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フィギュア スケート コラム 2025年2月19日

フィギュアスケートをもっと好きになる!中野友加里さんが語る、四大陸選手権、世界選手権の見どころ&スケートの魅力についての深い話

フィギュアスケートレポート by 中村康一(Image Works)
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中野友加里さん

フィギュアスケートの四大陸選手権(2月19-23日、韓国、ソウル)、世界選手権(3月25-30日、アメリカ、ボストン)が開催される。共に日本勢の活躍が期待される大会であり、特に世界選手権では坂本花織が4連覇という偉業に挑むこととなる。今回、元フィギュアスケート選手で、四大陸選手権、世界選手権にも出場経験のある中野友加里さんに、フィギュアスケートの魅力、両大会の見どころなどを語っていただいた。現在はジャッジ、テクニカルの活動もされている中野友加里さん。元選手であり、採点する側であり、そしてフィギュアスケートのファンでもある立場から、様々なお話を聞かせていただいた。まずはフィギュアスケートの魅力とは、といういささか抽象的な質問をさせていただいた。

「私はいつも佐藤信夫先生から『スケートの一番の魅力はスピード』と言われていました。風を切っていく感覚というのは選手でないと分かりにくいかもしれませんが、やはりスピードがスケートの魅力なのかなと思います。踊りながらスピードを出すってすごく大変なんですけど、それを選手たちは表情も作りながら、上半身を動かしながらやっていますので、そこに注目してほしいと思います」

フィギュアスケートもスピードスケートと同様、エッジ(ブレード)を使って氷上を滑るスポーツであり、深いエッジを使ってスピードに乗って滑ることがとても重要だ。PCS(演技構成点)の採点基準が分かりにくいと感じるファンは多いかと思うが、スピードがあり、エッジを深く使っている選手はPCSで高得点を出してもらえる傾向にある。

「そのスピードを出すための動作、足さばきの基礎がしっかりしていないとスピードは出せないんだな、ということを私は佐藤信夫先生に教わって理解できました。もちろんジャンプやスピンもフィギュアスケートの魅力ですが、やはり基礎がしっかりしていないと、ジャンプ、スピンにも繋がらないんです。その基礎を磨く上で最終的に行き着くところはやはりスピードだと思います」

現在は昔に比べてどの選手も凝ったプログラムを作るようになった。曲選びからテーマを決め、つなぎの部分、エレメンツの前後など、細部に至るまで振付を詰め込み、ストーリーを表現する衣装を作り、実に高度なプログラムを滑っている。

「実はフィギュアスケートの一番の魅力は何かと聞かれた時に、プログラムかスピードかで迷ってスピードを選んでしまったんですが、プログラムももちろん素晴らしい魅力の一つです。プログラムは選手たちの作品でもあります。現在の採点方法ではよりパッケージ感が求められます。一つ一つのつなぎが、流れを途切れさせることなく連続するように求められています。で、なおかつその中で表現もしなければいけない。さらにPCS(演技構成点)、いかに振り付けが凝っているか、いかに全体的にスケーティングが伸び、スピードに乗って滑っているかなどを私たちは見ているので、よりレベルの高いプログラム作りが求められてると感じています。私たちの現役の頃に比べて 1人1人選手たちの表現する力が素晴らしいなって、本当に見ていて感じます。小さい子でもすごく上を向いて楽しそうに滑っている。私は小さい頃、滑るのに必死で、どちらかというと氷を見て、氷と一緒にお話してるみたいでした。今の選手の意識の高さには驚かされます。私がよく審判として言われるのは、『いいところをたくさん見つけてあげてください』ということです。どちらかというと減点、欠点が見えてしまうかもしれないんですけれども、まずはたくさんいいところを見つけてあげて、その中でもし減点することがあれば、そこから減点する、ということを心掛けて、なるべく選手たちの個性を見つけてあげて、そこを評価した上での点数をつけるようにしています」

