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初勝利を収めた関根学園(新潟)
『全国高校総体』(インターハイ)のバレーボール競技男子。全国大会初出場で初勝利。新潟代表の関根学園高校が予選リーグを突破し、決勝トーナメント進出を果たした。
対戦したのは滋賀代表で22年連続40回目の出場を誇る近江高校。伝統校といきなりの対戦に、抽選が決まった瞬間は少なからず動揺があった、と春日正史監督は明かす。
「最終的には『やってやろう』となって、本日を迎えましたが、抽選会のライブ映像を見ていた時は、みんな、『えー』という感じでした(笑)。試合で、よくここまで堂々と勝負してくれたと思います」
全国に出るまでの道のりと同様に、全国で初勝利をつかむのも簡単ではない。1セット目は25-20で先取したが、2セット目は18-25で近江が奪取。セットカウント1-1で迎えた第3セットも、序盤は近江が7-11と4点を先行.
追う展開を強いられる中、「レギュラーの6人、7人だけじゃなくチーム全員で戦う」という姿勢を自ら先頭に立って示したのが、エースで主将の竹田尊飛(3年)だ。
前衛から、後衛から「自分に上がるトスは1本目、2本目をつないでもらったおかげ。全部決めてやる、と思っていた」という言葉の通り、近江のブロックが並ぶ中でも次々得点をもぎ取る。
そして最大の見せ場は終盤に2度、訪れた。
19-19で並んだ場面で、関根学園はリリーフサーバーに宅間蒼(3年)を投入。コートに入る宅間を竹田や、スタメンの面々が両手を掲げて笑顔で迎え、満面の笑みでコートインした宅間が「ここに打てば崩れる、と自信を持って打った」というサーブで狙い通りに近江の守備を乱す。
ハイセットからの攻撃を宅間が自らレシーブし、つないだボールを最後に決めたのが竹田だ。
「絶対に自分へトスが上がってくると思ったし、上げてくれ、絶対決める、と思ってトスを呼びました」
セッターの番場翔(2年)が竹田にトスを託すのを見て、レシーブした宅間も確信した。
「どんな時も絶対決めてくれる、自分たちが尊敬するエース。決めてくれると信じていました」
竹田のスパイクで20-19と抜け出すした関根学園は、その後も宅間のサーブで崩したところから連続得点し、21-19と点差を2点に広げた。
さらに23-21の場面では、竹田のサービスエースで24-21。マッチポイントから2点を返され24-23と1点差まで迫られたが、最後も竹田のバックアタックが決まり25-23、セットカウント2-1で待望の初勝利を挙げた。
エースで主将の竹田尊飛(中央)
苦しみながらも決めるべきエースが決める。エース勝負を貫いてきた関根学園の強さを発揮した試合となったが、実はその背景には勇気を出して飛び込んだ結果、選手たちの成長へとつながる、1つのきっかけがあった。
2024年1月、竹田が2年生の冬だった。
全国大会出場を目標に掲げながらもなかなか勝ち切ることができない。何が足りないのか。何をすべきか。悩む春日監督に、元バレーボール選手である友人が言った。
「全国で勝負したいと思うなら、全国で勝っている強豪と言われるチームと練習試合をしないとダメなんじゃないかな?」
その友人が「この人ならきっと受け入れてくれる」と紹介してくれたのが、当時、駿台学園高校(東京)を率いた梅川大介監督だ。
2023・24年の春高を連覇しただけでなく、戦術や選手育成も含め、高校男子バレー界をリードする存在といっても過言ではない。当時を思い返し「勇気がいることだった」と明かしながらも、それでも一歩踏み出した理由を春日監督はこう説く。
「伝統校、強豪校は全国にありますが、今この時代に勝っている、勝ち続けている学校の指導者の方にぜひ、学ばせていただきたかった。あの指導論を選手にどうやって伝えているのか、対話の部分でもものすごく勉強になりましたし、何よりすごいのが梅川先生は持っているものをすべて教えてくれる。
最初は(練習試合で)9点しか取れなくて、逆に失礼だと思うこともありましたが、勉強させてほしい、としつこく何度も練習試合をしていただいて、本当にありがたかったです」
指導者としての学びを春日監督が得ただけでなく、選手も同じ。竹田も託されたボールを決める、エースとして果たすべき仕事だけでなく、勝つために為すべきことは何かを学び、考えるきっかけを得たと振り返る。
「関東の強いチームは、どこを見ても1人のエースだけが決めるチームはない。全員がそれぞれの仕事をして、フォローして、あとは託す。全員バレーをしているのがすごく印象的でした。
ベンチ外の選手も一緒に戦った
その頃は自分が決める、自分が、自分が、という意識だったんですけど、それでは勝てないな、と思って、全員で戦う、戦おうという意識が強くなった。今日(29日)の試合は、まさにその気持ちがつながった結果でした」
予選リーグを終えた後、決勝トーナメントの組み合わせが決まった。関根学園は浜松修学舎高校(静岡)と対戦が決まった。春日監督は「初出場の自分たちは、どんな相手に対しても臆さず向かっていくだけ」と言うが、竹田には対戦したい相手がいる。
「東山高校(京都)とやりたいです。齋藤航(3年)くんと岩田怜緯(2年)くん、小澤風雅(3年)くんは同じ新潟出身なので。中学までは一緒に戦っていたけど、彼らは新潟を出て強豪へ行った。自分たちは地元に残って、ここまで上がってこられた。どれぐらい勝負できるのか試したいです」
東山は明日(30日)の初戦で雄物川高校(秋田)と対戦する。互いが勝ち進むことができれば、両校の対戦は準決勝で実現する。
まずは1つ1つ。1人1人が役割を果たし、力を尽くす。初めての全国大会を1つでも多く味わいたい。
文/写真:田中夕子
田中 夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。WEB媒体、スポーツ専門誌を中心に寄稿し、著書に「日本男子バレー 勇者たちの奇跡」(文藝春秋)、「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。「夢を泳ぐ」「頂を目指して」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」、凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること」(カンゼン)など、指導者、アスリートの著書では構成を担当
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