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バレーボール コラム 2025年3月27日

鍬田憲伸、北の大地に根付くヴォレアス北海道で躍動。SVリーグ男子

SVリーグコラム by 田中 夕子
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鍬田憲伸(ヴォレアス北海道)

どんな1勝も、すべて価値ある1勝。重さに違いはないとはいえ、ホームゲームで得る勝利は格別だ。

3月23日。ヴォレアス北海道鍬田憲伸はその喜びを噛み締めていた。

「試合に勝って会場に来てくださった、たくさんのファンの方が喜んでいる姿を見たら、バレーボールを楽しんでもらえたんだ、と伝わってきました。コートの中にいても、ファンの皆さんの手拍子や声援が何より心強かったです」。

10月に開幕した「大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)」、レギュラーラウンドも3週を残すのみ。成績を見ればヴォレアス北海道は6勝32敗で10位。チャンピオンシップ進出に向け、負けられない戦いが続く広島サンダーズが背負うプレッシャーとは異なり、「ぶつかっていくだけだった」と、鍬田だけでなくヴォレアス北海道の選手たちは口を揃えた。

だが、前日の22日には完敗を喫した相手に対し、序盤からサーブで攻め、高さで勝るブロックと、組織化されたディフェンスに対する攻撃方法もミスを減らしつつ、より確実な方法で点を取るべく徹底する。前日の敗戦後にエド・クラインHC(ヘッドコーチ)が掲げた課題をわずか1日でクリアする、見事な戦いぶりだった。

2023年に当時のV2からV1へ昇格し、今季を含めトップカテゴリーで戦うのは2シーズン目のヴォレアス北海道が、SVリーグに在籍するクラブの中で最も長い歴史を誇る広島に勝利したのはこれが初めて。

ヴォレアス北海道の池田憲士郎・代表取締役社長は、ただ勝ったことに対する喜びだけでなく、伝統を誇る強者から得た勝利に「まるで優勝したような喜びと会場の盛り上がりだった」と笑みを称える。

今季6勝目をあげたヴォレアス北海道

それぞれが、この日の1勝に特別な喜びと思いを抱く理由があった。
鍬田は本来、サントリーサンバーズ大阪に所属する選手だ。

熊本の鎮西高校でエースとして春高、インターハイを制覇し、関東1部リーグの中央大学へ。学生カテゴリーでは常に世代を代表するエースとして活躍し、卒業後の2022年にサントリーへ入団。出場機会を増やしてきたが、外国籍選手も増えた今季はレンタル移籍でヴォレアス北海道へ加わった。

申し分のない攻撃力と、サーブレシーブも担う守備力。明るいキャラクターもチームにフィットし、開幕から出場のチャンスを得たが、首のケガで思うようなプレーができない期間も続いた。

ようやく復調したが「首が痛くてプレーに支障が出るところもある」と言うように、サーブのトスを上げる際に上を向くことができず、精度にばらつきが出るため思い切って打てずに苦戦した。

だが「自分の得意なサーブを思い切り打つことをまず心がけた」と言うように、残り試合が限られた中で迎えた広島戦では、サーブとスパイクで勝利に貢献した。鍬田自身も「スマートにプレーすることができた」と満足そうに振り返ったが、数字で見える以上の働きぶりをエドHCは称賛する。

「攻撃だけでなく、サーブレシーブでも広い範囲を守り、大きな負担を担っている。サーブ時には最も多くのブレイクにつなげ、サーブレシーブの受数も多い。見えない部分でチームを盛り上げ、熱意を持って楽しんでプレーする彼の姿勢は周りにも伝染している。チームにとって、非常に重要な選手です」。

来季は未定だが、鍬田はサントリーの選手として北海道を訪れる頃から「とてもいいチームで、ホームゲームの一体感も魅力的だった」と明かす。レンタル移籍が実現したことに対して「(サントリー、ヴォレアスの)両チームに感謝したい」と述べ、改めて言った。

「サンバーズでもヴォレアスでも、僕が大切にしてきたのは成長すること。サンバーズでは、常勝チームとして勝たなければならないプレッシャーの中で戦い、ヴォレアスでは強い相手に立ち向かうチャレンジャー精神の中で戦う。だからこそ、勝利の喜びは格別だし、今ここでつかむ1勝は、勝利数以上に大きな価値がある。6勝という勝利数は少ないかもしれないですけど、どのチームよりも価値ある1勝だと僕は思っています」。

3月18日、SVリーグは来季の参戦に向けたライセンス交付の審議結果を発表し、男子11チーム(SVリーグ10チーム+Vリーグの北海道イエロースターズ)の中ではヴォレアス北海道のみ、財務基準を満たさず審議継続となった。

池田社長は基準を満たすアリーナの建設計画や、売上に関してはクリアしているが、コロナ禍での債務超過が問題視された結果であると述べながらも、すでに見込みは立ちつつあると明かす。

クラブの歴史をたどれば、2016年に地元の北海道・旭川を活性化すべく池田社長が立ち上げ、当時のV3リーグから挑戦が始まった。コロナ禍でチャレンジマッチが突如中止となり「クラブとしても収益が激減し、先が見えない時期があった」と振り返る苦難を越え、2023年に昇格。

ホームの『リクルートスタッフィング リック&スー旭川体育館』

昨季は3勝で9位、今季は6勝で10位に留まるが、ホームゲームでは北海道の食材を使用し、「健康に美味しく」食すアリーナグルメや、「初めて見に来た人も安心して楽しめる情報を伝え、お客さんを置き去りにしない」と語るように、両チームの戦績やチャレンジ申請で時間が止まる際の、過不足のない状況説明を含めた西川賢氏による会場MCも実に心地いい。

対戦相手の注目選手として試合前の練習時にモレイラ ロケ フェリペ選手を紹介する際には、プレースタイルに加え212センチの身長と「靴のサイズは35センチ」と語られると会場から驚きの声が上がり、ロケも「日本語はわからないけれど、自分のことを話してくれているのはわかって、とてもうれしかった」と笑みを浮かべたように対戦相手からも好評を博している。

アフターマッチパーティー

ホスピタリティは会場外にも及ぶ。クラブ設立にあたり、各国のプロスポーツを視察して回ったという池田氏が欧州スタイルを参考にした、ヴォレアス北海道が経営するカフェ「RAWLAW BY VOREAS」では、日曜の試合後に選手数名も参加するアフターマッチパーティーも開催されている。

池田社長が「初めて会場に来た人たちのニーズだけでなく、バレーボールや選手が好きなコアなファンの方々にも満足してほしい」と語るように、23日の広島戦勝利後は予定された50名のチケットはすぐに完売した。

地域に根ざし、北海道から世界と渡り合うクラブ、リーグの実現に向けて。今はまだ夢物語かもしれない。だが、勝っても負けても、どんな時も耐えることのない掛け声が、2時間12分の激闘を制した後は、一段と大きく響き渡った。

「GO!GO!ヴォレアス!」

どんな状況、どんな相手にも立ち向かう。価値ある1勝を積み重ねていく挑戦は、これからも続いていく。

文:田中夕子

田中夕子

田中 夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、月刊トレーニングジャーナル編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。WEB媒体、スポーツ専門誌を中心に寄稿し、著書に「日本男子バレー 勇者たちの奇跡」(文藝春秋)、「高校バレーは頭脳が9割」(日本文化出版)。「夢を泳ぐ」「頂を目指して」(徳間書店)、「絆があれば何度でもやり直せる」、凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること」(カンゼン)など、指導者、アスリートの著書では構成を担当

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