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バレーボール コラム 2025年4月18日

個人三冠を獲得したニミル アブデルアジズ、ウルフドッグス名古屋が誇るSVリーグ最強アタッカーの素顔と本音

SVリーグコラム by 坂口 功将
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ニミル アブデルアジズ(ウルフドッグス名古屋)

いよいよ、4月18日から開幕するチャンピオンシップを前に、「大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)」の2024-25シーズン、レギュラーシーズン個人表彰受賞者が発表された。

その中でも男子はトップスコアラー(最多得点)、トップスパイカー(アタック決定率)、トップサーバー(サーブ効果率)の個人三冠に、ウルフドッグス名古屋ニミル アブデルアジズが輝いた。

「世界最高峰のリーグ」を目指してスタートしたSVリーグ。その初年度の2024-25シーズンにおいて、まさに世界最高峰のパフォーマンスを披露した1人が、このニミルだ。

レギュラーシーズンで重ねた得点数は実に『1181』で、男子選手では唯一の大台越え。さらにアタック決定率57.5%、サーブ効果率17.7%は、2位の選手を2%近く引き離すダントツの成績だった。

ちなみに個人賞の対象にはなっていないが、サーブ得点『117』も、2位の数字が西田有志(大阪ブルテオン)の『77』という点からすれば、いかに他を圧倒しているかがわかるだろう。なお、ニミルは全試合・全セットにフル出場を果たしており、その鉄人ぶりには感嘆しか漏れない。

そのニミルは試合中、激しいリアクションを辞さないことはチームのファンのみならず知られたこと。レフェリーの判定に対して食い下がるだけでなく、ときにホームゲームでは記録席のそばに座っていた、WD名古屋の横井俊広代表取締役社長を巻き込んで強く訴える場面も。

イエローカードを受けるニミル

シーズン序盤ではイエローカードが提示されるシーンも少なくなく、お決まりのようになっていた。逆にあるときの試合では、レフェリーに食いつこうしたチームメートのティネ ウルナウトをニミルが制止し、おそらく関西人なら「お前が止めるんかい!!」とツッコんだであろう一幕もあった(そのときは客席からも温かい笑いが)。

一見、ニミルのそうした立ち居振る舞いは激情的な一面に写るだろう。それ自体は予見されたことでもあり、実際、シーズン初戦の東京グレートベアーズ戦では、アウトオブポジションが指摘されて猛烈に抗議。チームの今季イエローカード第1号となっている。

ただ、その直後のプレーでニミルはアタックを決めきった。そのトスを選択したセッターの深津英臣は、その意図をこう明かした。

「ああいう判定が下され、ストレスも抱えたことでしょう。ですが彼は海外で様々な経験をしていますから、そこで切り替えてエネルギーに変えられる選手だと僕は信じていました。例え納得はいかなくても、顔色を見れば、もう次のボールに集中していたので。そこは問題なく託せました」

判定が覆ることなく不服そうな表情も、なおかつ引き下がらない姿は駄々をこねているようだ。けれども、気持ちをすぐに切り替えているのは確かで、それはコート上のチームメートたちにも伝わっている。

世界最高峰のパフォーマンスを披露したニミル

仮に、自分自身のミスで失点した場合でも、すぐに「次はどうしよう」と次の1点にフォーカスしているのだ。ヴァレリオ・バルドヴィン監督はそうしたニミルのメンタリティを学ぶよう、選手たちに伝えていた。

そのメンタル面やリアクションも含めて、ニミルの影響力について深津はこのように語る。

「やっぱり勝ちたいから、そういうところでアピールしていると思います。ほかの選手に『オレは勝ちたいんだ』という姿勢を、リーダーの1人として示しているのだと。その姿を見て、周りももう一段階、気合いが入りますしね。

僕自身もけっこう『食いつく』タイプだと思っていますが、それでも試合の流れを止めることなく、常に自分たちが有利になるように、とは考えています。そのあたりもコントロールしていかなければなりません。

その点に関して、ニミルは熱さのなかにも冷静さがある。それが、あの決定力の高いスパイクを生んでいるのだと思います。本当に常に、それに大事な1点を取るときも、まずは僕のトスを、そこから相手のブロックを見て打つ。フラストレーションを抱えたときにはもう感情だけで打つ選手が多い中、冷静さを失わずに決める姿を見て、つくづくすごいなと感じます」

ニミルが闘志をむき出しにすることでチームが1つになる。それはレギュラーシーズン3位通過を果たしたWD名古屋の強さにつながった。と同時に、ニミルが持つ影響力の大きさは熱い姿勢だけではなく、その声かけにも表れる。

第2セットを終えてからの15分間のインターバルでは、劣勢の場合はチームを奮い立たせる言葉を投げかける。仲間がミスをした際には、当人の両肩に手をやり、目と目を合わせて言葉を送る。

深津と話すニミル(左)

さらには壮絶なロングラリーを制してメンバーが喜ぶなか、すぐさま深津の元へ歩み寄り、「いいプレーが出たけれど、ホッとせずにもっともっといくぞ」とうながしたこともあった。

それらの声かけに救われ、背中を押されたチームメートは数知れず。ミドルブロッカーの小山貴稀はその1人で、コート上でのニミルとの会話をこう明かした。

「基本的には、英語で一言二言。事前のデータを確認し合うわけですが、実はニミルの言葉って、めちゃくちゃ落ち着くんですよ。トーンというか、リズムというか。『これにいけ!!』と焦らす感じではなくて、『これを頼むよ』という具合。

英語なんですけどね、どこか安心感を持ってプレーに移れます。間違えていたら修正するためのアドバイスをくれますし、ときには『今のはよかったよ』とも。そんな声かけを受けて、自分も学ぶところがあるなと思いますから」

仲間への声掛けをするニミル

破壊力満点のプレーに加えて、仲間に及ぼす影響力とリーダーシップ。それらがニミル アブデルアジズというバレーボール選手を、トッププレーヤーにたらしめている。そうして驚異的なスタッツを持ってして、個人三冠という勲章を手にしたわけだが、当の本人は自身の成績について、このように語った。

「私が試合において見ている数字はただ1つ。3セットを取ったのは誰か、それだけです。その数字が最も大事なもの。もちろんチームのために自分のベストを尽くしますし、そこではできる限り得点したいと思っています。

ですが、たとえ自分が1点しか取れなくても、逆に40点を取ったとしても、試合で手にする3セットの価値は等しいものです。確かに今季はたくさんの得点を挙げましたが、そのレベルを保つことができただけ。自分のスタッツに関してはまったく気にしていません」

パフォーマンスは孤高の境地に達していても、フォア・ザ・チームの精神は決して揺らぐことはない。いざ始まるチャンピオンシップでも、その『価値ある3セット』をつかむべく、この最強アタッカーは腕を振り抜くのだ。

文/写真:坂口功将

坂口 功将

スポーツライター。1988年生まれ、兵庫県西宮市育ち。
「月刊バレーボール」編集部(日本文化出版)で8年間勤めたのち、2023年末に独立。主にバレーボールを取材・執筆し、小学生から大学生、国内外のクラブリーグ、そしてナショナルチームと幅広いカテゴリーを扱う。雑誌、ウェブメディアへの寄稿のほか、バレーボール関連の配信番組への出演やイタリア・セリエAの解説も務める。

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