人気ランキング
コラム一覧
手話文化とデフリンピック | 町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 手話言語が拓くデフスポーツの未来 #20
フィギュアスケートーーク by J SPORTS 編集部手話文化とデフリンピック | 町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 手話言語が拓くデフスポーツの未来 #20
4年に一度のデフスポーツと手話文化の祭典デフリンピックが11月に東京で開催されます。そこで今回は、「ろう者学」ならびに「手話言語学」をご専門とされている大杉豊先生をお招きして、デフスポーツ文化の魅力や課題についてじっくりと議論していきます。第4回目の書き起こしコラムでは、デフスポーツを「支える」視点や、デフリンピックの関係性について議論を深めていきます。
J SPORTS オンデマンド番組情報
-
【先行】フィギュアスケーターのオアシス♪ KENJIの部屋 【25/26シーズン予習&飯塚花火大会まで全部見せちゃいますスペシャル!】
配信期間 : 2025年9月25日午後6:50 ~
-
町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 手話言語が拓くデフスポーツの未来 #20
配信期間 : 2025年10月21日午後9:00 ~
■デフスポーツを「支える」
町田:デフスポーツは先生のような「支える人」がいてこそ成り立つわけですけれども、支えるスポーツというのは、第1に組織が大事ですね。例えば、一般的なスポーツだったら、国際オリンピック委員会を筆頭に国内のオリンピック委員会があって、トップから下の各国へと指揮系統が揃っています。また、それぞれの競技、私はフィギュアスケーターだったので、国際スケート連盟がまず頂点にあって、そこから日本スケート連盟という国内を統括する組織、そして東京都スケート連盟だとか神奈川県スケート連盟のような形で各都道府県を統括する連盟がある。そういう指揮系統や組織がしっかりしてるからこそ、ちゃんとスポーツが運営できるというところがあるんですが、デフスポーツの場合、この組織はどうでしょうか。
大杉:国際ろう者スポーツ委員会はデフリンピックの統括をしていますが、それだけではなく、様々な競技、それぞれの世界選手権大会など多くの競技大会があり、それらも担っています。IOCはオリンピックだけですよね。他に国際的な様々な競技の連盟があると思います。そこでサポートし合って連携をしていると思います。その下に国があって、地域があって、スムーズな組織連携や組織運営をしていると思います。でも、世界各国を見ていると、まだ十分に進んでいない国も多くあると思います。
ろう者の場合は、国際ろう者スポーツ委員会が、世界選手権大会やデフリンピック以外のものも担っていますので、組織が疲弊してしまうのではないかと心配するところもあります。日本でも全日本ろうあ連盟のスポーツ委員会、その上に国際ろう者スポーツ連盟があり、ろう者のスポーツ委員会の下にそれぞれの地域協会の体育部があり、様々な体育大会を主催したりしています。他にもろう者卓球協会ですとか、日本デフバレー協会ですとか、それぞれの競技についてろう者の競技団体ができています。それぞれの協会がデフリンピックを目指して選手強化を担当したり、前と比べて実力が上がってきているのではないかと思います。
町田:デフスポーツを支える組織、例えば国際ろう者スポーツ委員会の負担がものすごいですよね。おっしゃる通り、IOCが注力しているのはオリンピックだけですが、他のスポーツ、他のイベントもたくさんやらなきゃいけない。ここから先はデフスポーツと一般スポーツはルールも一緒ですし、聴覚情報を視覚に置き換えることさえできれば、フィールドもそこまで変わらないということで、一般の競技連盟にデフスポーツを統括する部署が中に入るっていうのはまだまだ難しいのかもしれないですけれども、少なくとも人材やその競技会を運営するノウハウみたいなところでは協力していくべきところですよね。