フィギュアスケートのプログラムを語る際によく聞かれる“パッケージ性”という表現。これを言語化して明確に表現するようになったのは、羽生結弦さん、ブライアン・オーサーコーチの取り組みからだろう。また同じ時期に町田樹さんがフィギュアスケートを「総合芸術」と表現した。あの時代から、プログラムの作りが大きく変わってきたように感じる。

「パッケージ性を強く感じたのは羽生結弦さんのショパンのバラード1番でしょうか。通常、選手たちは音が鳴ったらその音に合わせながら演技をするんですけれども、彼の作品を見た時には、彼に音楽がくっついてるような感覚に陥るほどでした。見入ってしまって、ジャッジをしていたら思わずペンを止めて採点のことを忘れてしまうぐらいだと思います。また今の選手は曲選び、コスチュームにもこだわっていますし、そういったところも魅力ですね」

来る四大陸選手権、世界選手権も見どころ満載の大会になりそうだ。まずは四大陸選手権について話していただいた。

「日本は今とてもレベルが高く、日本で優勝することの方が大変なぐらいです。四大陸選手権では、表彰台独占を狙って頑張ってほしいなと思います。今は男子、女子ともにアメリカにも強い選手がいますけれど、自分のことを信じてやるしかないので、四大陸選手権は自分を存分にアピールして世界選手権、さらにその先へつながる大会にしてほしいなと思います。日本のすごいところは、選手が途切れないところだと思います。途切れずにいつも表彰台にいますし、トップに位置しています。選手たちが自分たちで時代を作り上げているのが素晴らしいですね」

自身が出場した四大陸選手権の思い出について尋ねると、

「私は高校2年生で17歳の時に初めて四大陸選手権に出たんです。シニアに上がった年に出たのでとても名誉なことで、選手権というものに出られるだけでも私はすごく嬉しくて。最初の四大陸選手権は中国だったんですけど、荒川静香さん、村主章枝さんと一緒に出て楽しかった記憶しかないです。やっぱりそういう楽しかった記憶っていうのが大事だと思います。大会に出るのを楽しみにして、楽しいことが終わっちゃったみたいな、そういう感覚ってすごい大事だなっていうのを後から思いました。今の選手たちにはそういった気持ちを大事にしてほしいなと思います」

世界選手権に3回出場している中野さん。世界選手権の舞台とはどんな存在だったのだろうか。

「いや、もう夢の舞台ですね。オリンピックの次の夢の舞台だと思っていて。オリンピックは4年に1度で別格なんですけど、世界選手権に関してはシーズン最後を締めくくる一番大きな大会で、私たちにとってはそこを目指して、シーズンオフから練習を積んでいく一番の目標です。自分が出られるって分かっていたら気持ちは楽かもしれないんですけれども、全日本での勝負になるので出られるかも分からない。なのでグランプリシリーズなど大会を積み重ねて、経験を積んでいって、世界選手権につなげられるようにしていました。私は世界選手権に初めて出たとき、 そのシーズンはまさか出られると思っていなかったのですごく嬉しかったです。当時は予選があったので体力と集中力が必要で大変だったんですが、世界選手権は特別です。いつもテレビで見ている選手たちと一緒に滑れるということが、すごく新鮮で嬉しくて。でも、初めてだと気遅れせずに行けるんですよね。なんか勢いだけで行っちゃう感じで。うん、楽しかった思い出しかないですね、一回目の世界選手権は。二回目はもう忘れもしない東京の世界選手権です。そこに出るために、あの舞台に立つために、1年間、シーズンオフからすごい頑張ってきたって言っても過言ではないぐらいです。世界選手権の中ではもう甲乙つけがたいんですけど、やっぱり東京の世界選手権が一番出て嬉しかった大会ですね。すごく緊張したんです。やっぱり日本で行われる世界選手権に、スケート人生において出られる機会はほとんどないので。名古屋の全日本で世界選手権出場が決まったんですけど、母が『もう一度滑れるんだったら衣装作ろうかしら』と言うぐらい、家族も喜んでくれました。東京の世界選手権に出ることは特別でした。でも、その後に出たヨーテボリ(スウェーデン)も良かったです。3回しか出てないんですけど、私はその3回は全て特別な大会になりました。やっぱり選手にとって世界選手権というのは、オリンピックを除けばすごく特別な大会になると思うので、体調を整えて臨んでほしいなと思います」

