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バレーボール コラム 2025年6月16日

西本圭吾の告白。SVリーグのブロック賞を呼び寄せた決心と覚悟のブロックシャット

SVリーグコラム by 坂口 功将
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オールスターでの西本圭吾(当時・東レアローズ)

今年6月5日に行われた、バレーボール男子日本代表のキックオフ会見。その壇上で西本圭吾(広島サンダーズ)は言葉に力を込めた。

「常識をくつがえせるように、自分らしさを出して戦いたいです」

くつがえす常識。それはネットスポーツであるバレーボールにおいて、ときに絶対的な有利不利を生むもの。身長である。

西本の身長は189cm。プレーするミドルブロッカーにおいては決して大きくない。190cm後半もとい、200cm台は日本人選手でも標準装備となってきた。日本代表となれば、なおさらだ。そこに関して西本はきっぱりと言う。「もう現実として受け入れるべきところだと思います」と。

それでも、「大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)」で「トップブロッカー」(1セットあたりのブロック決定本数:0.618本)の個人タイトルを獲得。さらにはレギュラーシーズンのベスト6に選出されている。

「自分は何事も日本一になったことがなかったので。初めて日本一を手にすることができて、本当にみんなに感謝しています」と受賞を喜んだ西本。そのシーズンでは1つの決心とともに戦っていた。

これまでのキャリアを振り返るとトップブロッカー、いわゆる技術統計のブロック部門(1セットあたりのブロック決定本数)に関していえば、東レアローズ静岡で、本格的にレギュラーに定着してから2022-23シーズンは全体4位、2023-24シーズンは同2位にランクインしてきた。

1つの勲章としてナンバーワンがほしい。当然その思いを抱きつつも、この2024-25シーズンは「獲れると思っていなかった」と本人は明かす。

「シーズンが始まってからも全然調子が上がってこなかったですし、リーグ全体のレベル自体が高くなっていましたから。(ブロック賞は)なかなか難しいなというのが正直な気持ちでした」

シーズン中盤には「ブロック賞にこだわるのはやめよう」とまで思うほどの出来だったという。そんな西本を奮い立たせたのは、支えてくれた家族たちだった。

「特に妻と母親が本当に僕をプッシュしてくれたんです。妻は『大丈夫。圭吾くんなら絶対にいけるから』と言ってくれました。母親は僕の『ファン第1号』として、ずっと応援してくれています。妻と母親それに周りの方々が、僕のことを僕以上に信じてくれていたので。その思いに僕は応える義務、責任があるなと感じましたし、それが力になりました」

やがてシーズン後半にかけて、ブロックに磨きがかかっていく。「練習を重ねて、試合を追うごとに感覚もよくなってきました。周りともうまくコミュニケーションを図ることによって効果的なブロックタッチや、キルブロックが出るようになりました」と西本。

気づけば、ブロック部門ではリーグ1、2位を争う位置に立っていた。そうしてレギュラーシーズンも大詰めに。その最終節、4月12日、13日に敵地で臨んだ大阪ブルテオン戦で西本は腹をくくった。すべてブロックで止めにいく――。そう、ただひたすら個人タイトルを目掛けてコートに立ったのである。

「完全に、もう全部を止めにいきました。ブロック賞を獲りにいくためです。これはチームとして考えたときに、本当は良くないことだとは分かっていました。たとえどう思われたとしても…」

ベスト6にも選出された西本圭吾

葛藤はあったが、その並々ならぬ思いをプレーにぶつける。初日は3本、そして2日目には両チームを通して最多となる6本ものブロックシャットをマーク。結果として、1セットあたりわずか0.001本差で2位のドミトリー・ムセルスキー(サントリーサンバーズ大阪)を上回り、西本は自身初のトップブロッカーに輝いたのであった。

「うれしさも安心も両方ありましたし、それが入り混じった…、これまでに味わったことがない感覚でした。自分のプレッシャーをかけていましたから。今までは2位が最高で、1位を獲るためにはどうすればならないかを考えていましたし、やはり1位と2位では大きな差があるんです」。

「ブロック賞を獲れるかどうかが、恐らく『自分が本物になれるかどうか』の分岐点だと。もちろん、自分1人の力で獲れるものではないですけれど、それをまず手にすることができて自信になりました。1位になれたことで、新しい自分を見つけることができました」

そこで芽生えたのが、常識を打ち破る、その覚悟だった。

「自分の中で、身長が低くてもトップブロッカーになれたことはとても価値があることだと思っていました。ですが、その考え方自体も、自分の可能性や限界を決めていたな、と捉えています」。

「『小さいから』と自分でも口にするとはいえ、やはり世界に出れば身長の低さはまったくもって言い訳にならないですし、そのうえで戦っていかなければならない。今回、個人賞を獲ったことで、『自分の中で常識を作ってしまっていたな』と気づけたのが一番の収穫でした」

日本代表の活動もスタートし、またこの先もクラブシーズンを含めて、自身のキャリアは続く。そこでは、どんな常識もくつがえしていくに違いない。本物になれた、その確かな実感を己の武器として。

文/写真:坂口功将

坂口 功将

スポーツライター。1988年生まれ、兵庫県西宮市育ち。
「月刊バレーボール」編集部(日本文化出版)で8年間勤めたのち、2023年末に独立。主にバレーボールを取材・執筆し、小学生から大学生、国内外のクラブリーグ、そしてナショナルチームと幅広いカテゴリーを扱う。雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、バレーボール関連の配信番組への出演やイタリア・セリエAの解説も務める。

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