田村岳斗 -華麗なる舞-

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このブログについて

【田村岳斗】
1979年5月28日生まれ。
プロスケーター&コーチとして活躍する男子フィギュアスケーターの第一人者。
高校3年時(1998年)に長野五輪出場。全日本選手権優勝2度の実績を持つ。現在は、関西を拠点に、未来のメダリスト育成に務める。

フィギュアスケート 12/13シーズン 2013年03月17日

世界フィギュア男子が終わりました

田村岳斗 -華麗なる舞- by 田村 岳斗
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日本男子、ソチ五輪出場枠3枠獲得おめでとうございます。来シーズンに向けて、3人とも本当によくやってくれました。今の日本男子にとっては3枠でも少ないくらいですから、これが2枠になってしまうと、国内の代表争いだけでヘトヘトになり、五輪までに疲弊してしまうかもしれません。それを考えると、この3枠は本当に大きいですね。

優勝したパトリック・チャン選手は、この時代にあって3連覇という偉業を成し遂げました。勝てば勝つほどプレッシャーも大きくなる中での3連覇は見事です。ただ、今日のフリーでは、全員の滑りが終わって本人もようやくホッとしたのではないでしょうか。彼の強さを感じるとともに、新しい選手たちや戦い方も含め、ソチ五輪はこのままではいかないだろうという感想も持ちました。

2位になったデニス・テン選手はその1人です。フリーが終わった瞬間、新しい世界チャンピオンの誕生かと思ったほどでした。僕の記憶では、これまでのテン選手は、SP、フリーの2日間を完璧な演技で揃えたことがなかったのではないでしょうか。しかし、2日間これをやってしまえば...。テン選手に限らず、ソチ五輪でも誰かがこういう離れ業をやってしまうことがあるかもしれません。いずれにしろ、僅差でチャン選手を追い詰めたことは、大きな自信にもなるでしょうし、日本人選手にとっては、これまでのチャン選手、フェルナンデス選手に加え、もう1人、ライバルが加わったことになります。

3位のフェルナンデス選手は、4回転に3回挑戦。1つ抜けて2つになりましたが、4回転の強さを見せてくれました。今シーズン、欧州選手権優勝、スペイン人初の世界フィギュア銅メダルと、世界に誇れる実績を持って、ソチ五輪では金メダルを狙ってくるでしょう。

4位の羽生選手は、体調が悪い中、根性の滑りを見せてくれました。最初の4回転もなんとかこらえましたし、4回転サルコウも転倒してもおかしくない状態をよく踏ん張りました。その後はトリプルアクセルを含めて、しっかり跳んでいましたが、それは技術というよりも気持ちでもっていたように感じました。悪い時でもここまではいける、結果は出せるということにもつながります。とにかく根性という言葉がぴったりのフリーでした。

高橋選手も調子がよくない中で6位でした。個人では当然メダルが目標だったと思うのですが、代表3枠獲得という役割に対しては、その責任を十分果たしたと思います。今シーズンに関しては、グランプリファイナルで優勝し、全日本のフリーでも素晴らしい滑りだったのですが、四大陸、世界フィギュアは底だったと思います。彼にとって、今シーズンは負けだったという記憶になるかもしれませんが、これより下はないでしょう。考えてみると、これまで世界フィギュアで2大会連続でのメダル獲得はありません。前向きに考えると、負けた後、その悔しさをバネにステップアップできるのも高橋選手です。この結果に悲観的にならず、ぜひ次のシーズン、ソチ五輪での逆襲を期待しています。

無良選手は、最初の4回転こそバランスを崩しましたが、全体的には良い滑りで、フリーで5位、全体で8位。スコア的にも一流の仲間入りを果たし、この大会で十分世界に名前を売ることができました。彼に必要だったのは、大きな試合での結果でしたから、この成績は、今後のソチ五輪代表争いに向けても大きかったと思います。また、3枠獲得にも十分貢献したと思います。他の2人にとっても、自分がもしダメでも無良選手がいるということが心の支えになったと思います。

その他、アメリカのマックス・アーロン選手は、ホッケー出身の選手らしく、ものすごいスピードでしかも最後までそのスピードが落ちない驚異的なスタミナを感じました。100m10秒で走るペースで42.195km走ってしまうような感じです。怖いもの知らずの感もありますが、今後はスピードやペースをコントロールすることができるようになれば、演技のメリハリができて、スピードもさらに活きるでしょう。彼は今大会、名前をいちばん売ることに成功した選手だと思います。

そして、ジュベール選手。彼は今大会のような、多くの選手が4回転に挑んでくる試合を待ち望んでいたのではないでしょうか。フリーで4回転を3発跳ぼうとする姿勢にそれを感じました。結果的には2回になり、回転不足も取られたり、無効ジャンプもありましたが、イキイキと滑っていたのが印象的でした。負けて苦笑いしている姿も、こういう試合ができた喜びだったのかもしれません。ジュベール選手は、高いレベルで競い合うことが本当に好きな選手なんでしょう。また、ジュベール選手の挑み続ける姿勢は、4回転時代の回帰に少なからず貢献していると思います。

最後に、この大会で印象的なシーンがありました。それは、デニス・テン選手のフリーの演技の後、カナダのお客さんからスタンディング・オベーションが起こったことです。ひょっとしたら、先に滑ってミスが多かった自国のパトリック・チャン選手を上回ってしまう可能性もあったわけですが、それでも大きな拍手が起きました。いい演技に対して、カナダの観客は平等でした。こういう雰囲気は選手にとってまたここでやりたいという気持ちにもつながりますし、とても温かいシーンだと感じました。

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