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青柳京古(東レアローズ滋賀)
44試合、これまでにない長いレギュラーラウンドが終わった。
チャンピオンシップへ進む男子6チーム、女子8チームが決まったが、男女ともに順位が確定したのは最終節。
まもなく始まるクォーターファイナルでも熾烈な戦いが繰り広げられるであろう期待は高まるが、4月12・13日に行われた女子レギュラーラウンド最終週では、すでに優勝を決めた大阪マーヴェラスと、東レアローズ滋賀が対戦。
長いラリーの応酬が続く好ゲームを制した大阪の総合力、組織力の高さに感服しながらも、気づけば試合の間、東レ滋賀の1人の選手に釘付けになっていた。
今季、移籍加入したミドルブロッカー、青柳京古だ。
なぜ彼女のプレーから目が離せなくなったのか。理由は明確。1人のミドルブロッカーとして自分が活きるだけでなく、周りの選手も活かす。当たり前のことを最初から最後まで貫く姿に惹かれたからだ。
青柳京古、どんな状況でも常に全力で跳ぶ
何度も繰り返されたラリーの最中も、彼女はとにかくサボらない。『サボらない』というと語弊があるかもしれないが、青柳はどんな状況でもアタックラインの後方までしっかり下がって助走に入り、トスが上がる、上がらないにかかわらず常に全力で跳ぶ。
ブロック時も簡単に諦めず、トスを見て上がった場所へ素早く移動することを怠らない。その結果、キルブロックだけでなくタッチ数も多く、自チームのチャンスに何本もつなげた。
自分以外の選手が攻撃した際のブロックフォローも怠らず、自分だけでなくチーム全体が攻撃しやすい状況をつくることを常に意識しているので、ラリーの最中に青柳が1本目のチャンスボールを上げる時は、ふわっと高さを出してセッターに返球する。
その『間』を使ってアタッカー陣は、それぞれ攻撃準備に入ることができるだけでなく、セッターの田代佳奈美がトスを上げる際も十分な余裕があった。
数字だけに目を向けても25本のスパイク打って決定本数は15本でミスはゼロ、決定率60%という活躍だけでなく、献身的という言葉だけに留まらないプレーを怠らず、すべて当たり前のこととして試合の最初から最後まで徹する。
加えて、試合全体の流れに対してや、自身のプレーに対する分析や発する言葉も実に的確だった。
たとえば客観的に自分のプレーを分析し、1試合の中でこれほどミドルの攻撃を多用し、決定率も高い数字を残せば、当然青柳の攻撃に対して相手の警戒は当然高まる。
実際に試合で大阪がブロックシステムを変えたことに言及したうえで、そうなれば、「途中から(相手ブロックが)ヘルプについたので、ブロッカーがいない逆方向に打ちたくなるけれど、打つとレシーバーがいて上げられる。そういう精度がさすがだと思った」と相手の組織力を称える。
そのうえで青柳はセッターの田代からの助言を受け、途中からはブロックを抜くのではなく、「上から奥のコースを狙って打つと面白いように決まった」と笑みを浮かべる。
「相手のディフェンスもすごかったけれど、自分がやりたいこともできた。ワクワクした気持ちで臨めた、いいゲームでした」
決して派手さがあるわけではないが、自分を活かし仲間も活かす。サボらない助走やチャンスボールを例に、献身さを貫く裏側にはどんな意識を持ってプレーしているのかを尋ねると、青柳の目から涙があふれた。
「それが私の強みだと思って、ずっとやってきました。でも、なかなか気づいてもらえなかった。私のプレーを見て、そう思ってもらえたことが素直にうれしいです」
長野日大高校、愛知学院大学を経て、2014年に上尾メディックス(現・埼玉上尾メディックス)に入団。V2リーグからV1で優勝争いをするチームへと押し上げた。昨シーズンは通算230試合出場も達成し、ベスト6も初受賞。SVリーグ元年となった今季、東レ滋賀へ移籍した。
だが、開幕前に肩を負傷した。スパイク、ブロックも満足にできない状態からリハビリを経てプレーに復帰するも、ハードヒットはできない。
青柳の持ち味は、スピードに合わせて小さく腕を振るだけの速攻ではなく、セッターがトスを上げる前からしっかり助走して、十分なジャンプで到達した最高打点からボールを叩くこと。
