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山内美咲(NECレッドロケッツ川崎)
5月3日、有明アリーナ。「大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)」女子のチャンピオンシップ ファイナルは佳境を迎えていた。
GAME1を制した大阪マーヴェラスがこの日も開始から2セットを連取。対するNECレッドロケッツ川崎は崖っぷちの第3セット、点の取り合いが続くなか、12-12の場面で2枚替えを繰り出す。コートに送り込まれたのはセッターの中川つかさと、今季限りで現役を引退するアタッカーの山内美咲だった。
「もうあとがない状況で。『勝ちたい!!』という気持ちをコートで出せる。その喜びを表現しようと心を込めてプレーしました」(山内)。
だが、堅守を誇る大阪MVがここから一気に点差を広げ、山内も13-17からブロックシャットを浴びる。それでも13-20からは力強いアタックで連続得点を決めた。
現役ラストゲームを終えた山内美咲
結果的に追撃は及ばず、このセットを落として2敗目を喫したNEC川崎は準優勝で2024-25シーズンを戦い終えた。試合直後は目を真っ赤にさせていた山内だが、いざ取材に応えるときには、いつものはつらつとした表情を取り戻す。大阪MVの印象を聞くと、相手をたたえた。
「隙がない、といいますか。マーヴェラスさんのこれまでの経験が詰まった試合だったと感じました。昨季はレギュラーシーズンで全勝優勝したけれど最後の決勝を落とした、という経験を踏まえて、この舞台に立っていた部分はあると思います。昨日の試合(GAME1)で勝っても決して気を抜いていない雰囲気がありましたし、自分たちのやるべきことを淡々とやる、そんな印象でした」
「私もチームも、明日(GAME3)に持ち込んでやり返す気持ちでいたので。まさかこの形で終わるとは、という思いはあるんですけど…。マーヴェラスさん強かったなぁ~」
敗れた悔しさ、優勝を逃した悲しさ。そして、これが自身にとって現役生活最後の試合になったことへの言い知れぬ感情。恐らくはそうした思いが巡っていたと想像するが、その口ぶりからは清々しさを感じさせた。もっとも、それは山内のキャラクターそのものだった。
チームを引っ張り続けた山内美咲
「ずっと明るくて、コートの上にいてもいなくても存在が大きい」
山内をそう表現したのは、チームメートでミドルブロッカーの山田二千華。山田がNEC川崎に入団して2年目の2019-20シーズンから、山内はキャプテンを3シーズン務めた。
まさにプレーでチームを引っ張るタイプであり、同時にその明るい性格は仲間を惹きつけた。そしてアタックを決めれば、その1得点以上の流れをチームにもたらした。
「1点に懸ける思いが本当に強くて、言葉でもプレーでもそれを体現してくれる選手でした。チームが欲しいときに1点を取ってくれるのが心強かったです」(山田)。
その存在に感謝を惜しまなかったのは金子隆行監督も同じ。山内と、今季かぎりで引退する塚田しおりに対して、シーズン閉幕となったファイナルGAME2の試合後記者会見でこのように語った。
「2人ともこのチームが大好きで、毎日努力してくれる選手でした。チームの土台を支えてくれたので、そうした選手が抜けるのはチームとして不安な部分もありますが、そこは新たな土台となってくれる選手が出てくれるはず」
「彼女たちとここまで、シーズンで一番長く過ごせたことがうれしいですし、心残りを言えば優勝したかった。勝たせることができなかったのは監督として重く責任を感じています。ですが、何より彼女たちの意思を理解しつつ、2人にはお疲れ様と言いたいです」
2017/18シーズンからNEC川崎に入団して以降、チームを支えてきた山内。そのユニフォームを脱ぐこの日、こんな思いを口にした。
「自分たちのチームは伸びしろしかないので。この経験を来シーズンに託したいなと思います」
準優勝のNECレッドロケッツ川崎
「レッドロケッツで過ごした時間は本当に楽しかったです。思いきりバレーができて、仲間とは本音で話をした。バレーボールを通じて出会った大切なご縁ですし、どれもが私にとって宝物だなと感じますね。悔いはないです!!」
そう語った口元で白い歯がキラリと光る。最後まで、彼女らしい姿を見せてくれた。
文:坂口功将/写真:(C)SV.LEAGUE
坂口 功将
スポーツライター。1988年生まれ、兵庫県西宮市育ち。
「月刊バレーボール」編集部(日本文化出版)で8年間勤めたのち、2023年末に独立。主にバレーボールを取材・執筆し、小学生から大学生、国内外のクラブリーグ、そしてナショナルチームと幅広いカテゴリーを扱う。雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、バレーボール関連の配信番組への出演やイタリア・セリエAの解説も務める。
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