチが入りました」
準々決勝と同日、ダブルヘッダーで行われた3回戦、川内商工高校(鹿児島)戦は第1セットを先取されたが、劣勢から石川叶真(2年)、伊藤匠太朗(2年)のサーブで連続得点し第2セットを取り返す。
西村も高い打点から叩き込むスパイクで得点し、フルセットの末に勝利を収めたが、準々決勝が開始されるのは試合終了からわずか1時間後。トータルディフェンスを武器とする駿台学園に対して、フルパワーで戦い切るだけの体力と気力は残っていなかった。
それでも、一時は出場も危ぶまれた捻挫も言い訳にすることなく、「3年生と戦う試合が少なくなっていく中、もっと3年生を勝たせてあげたかった」「身体が万全じゃなくても決めるのがスパイカーの役目」と言葉を絞り出す。
ずっと堪えていた涙が溢れたのは、コートを離れてから。山本航世コーチから肩を叩き労われると、西村はその場に崩れ落ちて顔を覆い、両手で涙を拭う。その姿を見た主将の下野巧輝(3年)が言った。
「万全じゃない状態でも海司は最後まで頑張ってくれた。もっとやりやすい環境をつくって、海司の持ち味を前面に出せるように頑張るのが自分たち3年の役目なので、もっと引っ張って行けるように。この悔しさを忘れずにチームが一丸となって、これからの毎日を大事に、もっと強くなりたいです」
清風高校は準々決勝敗退
4年ぶりのインターハイは終わったが、チームとして、エースとして一回りも二回りも強くなるための熱い夏はまだ始まったばかり。
「海司にトスを上げれば大丈夫、と思われるようなプレーをしたいです」
今日流した悔し涙を、これから先の嬉し涙に変えるために――。また、新たな一歩を踏み出していく。
文/写真:田中夕子
田中 夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。WEB媒体、スポーツ専門誌を中心に寄稿し、著書に「日本男子バレー 勇者たちの奇跡」(文藝春秋)、「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。「夢を泳ぐ」「頂を目指して」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」、凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること」(カンゼン)など、指導者、アスリートの著書では構成を担当
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