大杉:おっしゃる通り、これからの課題になると思います。また、その方法が良いのかどうかの議論もされています。私は今後、スイスのローザンヌに行く予定です。国際競技連盟が集まるシンポジウムがあります。そこに私が国際ろう者スポーツ委員会の代表として行って、その時に様々なスポーツ連盟のトップの方々と会います。その時に、どこからどこまでの内容を協力できるのか議論を進めて、その後さらに話を深めていくような準備をしています。我々だけではなく、前からある国際競技連盟、そういったところからのサポートや、うまくシステム化を組んでいくというのが良いのではないかと思っています。
町田:それができれば、聞こえるアスリートが身体で体得してきた知識、経験みたいなものも共有しあえるし、支える人も共有し合えるし、また見る人たちも共有できる。組織がちゃんと連携をすれば、全ての交流、あるいは繋がりがもっと活性化されますよね。だから私はそうあるべきなんじゃないかなという風に考えています。
手話AI KIKIプロジェクト
町田:大杉先生は、国際ろう者スポーツ委員会副会長としての顔だけではなく、東京デフリンピック2025の公式アンバサダーである「手話AI KIKIプロジェクト」の監修者でもあられると。AIは色々と賛否両論があるところではありますが、AIは言語に強いと言われています。ですから、そのAIテクノロジーが発展すれば、もっと聞こえない人と聞こえる人がコミュニケーションを円滑にできる、あるいはもっとコストダウンした形でコミュニケーションが図れるという未来も、やはり夢ではないですよね。
大杉:確かにAIの力は最近強力ですよね。ただ、心配な点は、手話言語としてデータベースというものが少ないんですね。音声のデータベースは大量にありますが、AIが音声言語のデータをたくさん食べて太らしていく。けれども、手話言語のデータベースはまだまだ細い。技術はたくさん持っていても、その中身がまだスカスカなので、まだまだ難しいと感じています。KIKIのプロジェクトでできることは、データやそういったところを取っていく。確認して検証を進めているという状況です。
■手話文化とデフリンピック
町田:デフリンピックといえばデフスポーツの祭典でもあるんですが、同時に手話文化にとっても非常に大事な機会ですよね。
大杉:基本はデフリンピックがろう者のアスリートの輝ける場所ですので、ぜひたくさんの人にデフアスリートが競技をしている様子を見てほしいと願っています。ただ、観戦する時に耳の聞こえない選手が試合に出ている姿を見て、聞こえる選手と何が違うのか分からない人が多いと思います。それに比べるとパラリンピックは非常に分かりやすいと思います。実際に身体の障害がある面が分かりますし、器具で補助する方法も分かると思います。やりやすいよう競技規則も編成され、競技も障害者がやりやすい新しいものが作られています。一方で、ろう者のアスリートというのは、一般のスポーツ競技者と同じ方法です。昔からろう者たちは自分たちのやり方でスポーツの大会を作り、100年以上の歴史を持つ中で、様々な経験をろう者同士が共有して引き継いでいる。そういった内容もぜひ見てほしいと思います。実際に開催される11月15日から26日の間、デフリンピックがしっかりと盛り上がって、SNSなどで発信されて、聞こえる人がどのように見るのか、私も楽しみです。
聞こえる人達が見て、「こんな風に見ているんだ」という感想や意見をいただいて、今後のデフリンピックのために、もっとデフリンピックを分かりやすいようにする。オリンピック、パラリンピック、デフリンピック、それぞれの違いが何か、もっと分かりやすいように伝えていくというところを今回探したいなと思っています。
デフスポーツを「支える」
町田:スポーツ庁が少し前に出した第3期のスポーツ推進基本計画、この中にはスポーツをどのようにこの日本において推進していくかという政策の基盤となるものが書かれているんですけれども、その中にはスポーツを「する・見る・支える」だけじゃなくて「作る」だったり「育む」、そして「集う・つながる」というキーワードも入ってます。まさにこれ、今までスポーツは「する・見る・支える」でしか考えてこなかったけれども、スポーツというのは多様な人が集ってつながれる、そういうものの本質的な価値があるんだということを体現する場がデフリンピックなんだなと、先生と話をさせていただきながら実感しました。
