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フィギュア スケート コラム 2025年9月3日

「第4回 フィギュア界に求められる著作権処理:イベント主催者・放送事業者・メディア発信者篇」 町田樹のスポーツアカデミア #19コラム【徹底解剖 フィギュアスケートの音楽著作権問題】

町田樹のスポーツアカデミア by 町田樹
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第4回 フィギュア界に求められる著作権処理:イベント主催者・メディア発信者篇

 

前回のコラムでは、フィギュアスケート(以降、「フィギュア」と略称)の分野における音楽の著作権処理について、三段階で考えるフレームワークを提示しました。このフレームワークでは、音楽の利用形態に応じて、選曲・振付での利用を第一段階、競技会等イベントでの利用を第二段階、放送や配信での利用を第三段階とし、それぞれの段階で一般的に誰が権利処理を行うべきなのかという手続きの主体を整理しています。その上で、前回は(特にその後の公開を前提とした時の)第一段階において選手や振付師が意識すべき著作権について解説しました。今回は、第二段階と第三段階でクリアランスを行うべき著作権に、焦点を当てていきたいと思います。

まずは、図1をご覧ください。これは、第二段階と第三段階での音楽利用について、それぞれ段階別に関係する著作権を一覧化したものです。すでに第二回のコラムでも言及した通り、従来、第二段階と第三段階では、それぞれイベント主催者や放送事業者がJASRAC(日本音楽著作権協会)等の音楽の著作権管理事業者と連携して、必要な著作権のクリアランスを行ってきました。したがって、現状では大きな問題はないはずですが、いくつか留意すべきことがありますので、その点を中心に第二段階と第三段階での音楽利用と著作権処理に関して簡潔に解説します。

図1 第二段階と第三段階に関係する著作権

■第二段階においてイベント主催者が処理すべき著作権
図1の右側にある「第二段階」の欄に示されているように、競技会やアイスショーなど、第二段階のイベントで音楽を利用する際には、一般的にイベント主催者が著作権のクリアランスを行うべきとされています。何よりもまず、第二段階でイベント主催者が確実にクリアランスを行わないといけないのは、楽曲の演奏権(22条)です。ただ、この演奏権については、JASRACなどの音楽の著作権管理事業者が使用料の算定と納入の方法に関して一律のルールを定めています。

例えば、JASRACの「使用料規定」(令和7年3月24日届出版)を確認してみましょう。この規定の第一節には、演奏等において楽曲を利用する際の使用料に関する規定が細かく記されています。この第一節3項「演奏会以外の催物における演奏」(5?7ページ)を確認すると、フィギュアの競技会とアイスショーでの楽曲利用について、それぞれどのように使用料を算定すればよいかがわかるようになっています。こうしたJASRACの規定に基づいて試算してみると、フィギュアの競技会を開催するために必要となる楽曲使用料は、仮に2時間の開催で、会場定員が1万人、チケット価格が5,000円とする場合、80,000円になります。このように規定に従って使用料をJASRACに収めれば、演奏権のクリアランスを行うことができる、というわけです。

現在、国内にある音楽の著作権管理事業者は、JASRACとNex Toneの二団体です。JASRACと同様、Nex Toneも「使用料規定」(2023年1月30日届出版)を定めており、この第18条の中に、フィギュアの音楽利用にかかる使用料規定が示されています。したがって、これら二団体が管理する音楽の演奏権に関しては、円滑に権利処理を行うことができるようになっています。

ただ注意しなければならないのは、こうした著作権管理事業者が管理していない楽曲を使用する場合です。この場合には、当該音楽の著作権者を探して、個別に交渉を行い、権利処理を完了させる必要があります。なお、著作権管理事業者に管理委託をしていない権利者を「ノンメンバー」と言います。現状、フィギュア界ではノンメンバーの楽曲まで権利処理の手が回っていないケースも見受けられますので、細心の注意が必要です。

