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フィギュアスケート コラム 2025年11月11日

デフスポーツを「する・見る・支える」 | 町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 手話言語が拓くデフスポーツの未来 #20

フィギュアスケートーーク by J SPORTS 編集部
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デフスポーツを「する・見る・支える」 | 町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 手話言語が拓くデフスポーツの未来 #20

デフスポーツを「する・見る・支える」 | 町田樹のスポーツアカデミア 【Dialogue:研究者、スポーツを斬る】 手話言語が拓くデフスポーツの未来 #20

4年に一度のデフスポーツと手話文化の祭典デフリンピックが11月に東京で開催されます。そこで今回は、「ろう者学」ならびに「手話言語学」をご専門とされている大杉豊先生をお招きして、デフスポーツ文化の魅力や課題についてじっくりと議論していきます。第3回目の書き起こしコラムでは、デフスポーツを「する・見る・支える」観点から議論を進めていきます。

■デフスポーツを「する・見る・支える」

町田:今度はそのデフスポーツを「する・見る・支える」この観点で深掘りしていきたいと思います。まず「するスポーツ」としてのデフスポーツです。ろう者の方々は耳が聞こえない、あるいは聞こえづらいというわけですが、それによってデフアスリートとしての身体特性、つまり一般の聞こえるアスリートとはちょっと身体特性が違う部分がありますよね。大杉先生ご自身はどのようにお考えですか。

スタートランプ

陸上競技で用いられるスタートランプ

大杉:聴覚、視覚、触覚、あとは嗅覚、味覚があると思います。嗅覚や味覚は置いといて、3つに関して言うと、反応は聴覚が早いです。以前にデフリンピックの時に一つ問題が起きたんですが、陸上競技のスタートです。今はランプでスタートを切る方法です。ろう者の選手がそれぞれ1列に並んで、それぞれにランプがあります。自分のランプが自分の前にあって、自分がやりやすいと思う位置に置いて、スタートが切れる。ピストルでスタートをする場合、例えばピストルからの位置が近い遠いによって電気伝達の問題が起きます。もしかしたら0.00何秒、その位置によって反応に少しズレが生じてしまうかもしれない。それから、ピストルを撃つと音がありますよね。選手の持っている聴力がバラバラなため、ランプが光る前にスタートが切れる選手が出てくる。でも、それはフライングにはならないんです。なので、聞き取れる選手もいて不公平になるので、ピストル音はなくすことにしました。音はなくサイレントにして、それぞれのランプだけ。距離も同じ。条件を揃えて、ろう者のスポーツはこういったスタートや条件を揃えることが大事になってくると思います。

町田:一般的なスポーツでは、聴覚を使うような合図、聴覚を使うようなシチュエーションというのは、全て視覚からの情報に置き換えていく。今は特にテクノロジーの発展によってそういうことが可能になっているということですよね。では次に「デフスポーツを見る」ということについて深掘りしていきたいと思うんですけれども、デフスポーツを見るということに関して、応援のハンドサインなどが今回開発されたんですよね。

大杉:スポーツの試合を見ることは、実際の会場に行って応援するのと、自宅にいながらテレビで観戦をするなど様々な方法があります。試合の会場に行ってその席から見ると、私の想像はテレビと同じように実況解説が流れていると思っていました。ところが、例えば、その選手は誰、交代は誰というアナウンスだけであって、テレビの実況解説が会場では流れるわけではないということを初めて知りました。では、応援席にいる観客の楽しみは何かと尋ねると、いろいろな声が周りから発せられる応援の雰囲気が自分に伝わってくる臨場感だったんです。私はいつも見るだけなので、そういった周りの音声などは聞こえません。高校野球の応援に行くと、みんなが一緒に肩を組んで応援歌や校歌を歌う時に、私は歌えませんし、聞こえませんので、楽しみ方がよく分からなかったんです。会場に入って応援をする、周りと一体感を持ってというのが難しいですね。周りの状況を見て、音や声が見える情報が必要だと思うんです。その見える化が必要だと思います。

逆にろう者の試合の時に、観客はろう者が多く集まると思います。そうすると聞こえる人は今何の手話をしているのか、何を伝えているのか、手話が分からない人は伝わらないですよね。手話で話している内容を通訳してあげることもデフリンピックの場合は必要だと思います。テレビの場合には、今は字幕が付いていますが、やはり少し時差が起きてしまう。そうすると盛り上がっている中で5秒とか10秒後にその内容の字幕が流れてくる。または野球で言えば表と裏の間にコマーシャルに入ってしまう。そうするとすぐに字幕が消えてしまうので、途中で分からなくなって突然試合が始まってしまう。それから字幕は文字の大きさが決まっています。もし文字が大きくなったり小さくなったりしたら、実況・解説者の気持ちが伝わってくるかもしれない。でも実際は字幕の文字は同じ大きさで変わらないので、そういった実況の感動や解説の気持ちが伝わってこないということがあります。字幕は情報を伝えてくれるけれど、今話したような面で足りない点があります。

■スポーツの用語と手話の関係

デフスポーツを「見る」

デフスポーツを「見る」

町田:先ほど先生は冒頭で、体育と一口に言っても、手話の世界ではいろいろな形があるというふうにお話しくださいました。でも、スポーツもまた、特殊な言葉が生まれるフィールドでもあります。例えば、スポーツには専門的な技の用語というのがあります。フィギュアスケートでしたら、アクセルジャンプとかビールマンスピンとかいろいろありますし、野球でもストレート、フォーク、スライダー等々、スポーツのフィールドでしか使われないというか、スポーツの現象に特化した言語というものがありますよね。そういうものは、手話では開発されているんでしょうか。

大杉:例えばアメリカのメジャーリーグで大谷選手が活躍していますけれども、今年50&50を達成しましたよね。ホームランを表す手話表現と、審判の表現のホームランという形でもろう者はわかります。同じ意味ですが、表し方が違う場合があります。ろう者が表現する手話はわかりやすいです。方向や強さの表現で感情が変わってきます。なので、ろう者の表現を見ると、実況の手話というのは非常に伝わりやすいと思います。

町田:どの視点で語るかで、手話の話し方が変わる。普通の言葉の実況解説ではあくまでも第三者的な観点からその状況を述べる。なので、三振なら三振ですし、バッターからしたら悔しいでしょうねという言葉は添えるにせよ、三振は三振。けれども、手話の言語になった時には、視点によってその単語が変化するというのは非常に興味深いです。

大杉:そうですね。ろう者の手話は自分が誰になっているのかということが大事です。誰の立場になっているのか、話し手はその人を演じます。例えばピッチャーだったら、ピッチャーになりきる。自分が中立になったり、今度はバッターの立場になる。この(視点を)変えていけることが手話言語の非常に良い点だと私は思います。

町田:なるほど、手話は共感の言語なんですね。

文:J SPORTS編集部

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