中野さんは現在、ジャッジ、テクニカルとして大会に関わっている。どのような経緯で新たな取り組みをすることになったのだろうか。

「スケートをやめた直後は、もうスケートに関わらない思いが強かったんですけど、やっぱり何年か経っていろんな選手たちを見ていると、気になり始め、段々と何かしらスケートのお仕事をしたくなってきました。実は姉が先にジャッジをしていたので、ジャッジのことを教えてもらいつつ、ルールを勉強しました。年々、スケートのルールは複雑に変わってきているので、最初はルールを把握して、最前線にいるために審判の活動を始めたんです。審判の活動自体を始めたのは2013年なんですけど、その頃は本当に細々とやっていました。でもある時、子供の選手たちを見ていたらすごく楽しそうに滑っていて。それをこちらがしっかりと評価をしてあげたいっていう気持ちが芽生えてきまして。で、本格的に審判をやってみようかなと思ったのが、ここ4、5年ですね。 ちょっとずつ昇格試験を受け始めて、長い年月かかったんですけど、去年ようやくナショナル級まで取れたので、やっぱり取れたからには全日本の審判をしたいと思っています。また今年テクニカルの試験を受けまして、スペシャリストが受かったので、これからはその活動もしたいと考えています。いずれできたらコントローラーも取得しようと思っています」

今季のルール変更で、スピンに関するルールが大きく変わった。採点する側としてはさぞ大変なのでは?と質問してみた。

「スピンがすごく大変でした。パズルです。テクニカルの試験を取ってようやく分かりました。レベル判定するのはこんなに大変なんだ、と」

今季、スピンのレベルを獲得するための難しい特徴を、同じプログラムの中では一度使ったものは別のスピンに使ってはいけない、とされたのだ。コーチ、選手、テクニカル、皆が苦労したところだ。

「選手たちがプログラムに組んでいる内容をテクニカルパネル側が汲みとって、レベル判定をしなければいけない。選手が有利になるようにスピンのバリエーションを当てはめていきレベル判定する。ジグソーパズルですよね。ジャンプは見たままを判定すればいいのですが、スピンに関しては1つ1つのポジションやバリエーション、そして体の向き、エッジの傾き、シットスピンの場合は高さ、キャメルの場合は足の位置、……他にも非常に細かいところまで見ないといけないんです。それも一瞬のうちに、です。でも私たちジャッジも勉強させてもらう機会がたくさんあって、選手たちも勉強しているし、インストラクター協会の勉強会でもいろんなルールの勉強をしている。こんなに手厚いのはありがたいなと感じます」

中野さんと言えば、現役時代の象徴的なイメージとして、トリプルアクセル、そしてドーナツスピンがあった。スピンへのこだわりは強いのだろうと想像して尋ねてみた。

「スピンは全然得意ではないと思っていたんです。どちらかというとジャンプばかり練習していたんですけど、佐藤信夫先生に師事するようになってから『あなたはスピンが得意なんだから、もっと練習して磨いたらもっと速くなるよ』と言われ、いろんな技術を教えてもらい、エッジの乗り方とか、自分のエッジに対するカーブでどこに乗ると速くなるかなど、マニアックなところまで教えてくれました。そのおかげで、私はスピンが得意だったんだっていうことに気づいて練習するようになったんです。そうしたら私だけではなくクラブの小さい子たちもいっぱい練習するようになって。その小さい子たちから私も学ぶことが多くありました。小さい子たちは体も柔らかいし習得も早いので、こういう技もあるんだっていうのを一緒に勉強させてもらったりしていました」