また演奏権に加えて、イベント主催者には著作者と実演家の人格権である氏名表示権と同一性保持権の遵守も求められます。とはいえ、フィギュアの競技会やショーでは、スケーターそれぞれが任意の楽曲を用いた演技を行いますので、イベント時に同一性保持権の侵害を防げる否かは、第一段階で楽曲の選曲や編集を行う選手や振付師の手に全て委ねられることになります。もし第一段階で選手や振付師が同一性保持権を侵害してしまうと、必然的にその選手の演技は、競技会やそれを中継する放送でも同一性保持権侵害に該当することになります。したがって、前回のコラムでも説明したとおり、選手や振付師は最低限で収める音楽編集を心がけるのが安全でしょう。

一方でイベント主催者には、楽曲の著作者や(可能であれば)実演家の氏名をパンフレットやイベントサイトなどに記載するなどして、氏名表示権を尊重しなければなりません。現状では、競技会にせよ、アイスショーにせよ、この氏名表示権を守るための対応が不十分ですので、今後徹底していくべきでしょう。そのためには、イベントに出場する選手から使用楽曲に関するクレジット情報を収集する必要があります。演奏権のクリアランスを確実に行うためにも、楽曲の情報は必要不可欠ですので、まずは情報収集を漏れなく行うことがイベント主催者には求められます。

■第二段階における著作隣接権の複製権(96条)について
第二段階における権利処理について、一点議論の余地があるのは著作隣接権の複製権(96条)です。前述のように現行の著作権法は、イベント時の楽曲利用に対して使用料を請求する権利をレコード製作者に認めていません。しかしながら、実際にはイベントでの楽曲利用に対してレコード製作者が使用料を請求するケースがあります。

この点について福井弁護士は、法的根拠は疑問もあるけれども、レコード製作者による第二段階での使用料請求は(演奏準備のためのコピーに関する)複製権を根拠にしているのではないか、と推測しています。福井弁護士は続けて、さらに事を複雑にしている要因は、著作隣接権の複製権を含む原盤権に関しては、JASRACのような著作権管理事業者が存在していないことだと分析します。前述したように、演奏権に関しては著作権管理事業者が定める一律の規定がありますが、原盤権には基本的にそうした規定がないのです。そのため、レコード製作者による原盤権の使用料は、各社がそれぞれ考える金額――つまり言い値になる傾向があります。このような背景があり、法的根拠は薄いにもかかわらず使用料の請求額は高い、という事態が起こり得るのです。

したがって、もし第二段階でレコード製作者から使用料請求がなされた場合、イベント主催者は直ちにレコード製作者の要求を受け入れるのではなく、使用料の必要性や金額について一度丁寧に交渉することを推奨します。

■第三段階における著作権クリアランス:放送事業者篇
さて、次は競技会などをメディアで放送したり、配信したりする際に必要となる著作権のクリアランスについて解説します。この第三段階の楽曲利用は、主に競技会を放送するテレビ局などの放送事業者が想定されます。放送事業者は、JASRACなどの著作権管理事業者と包括的な利用許諾契約を結んでいるため、競技会を放送するごとに逐一、公衆送信権(23条の1)の処理を行う必要はありません。こうした包括契約は、「ブランケット契約」と言い表されることもあります。

またテレビ放送での楽曲利用に関しては、実演家とレコード製作者の許諾は不要です。ただし、実演家とレコード製作者は、テレビ放送での商業用レコード利用に対して二次使用料を請求できる権利(95条および97条)を有しているので、使用料は支払わなければなりません。この使用料についても放送事業者は、原盤権を管理する日本レコード協会や実演家の権利を管理する日本芸能実演家団体協議会(通称CPRA)と包括的な取り決めを結んでいます。なお、競技会の放送番組をインターネットで配信する場合には、実演家とレコード製作者は送信可能化権(92条の2)を有していますので許諾が必要ですが、この点についても放送事業者と上記の管理事業者の間で包括契約がなされています。このようにテレビ放送に関しては、ブランケット契約によって円滑に利用できるような仕組みが確立されているのです。