町田:大杉先生と話をさせていただいて、いろいろ気付かされること、学ばせていただくことがたくさんありました。もっと聞こえない方々とのコミュニケーションをしていきたいと思いますし、その機会がもっとこの日本の社会において当たり前のように見られることを期待しながら、そしてその一つの起爆剤、あるいはその一つの日本社会のあり方をアピールする場としてもデフリンピックがあるのだと言う、デフスポーツを純粋に楽しむだけじゃなくて、そういう視点も交えながらこの11月のデフリンピックを楽しく観戦したいというふうに思いました。大杉先生、本日は貴重なお話をいただき、本当にありがとうございました。
いかがでしたでしょうか。大杉先生との対話を通じて、デフスポーツの文化的な魅力だけでなく、社会的な意義についても知ることができました。今回改めて実感したのは、スポーツは誰もが参画することのできるユニバーサルアクセスな文化であるということです。ともすれば、これまでユニバーサルアクセスというのは、一般の人たちもできる、聞こえない人たちもできる。そして、それ以外の障害をお持ちの方々もできるという意味で使われていたと思います。しかし、本当の意味でのユニバーサルアクセスというのは、そうした多様な人々が分け隔てなく集い、つながることのできる状態をいうのではないでしょうか。スポーツは、そうした真のユニバーサルアクセスを形作ることのできる稀有な文化ですし、そのように社会全体でこの文化を育んでいくべきだと感じました。
さて、11月14日から26日までの間、デフリンピックが東京で開催されます。この機会を日本社会はどのように生かせるのか。私もデフリンピックを楽しく観戦しながら、しっかりと考えていきたいと思います。
J SPORTS オンデマンド番組情報
-
【先行】フィギュアスケーターのオアシス♪ KENJIの部屋 【25/26シーズン予習&飯塚花火大会まで全部見せちゃいますスペシャル!】
配信期間 : 2025年9月25日午後6:50 ~
-
町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 手話言語が拓くデフスポーツの未来 #20
配信期間 : 2025年10月21日午後9:00 ~
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
あわせて読みたい
J SPORTS IDを登録すれば、
すべての記事が読み放題
ジャンル一覧
人気ランキング(オンデマンド番組)
-
【白銀の頂へ!】スノーボード FIS ワールドカップ 2025/26 男女 ハーフパイプ シークレットガーデン/中国(12/12)
12月12日 午前11:50〜
-
【白銀の頂へ!】スキージャンプ FIS ワールドカップ 2025/26 男子 ラージヒル クリンゲンタール/ドイツ(12/13)
12月13日 午後11:30〜
-
【白銀の頂へ!】【限定】アルペンスキー FIS ワールドカップ 2025/26 男子 ジャイアントスラローム ビーバークリーク/アメリカ(12/7)
12月7日 深夜1:50〜
-
【白銀の頂へ!】アルペンスキー FIS ワールドカップ 2025/26 男子 ジャイアントスラローム ヴァル・ディゼール/フランス(12/13)
12月13日 午後5:15〜
-
【白銀の頂へ!】スノーボード FIS ワールドカップ 2025/26 男女 ビッグエア 北京/中国(12/06)
12月6日 午後6:50〜
-
【白銀の頂へ!】フリースタイルスキー FIS ワールドカップ 2025/26 男女 スキークロス ヴァル・トランス/フランス(12/11)
12月11日 午後9:30〜
-
【限定】スキージャンプ FIS ワールドカップ 2025/26 男子 ラージヒル クリンゲンタール/ドイツ(12/14)
12月14日 午後11:50〜
-
【白銀の頂へ!】【限定】スキージャンプ FIS ワールドカップ 2025/26 男子 ラージヒル ヴィスワ/ポーランド(12/7)
12月7日 午後10:15〜
J SPORTSで
フィギュアスケートを応援しよう!