その長所も活かせないのではないかと苦しんだが、それでも自分には消えることのない強みがあること。そして、たとえすべてのスパイクをハードヒットできなくてもできることがある、と自分を貫くことで奮い立たせてきた。
「パワフルなスパイクを打てなくなってしまったけれど、私の強みは全力で助走に入って相手(ブロッカーを)釘付けにさせて、自分も周りも活かすこと。横の人をよくするために、全力で助走に入れば相手を惑わせると思って、変わらず全力で助走に入り続けました」
試合だけでなく日々の練習から何ができるか。徹底して向き合い、取り組む。その姿を見てきた越谷章監督は「コンディションが悪くても、練習でも絶対に手を抜かずにやるから、周りに与える影響も大きかった」と語る。
また、青柳より1歳上の田代佳奈美は「とにかくハードワークする選手なので、若い選手にとってもいい刺激になっている。ベテランとしてチームを引っ張り、若い選手と盛り上げることもできるのは青柳選手だけ」と称える。
開幕直後は青柳も本調子ではなかったが、痛みが軽減し、満足行くプレーができるようになってからはチームも勝利を重ねてきたことが、欠かせぬ存在である何よりの証だ。
青柳京古、今季一番と語った最終節
そして青柳が「今季一番」と笑顔で振り返ったのが、レギュラーラウンド最終節の大阪戦だった。
「痛みがなくなって、今までで一番いい決定率を残せたし、強く叩けたボールもあった。長いシーズン、遅かったかもしれないですけど、こうやって強く叩けたことが本当にうれしかったです」
敗戦の後でも、相手のプレーを見て「勉強になったし、自分たちもできるようになれば明日は成長できる」と前向きに捉える。
33歳のミドルブロッカーは、チーム内でもベテランと呼ばれる立ち位置だが、まだまだ、もっと、と誰より貪欲に、バレーボールを楽しむ青柳の原点には父の教えも生きている、と笑う。
「中学の頃から父が、『30歳からが勝負』と呪文のように言うのを聞いてきた。そんなわけないだろ、と思っていたんですけど(笑)、30歳からが勝負だと思えばまだまだこれから。今があるのは、独特な発想をしてくれる家族のおかげかもしれないです」
そしてもう1つ。青柳には自分のプレースタイルを信じて貫くことができる理由がある。
「私がVリーグへ入団した年にハイキュー!!が始まった。主人公の日向翔陽は私の大好きなプレースタイルに一致していました。今ではアニメもめちゃくちゃ人気で、勝手に運命を感じているので、日向と同じプレースタイルを貫き通して、女子バレーでも通用する選手になることも私の目標です」
小さくまとまることも、型にはまることもしなくていい。誰より高く跳び、打点を活かす高いトスを一番高い場所でとらえ、打ちたい場所に打つ。
もちろん、そのために求められる運動量は増すばかりだが、自分の強みを活かし、共にプレーする選手たちを活かせるなら動き続けることも上等だ。誰よりも、その準備は重ねてきたのだから。
まもなく、クォーターファイナルが始まる。さらに熾烈な負けられない戦いをプレッシャーと感じるか、この上ない楽しみと捉えるか。
ワクワクしながら、もっと高く、もっと強くと動き続ける。青柳のプレーはきっと、多くの人たちを魅了するはずだ。
文:田中夕子/写真:(C)SV.LEAGUE
田中 夕子
神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。WEB媒体、スポーツ専門誌を中心に寄稿し、著書に「日本男子バレー 勇者たちの奇跡」(文藝春秋)、「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。「夢を泳ぐ」「頂を目指して」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」、凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること」(カンゼン)など、指導者、アスリートの著書では構成を担当
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