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ときにジャンプで首位に立つ渡部暁斗
少しばかりアキトは悩んでいた。
「どうしていいかわからなくて。いま新たなことに取り組んで、その計画のもとに進んではきているのですが、果たしてそれが成功するのかどうかまったくで(笑)。だから、やるだけやってみようとは思いますが、結果はどうなるのやら。これで良いのかどうかも不明なんですよ」
と、まるで禅問答のようにいまの胸中を吐露した。
というのも前年であればジーフェルド世界選手権で表彰台へ上がる、あるいは、それ以前であればW杯個人総合優勝という目標がしっかりと定まっていた。
ところがビッグゲームがないシーズン、これというターゲットなないままにシーズンインするのだ。
渡部暁斗は2019世界選手権で銅メダルを獲得
なんのためにジャンプして、何のために走るのか。
そういう葛藤に似たものが心の中に渦巻いていた。
しかし自分でこれくらいやったから、こうなる。この試合では、こういった具合でやれば、などと、しっかりと試合のイメージはできている。
まさしくその途中過程にあり、どことなくそれを楽しんでいる、もうひとりの自分がいる様なのである。それはそれでW杯個人総合優勝経験者としての特権であろう。
渡部暁斗(北野建設)が努力家なのは紛れもない事実である。
それも新進気鋭のままクーサモ・ルカ(フィンランド)で表彰台に乗り、直後の記者会見において上手く英語が喋れずに悔しい思いをした。そこから発奮して、いまやユーモアあふれる抜群のスピーチで場を和ませる。
またそれらを暖かい眼差しで見つめていたFIS複合スタッフたちにも実に愛される選手であった。なにもそれはW杯の試合ばかりではない。そこまでの取り組みや言動、試合前後のふるまいに至るまで、あたりへ気配りができ、心優しさをふりまくトップ選手として欧州各地で人気が高い。
今季の黒白カラーのウエアを着る渡部暁斗
日本へ帰ってくると彼はいそいそと愛しのフィールド白馬の山に入り、テレマークスキーに興じ、はたまた時間があるときには雄大な自然にマッチしながらのトレッキングやトレイルランなど、つねに自然体なシルエットが見られる。そのもの雪が大好きなのがよくわかる。
だからこそ、雪と友達になることができるキング・オブ・スキー、ノルディック複合で頑張ることができる。そういう姿がまばゆく雪面に映えている。
ノルウェー、ドイツ、オーストリアの強豪勢
さて団体戦での底上げがほしい日本チームだが、やはり得意とする前半のジャンプで首位および3位以内につけて、後半のクロスカントリーで粘り強さを発揮して表彰台を狙うのが常套手段と言えよう。
個人戦は実力ある渡部善斗(北野建設)に若手の山元豪(ダイチ)、傳田英郁(早大)、山本涼太(早大)らの躍進を待つ状況だ。さらにはレースの駆け引きが上手いベテラン永井秀昭(岐阜日野自動車)の存在も心強い。
渡部暁斗はクロカンスキーも実力充分だ
海外有力勢では、前年にW杯で個人総合優勝したヤリ・マグナス・リーバー(ノルウェー)、
今季サマーグランプリで優勝したフランツ・ヨゼフ・リール(オーストリア)、強豪ではファビアン・リースル(ドイツ)とエリック・フレンツェル(ドイツ)などに注目したい。
団体戦では抜群の走力があるノルウェーと安定するオーストリアが先を行き、ダークホースのフィンランドはどこまで復調をみせるか。また昨季のドーピングに関する影響がありそうなドイツはどこまで復活できるであろうかなど、見どころが各所にある。
日本のエース渡部暁斗と海外列強勢との表彰台をめぐる激しい攻防に期待して、また今季も世界のノルディック複合シーンをJ SPORTSで堪能していこう。
J SPORTS 2019/2020 文・写真/岩瀬孝文
岩瀬 孝文
ノルディックスキージャンプの取材撮影は28年以上、冬季五輪は連続5回、世界選手権は連続12回の現地入り取材。スキー月刊誌編集長を経て、2007札幌世界選手権では組織委員会でメディアフォトコーディネーターを務めた。 シーズンに数度J SPORTS FIS W杯スキージャンプに解説者として登場。『冬はスキー夏は野球』という雪国のアスリートモードにあり、甲子園の高校野球や大学野球をつぶさに現場取材にあたっている。
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