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高橋和幸(ジェイテクトSTING愛知)
「大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)」男子のチャンピオンシップはいよいよファイナルが5月3日から開催される。
天皇杯全日本バレーボール選手権に続くシーズン二冠目を目指す前年度リーグ王者のサントリーサンバーズ大阪と対決するのは、2019-20シーズン以来の優勝をねらうジェイテクトSTINGS愛知。
チームは今季、「世界最高峰を目指す」として装い新たに始まったSVリーグを象徴するかのように、超強力な補強を敢行した。
まさに、それはオールスターとも言えるような顔ぶれだった。もとよりチームの司令塔は日本代表セッターの関田誠大が就いていたが、攻撃陣としてアウトサイドヒッターにはアメリカ代表のトリー・デファルコと、ブラジル代表のリカルド・ルカレッリが外国籍選手として入団。
そこにオポジットの宮浦健人が3季ぶりに復帰したほか、ミドルブロッカーは直近3季連続でブロック賞に輝いている高橋健太郎(高ははしご高)が、そしてリベロにはこちらも過去3度のベストリベロ賞と、サーブレシーブ賞を獲得している小川智大が移籍加入を果たした。
その超豪華メンバーが並んだ今季のSTINGS愛知で、キャプテンを務めることになったのが在籍3季目の高橋和幸である。
これまでにも、選出された日本代表Bでは副キャプテンに就いた経験もあり、そこでは「チームをまとめることや、試合に出た時にはムードを変えることなどは、キャプテンという立場としてやってきました」と本人。
年齢は25歳、所属歴からしても『若手』の部類に入るとはいえ、「ときには年上の人にも自分の意見を言わなければいけないのは確かですから。それはキャプテンだから、ではなくてもですが。なので、年下の選手たちにとっても発言しやすい環境をしっかりと作ってあげたいと思っています」とは高橋なりの、その責務との向き合い方だった。
ファイナル前日会見
そんな若きキャプテンが率いた2024-25シーズン。その集大成となるファイナルの前日会見で、ミハウ・ゴゴール監督は高橋のキャプテンシーをこのようにたたえた。
「和幸はチームにとって大きな財産とも言える存在です。スーパースターがいるチームにおいて、キャプテンとしてまとめるのは大変なこと。ですが、とても素晴らしい働きをしてくれました。ときにはコートの中だけではなく、コート外において、選手とスタッフの間をつなぐ役割をしてくれました。
私たちスタッフ陣の声をチームに届けることもそう、要望や理解を得ることも、です。今、この舞台にいるのは彼の働きがあってこそ。ありがとう、と言いたいですね。そして今は、私を信じてほしいです。これからの戦いはけっして簡単ではありませんし、多くのサポートが必要です。なので、大きな働きを今回もお願いしたい」
記者会見の場で隣にいる高橋へ「アリガトウゴザイマス」と感謝の言葉を口にしたあたりに、その信頼感がうかがえた。
その一方で、高橋本人にとっては苦難を伴うシーズンだったことも確かだ。順天堂大学を卒業してSTING愛知へ入団したとき、同じポジションはベテランの本間隆太が不動の司令塔を務めていた。
その本間が昨季かぎりで現役を退き、いざ次は…と思いきや、今度は日本最高峰クラスのリベロである小川が入団してきた。「最初はやっぱり気持ちの面で難しかったです」と高橋本人が明かすのも無理はないだろう。
それでも代表シーズンを終えて、小川たち新加入メンバーが合流したときには、高橋も前向きに捉えていた。昨年9月26日の公開練習にて、自身の思いをこう語っている。
「今はほんとうに切磋琢磨して取り組めています。もう小川選手を超える存在にならなければいけない、と思っていますし、自信を持ちながら自分なりに頑張っていきたいです」
苦しい場面での出場が多い高橋和幸
いざシーズンを通して、出番自体は限られた。主にはレシーバー、いわゆる『守備固め』での起用だった。否応がなしに、チームが苦しいシチュエーションで出番がやってくるわけだが、そこでコートに立つ高橋の胸の内はこうだ。
「ワクワクというか。ちびったらおしまいなので、弱気にならずに。自分にやれることをやっていこう、という感覚です。チャンスがあれば、そこでは自分のプレーをできるように自信を持って臨んでいます」
そんな思いを語ったのはチャンピオンシップのセミファイナル、大阪ブルテオンとのGAME1のあと。その試合の第4セット、レシーバーとして投入されていた高橋は20-16の場面で大阪Bのアタッカー、ミゲル・ロペスの弾丸サーブ、それもネットすれすれを通過した、ほぼ直線軌道のボールを真上に上げることに成功していた。その後、チームはラリーを制してサイドアウトに成功。
「打たれた瞬間に、手元にボールがきていたので(笑)。とにかく上げようという気持ちでしたし、上げれば、みんながカバーしてくれるので。キープすることができて、チームとしても粘って得点できたことが大きかったです」
ロペスのサーブという強敵・大阪Bの強みをかき消す、その一手として十分な働きだった。
さて、SVリーグ王者の座をかけた戦いの火蓋が切られる。サントリー大阪もドミトリー・ムセルスキーを筆頭に、決定力の高いサーブの打ち手がずらりと並ぶ。そこでは高橋の出番がやってくることだってありえる。むしろ、たとえコートに立たずとも、高橋がやるべきことは変わらない。
「自分が試合に出ていないときでも、タイムアウトなどで共有できる情報はしっかりとメンバーに伝えて。いざコートに入ったときは自信を持って、いい方向に流れを持ってきて、チームを勝たせたいと考えています」
ふと気づく。幾度となく、高橋の口から発せられる「自信」の2文字。それはSTINGS愛知で主力を張るトッププレーヤーたちが携えているものだ。そして、それを常に抱きながら戦っている高橋もまた、その1人であるということを。
その面々でいよいよ挑むファイナル。シーズン開幕前に語っていた、高橋の言葉。
SVリーグ初代王者に挑む
「このチームで戦えること自体が非常にワクワクしますし、楽しみでいっぱいですね。それは自分が出ていても、出ていなくても。もう見ているだけですごい選手がたくさんいるわけですから。このチームが勝っていくことで、日本中に『バレーボールがおもしろい』ということを伝えられるかなと思うんです」
豪華で強大なメンバーたちがまばゆいばかりに、スポットライトは当たりにくいかもしれない。けれども、その存在なくしてチームは成り立たない。高橋和幸こそバレーボールの、チームスポーツとしてのおもしろさを見るものに教えてくれる。
文/写真:坂口功将
坂口 功将
スポーツライター。1988年生まれ、兵庫県西宮市育ち。
「月刊バレーボール」編集部(日本文化出版)で8年間勤めたのち、2023年末に独立。主にバレーボールを取材・執筆し、小学生から大学生、国内外のクラブリーグ、そしてナショナルチームと幅広いカテゴリーを扱う。雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、バレーボール関連の配信番組への出演やイタリア・セリエAの解説も務める。
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