人気ランキング
コラム一覧
田中洸(川内商工高校)
スピードバレーに新たな武器を加えるスーパールーキー。194センチで最高到達点は344、今大会に出場する選手の中でも屈指の高さを誇るのが、川内商工高校(鹿児島)の田中洸(1年)だ。
左腕から繰り出すスパイク、サーブを武器に中学選抜にも選出され、今年2月にイタリアで開催された国際大会にも出場した。
数多くの高校から勧誘を受ける中、「一番情熱を感じた」という地元の川内商工へ進学。国内、国外で大舞台はすでに経験してきた田中だが、初めてのインターハイ、予選リーグ初戦の小松大谷高校(石川)戦は「めちゃくちゃ緊張した」と苦笑いを浮かべる。
「いつも通りの高さが出なくて、ブロックにまともに当ててしまった。中学と高校は全く別、どのチームも必死で、完全に飲み込まれました」
その言葉に違わず、第1セットは田中だけでなく、チーム全体が緊張からミスが相次ぎ、9-13と一時は4点をリードされた。中盤から主将の尾田原琉碧(3年)の攻撃を軸に得点を返し、終盤に同点とした後、田中のサーブで崩したところからミスを誘い、28-26で第1セットを先取。
川内商工は苦しみながらも初戦を突破
第2セットも小松大谷に先行されたが、流れを変えたのは田中のバックアタックとサーブだ。2本連続のサービスエースに加え、「一番得意なプレー」というバックアタックが要所で冴えた。
「ブロックを確認しながら、下へ叩きつけるのではなく、通過点を下げないように奥を狙う。中学の頃から、いろいろな先生方に教えられてきたことをプラスして、自分でもいろいろ方法を試しながら、こうすれば一番力が乗る、という打ち方を見つけて実践しています」
研究熱心な田中には、絶好のお手本もいた。
「宮浦(健人)選手のプレーを何度も見て参考にしてきたし、打ち方も真似しました。自分も将来は日本代表に入ってプレーするのが目標なので、宮浦さんのように小さな目標をコツコツ積み上げて、クリアしていきたいです」
高さという武器だけでなく、学ぶ姿勢とうまくなりたい、と熱心に練習する貪欲さ。そんな田中を川内商工の田代博明監督も高く評価する。
「今は高く放り上げるようなトスしか打てないですが、身体の使い方がうまいので、非常にしなやか。あの高さがあっても(下に)落とさないので、ブロックに当てて飛ばせるし、ミートもいい。世界を経験して、こういう打ち方じゃないとダメだ、とわかっているんでしょうね。
チームとしては、これまでずっとスピードを武器としてやってきた中で、田中の高さを活かすために今までとは違うバレーをさせていますが、ここからもっと、コンビも正確さを高めて、最後は田中が全部決める、という状態まで持って行きたい。非常に楽しみな選手です」
とはいえ、まだまだ課題もある。田代監督がニヤリと笑う。
「体力と筋力はまだまだ。入学してきた頃は腕立て伏せが3回しかできなくて、今、ようやく10回ぐらいできるようになったかな(笑)。逆立ちも他の選手は(コート横幅の)9mできるけれど、田中は半分しかいかなかった。身体づくりはこれからですね」
もちろん、田中自身も自らの課題は十分理解している。そして、積み重ねた成果も日々少しずつ、実感している、と笑う。
「入学からずっと続けてきたので、今は結構できるようになりました。逆立ちも8.5mまでは行けるようになったので(笑)、これからはウェイトトレーニングも、もっと意識して取り組んでいきたいです」
苦しみながら予選を突破し、決勝トーナメント初戦となった2回戦は、大分南高校(大分)に2-0で勝利し、31日の3回戦進出を決めた。
田中のサーブ
同じ九州勢ということもあり、試合序盤は「自分たちの戦い方のパターンや、嫌なことをわかっている相手なのでやりづらかった」と言うが、試合終盤には予選リーグに続いて田中のサービスエースで点差を広げ、チームに勝利をもたらした。
田中自身は「3年生に引っ張ってもらった」と感謝を述べるが、セッターの宝満大空(3年)はルーキーの活躍を称える。
「周りと違ってすごく高さがあるので、速さよりも高さで勝負させられるトスを上げるようにしています。上げれば決めてくれるので、本当に頼もしいです」
3回戦は大阪代表の清風高校と対戦。3月の『さくらバレー』(全国私学大会)で優勝、4年ぶりに出場を果たしたインターハイでも、優勝候補の一角に上げられる、攻守のバランスが整ったチームだ。
さくらバレー直前に一度対戦経験はあるが、勝利したのは清風。日本一という目標を達成するために、必ず戦わなければならない相手ではあるが、決勝トーナメントを見た時には「『うわ、清風いるぞ』と思った」と笑う。
「1人1人の攻撃力が高くて、ミスが少ない。自分たちのミスが1つでも出たら終わりだと思っています」
西村海司(清風)と田中(右)
強敵との対戦、というだけでなくもう1つ、田中には楽しみもある。清風には中学選抜でともに戦い、選抜チームの主将を務めた西村海司(1年)がいることだ。
「とにかくバレーがうまいし、尊敬しています。インターハイとか、こういう大きい大会でしか対戦する機会はないので、(中学選抜の)ジャパン同士で戦えるのは嬉しいし、自分のほうが負けていると思ったら絶対に負けるので、勝ちに行くつもりで臨むし、勝って自分の経験につなげたいです」
新たなステージで、ライバルたちとしのぎを削る。そのすべてが、伸び盛りの田中にとって得難い経験だ。
文/写真:田中夕子
田中 夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。WEB媒体、スポーツ専門誌を中心に寄稿し、著書に「日本男子バレー 勇者たちの奇跡」(文藝春秋)、「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。「夢を泳ぐ」「頂を目指して」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」、凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること」(カンゼン)など、指導者、アスリートの著書では構成を担当
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
J SPORTSで
バレーボールを応援しよう!