審判の他にも、フィギュアスケートに関わる活動を続けている。

「こういったインタビューのお仕事がいただけるのであれば、フィギュアスケートのたくさんの魅力を伝えたいですし、時々講演会のお話をいただくので、スケートの真髄といいますか、こう見たらもっと面白いという、例えば衣装の魅力であったり、あとはスケート靴を合わせる大変さとか、あとは曲選び。そういった裏話みたいなことをお話しできたらなと思っています」

またペアについて、最近新たな取り組みを始めたそうだ。

「今季の西日本選手権で、初めてペアの審判に入りました。今はリフトもすごく難しいものが求められていて、リフトの入り方の要求も厳しいですし、ただ難しいだけではなく男性のスムーズさや音とマッチしているか、とても高度です。でもそれを選手達がちゃんとこなしているのが素晴らしいですね。またツイストリフトでも入る前に一つ技を挟んでいたり、スロージャンプで男性が女性を投げた後に何か技を入れたりしています。以前は女性が着氷したのを見届けてから、男性が動き出すことが主流だったんですが、今は女性が跳んでいる間に何か演技をすることもあります。それはGOE(技の出来栄え点)につながります」

こうした細かなところでも競技として進化を続けている、そんな点も見どころだ。かつて中野さん自身、ペアのトライアウトに参加したことがあるそうだ。

「ペアはユニゾンが問われる競技だと思うんですが、相性はすごく大事で、癖がお互い合ってないと、合わないんですよね。不思議なことに。私もトライアウトをした時に、スロージャンプやリフトでちょっと感覚が違う、少し違うと思うことがあったので、相性って大事だなって思います」

アイスダンスについては専門外だとは思うのだが、どのような接し方をされているのか伺ってみた。

「アイスダンスも観ています。さいたまの世界選手権では高橋大輔さんのアイスダンス姿を初めて観ました。年齢が一緒なんですけど、あれだけ動けて素晴らしいなと思います。あそこまで滑れるのが羨ましくなりましたね。」

現役時代、振付でズエワコーチにお世話になった際、同じリンクで錚々たるアイスダンサーたちと練習していたそうだ。ベルビン&アゴスト、デイヴィス&ホワイト、ヴァーチュ&モイヤー、シブタニ兄妹、チョック&ベイツもいたそうだ。改めて列記してみると綺羅星のごとくの豪華メンバーだ。

「あそこのスケートリンクにいられるだけで勉強になります。表現の仕方とか、エッジワークとか。彼ら、エッジが深いんですよね。腰の位置とか、指先まで、すごく細かく注意されていたので、アイスダンスはここまでやらなきゃいけないんだと思って、すごい勉強になった記憶しかないです。アイスダンスは相手に合わせることも必要ですし、世界観を、ステップと踊りで表現しなくてはならない。ズエワ先生からはタニスたち(ベルビン&アゴスト)、テッサたち(ヴァーチュ&モイヤー)をよく見てほしい、ああやって表現してほしい、って言われていました」

彼らの表現を真似することはとても大変だったというが、実は佐藤信夫先生からも、アイスダンスを観てシングルに生かすようにと言われ、グランプリシリーズではシングル競技が終わっても帰らずにアイスダンスを観ていたそうだ。最後に、スケートファンの皆さんへのメッセージをお願いした。

「スケートはたくさんの魅力が詰まっていて、選手たちそれぞれの個性、そして顔があると思いますので、そういった部分をたくさん見つけて、私もフィギュアスケートを愛する1人なので、私もファンの1人になって、一緒に選手たちを応援して、そして支えていきたいなと思います」

文:中村 康一 / Image Works

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中村康一(Image Works)

フィギュアスケートを中心に活躍するスポーツフォトグラファー。日本全国の大会を飛び回り、選手の最高の瞬間を撮影するために、日夜シャッターを押し続ける。Image Works代表。

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