ただし、フィギュアの競技会やアイスショーのテレビ放送においては、著作者や実演家の氏名が表示されることはほとんどありませんが、これからはクレジットを表示することを推奨します。なぜならば、第二回のコラムで説明したように、2022年の北京五輪開催時に発生した著作権侵害をめぐる訴訟において、原告の著作権者は氏名表示権の侵害を理由に、当該楽曲を利用した競技者だけでなく、五輪の競技会を放送したNBCまでをも訴えているからです。したがって放送事業者といえども、可能な限り、氏名表示権を遵守することが求められます。

■第三段階における著作権クリアランス:メディア発信者篇
第三段階における楽曲利用は、放送事業者に限りません。今日では、選手やファンの人たちもSNSなどを通じて簡単にフィギュアの演技映像を発信することができます。当然こうした人たちもメディアで音楽を伴う演技映像を発信する際には、放送事業者と同様に諸権利のクリアランスが必要になります。

ただし、各種著作権管理事業者とブランケット契約を結んでいる放送事業者とは異なり、一般の人たちは関係する権利を一つ一つ個別に処理しなければなりません。これは非常に大変で、一個人が容易にできるようなことではありません。

しかしながら、YouTubeやTikTok、Instagramなどの一部の動画投稿サイトでは、JASRACやNex Toneと包括的な利用許諾契約を結んでいるため、原盤権のクリアランスが不要である楽曲に関しては利用可能です。したがって、以下の条件を満たしている演技動画については、インターネット上で公開できる可能性があります。

[1] 自分で撮影した演技映像もしくは、権利処理不要の演技映像であること(当然テレビ放送等の切り抜きはNG)。
[2] JASRACやNex Toneと包括契約を締結している動画投稿サイト(プラットフォーム)であること。なお、この条件に該当する動画投稿サイトであるか否かは、JASRACとNex Toneが公開している一覧表にて確認することが可能(註1)。
[3] 原盤権のクリアランスが不要であること。例えば、自分で演奏した楽曲などがこれに該当する。商業用レコードの楽曲は、原盤権の処理が必要なので利用不可。

たいていの場合、フィギュアの演技は商業用レコードに収録されている楽曲を利用していますので、上記の条件を満たす演技動画は現実的には滅多にないと思います。また、たとえ上記の条件を満たしていたとしても、営利目的など無闇に演技映像をインターネット上で公開すると、パブリシティ権など著作権以外の権利侵害になる恐れもありますので、細心の注意が必要です。

第二段階と第三段階での音楽利用に関係する著作権とクリアランスについては、以上となります。最終回となる次回のコラムでは、今後フィギュア界にはどのような著作権マネジメントが求められるのか、フィギュアと著作権の未来を展望します。
註1:JASRACが包括利用許諾契約を結んでいる動画投稿サイトは、https://www.jasrac.or.jp/information/topics/20/ugc.htmlにて確認することが可能。またNex Toneについては、「動画投稿サービス利用許諾一覧」(https://www.nex-tone.co.jp/files/ugc.pdf)を参照してください。

参考文献
・骨董通り法律事務所編『エンタテイメント法実務〔第2版〕』弘文堂、2025年
・寺内康介「改めて原盤権――配信での音源利用は進むのか」『骨董通り法律事務所For the Arts公式HP
コラム』2021年11月29日、available from https://www.kottolaw.com/column/211129.html(2025年8月16日参照)
・福井健策・二関辰郎『ライブイベント・ビジネスの著作権(第二版)』著作権情報センター、2023年
・福井健策『改訂版 著作権とは何か――文化と創造のゆくえ』集英社、2020年
・福井健策『18歳の著作権入門』筑摩書房、2015年

著=町田 樹(國學院大學准教授)
協力=福井 健策(骨董通り法律事務所For the Arts代表弁護士)
   骨董通り法律事務所For the Arts代表弁護士。日本大学芸術学部客員教授。日本における著作権法とエンタテインメントの法務を牽引。
制作=J SPORTS

町田樹

國學院大學准教授。博士(スポーツ科学)。専門はスポーツ文化論、著作権法、文化経済学、舞踊論。J SPORTSにて「町田樹のスポーツアカデミア」を手がける。

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