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「ISUの意思決定システムについて」|町田樹のスポーツアカデミア【Forum:今シーズンのルール改正点とISUの中期ビジョン】
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部ルール変更のアジェンダはどのように作成されるのか?
スポーツアカデミアへ、ようこそ。町田樹です。今回のアカデミアでは、フィギュアスケートのルールフォーラムを展開していきたいと思います。
いよいよフィギュアスケートのシーズンも本格化し、国内外ではスケーターたちが熱戦を繰り広げています。パリオリンピック直後ということもあって、世間ではあまり意識されておりませんけれども、今シーズンはミラノ冬季オリンピックのプレシーズンです。来年3月の世界選手権ではオリンピックの出場枠が決まります。今シーズンはそのような大事なシーズンなのですが、実は今年6月に開催された国際スケート連盟の総会でルール改正がなされました。この改正に伴い、すでに選手たちは新しいルールに対応した演技を披露しています。
また、この総会ではルール改正のポイントだけでなく、ISUの中期目標であるビジョン2030も発表され、今後フィギュアスケートをどのように進行していくべきかが話し合われました。というのも、今フィギュアスケートは決して盤石な状態ではなく、その勢いに若干陰りが見られるものですから、競技の未来について真剣に話し合わなければならない時期に差し掛かっているというわけです。
さて、そこで今回は国際スケート連盟の技術委員としてご活躍されている岡部由紀子先生をお招きし、ルール改正のポイントやISUのビジョンについて深掘りしながら、フィギュアスケートの今後を議論していきたいと思います。
ISUの意思決定システムについて
町田(以下M):私たち選手やコーチ、振り付け師は、ISUが決定したルール改正を粛々と受け入れて対応して、より良い演技を追求することが仕事です。けれども、スケート界全体に関わるルール改正は、どういうプロセスを経てなされるものなのでしょうか。裏側を勉強したいと思います。そもそも最初にアジェンダと言って、ISUとしてこうしたルール改正を考えていますよというものが出されるわけですけれども、このアジェンダはどのように作成されるのですか。
岡部(以下O):大きくはISUの理事会から出されるルール改正のアジェンダ。それから、技術委員会から出されるもの。各国=メンバーと呼んでいますけれども、各国が出してくるアジェンダ。それは、自由に出すことはできます。
M:こういうことを考えてほしいとISUにお願いすることはできる。ただ、オープンに集めると、ものすごいことになるわけじゃないですか。それをどう取捨選択していくのでしょうか。
O:ルールとして成立が全くしないものも、その中にはあったりするんですね。そういったものを理事会が精査します。どうしようもないものは残念ながら落とされていくのですが、残したものに対して総会で決議していくという形になります。
M:理事会と技術委員会と各国のスケート連盟、メンバーが集めてきて、それを1回理事会にかけて選別されたものが総会にかかっていくというプロセスなんですね。
O:ですので、我々技術委員会が出した提案さえも理事会で落とされることはあります。
M:ISUという組織の中で理事会は、それなりの決定権、権限を持っているんですね。そうして総会にアジェンダ、プロポーザルがかかる。そして、総会で投票していくと思うんですけれども、具体的に一つひとつのルール改正点の可決、否決はどのように決まっていくのですか。
O:一つひとつが投票で行われて、過半を取ったものが残ります。緊急のものに対しては、もう少し大きな票をもらわないと、決定できない、可決できないところがあります。ただ、テクニカルのことに関しましては、パッケージと言いまして、全部をひっくるめて、それに対して可決するのか、否決されるのかという仕組みになっています。
テクニカルのところは、スピードとフィギュアにわかれまして、フィギュアのところをブランチとして話し合いをする中で「ここはもう少し変更した方がいいのではないか」という話も出てきます。それを加えた上で、最終日に全体を、全てのパッケージとして投票する形を取ります。
M:パッケージの単位は、どのような単位になるのですか。例えば「ジャンプは延期しましょう」というようにふるいにかけますが。
O:ジャンプだけではなく、ルールブックに書かれているテクニカルの部分というものがあります。テクニカルはシングルペアが1パッケージ。それからアイスダンス。シンクロもあります。
その中のパッケージとして話し合いは行われるのですが、最終的には、その話し合いを行った後に、それを入れたものを賛成するのか、反対するのかという投票が行われて決まっていくんです。
M:本に変更点を組み込んでしまって、このルールブックを可決しますか、否決しますかということなんですね。よくわかりました。そうして、投票で過半を取ったものが可決されるわけですけど、投票資格があるのはISUメンバーだと思います。イコール各国スケート連盟という認識でよろしいのでしょうか。
O:そうです。日本、アメリカ、カナダ。大きな国も1票。それから、まだまだ発展途上の国がありますよね。そういった国も1票。価値は同じ1票ですので、フィギュアスケートのルールをよくわかって、選手の育成のために、これからのフィギュアスケートの未来のためにどうするべきかを本当に真剣に考えた代表が総会にやってきて、そして票を入れる。ただ、中には本当に小さなまだまだ発展途上の国もいらっしゃいます。
M:選手数も数名とかありますよね。
O:世界選手権にも全く届かない。そうした選手を抱えている。国にリンクが1個あるかどうかという国の方たちは、そこまでルールを理解してやってきて、投票しているかというと、クエスチョンマークというところが実はあります。でも、そういう国も同じ重さを持った1票を持っている。そこに歪みのようなものもあるのかなと思います。
M:良し悪しがあるということですよね。そうして、私たち日本のスケート連盟も1票投じに行くわけですけれども、日本だったら日本スケート連盟が日本のスケート界の代表として投票に行くわけですが、国内における賛成や反対、今後どうしていくべきなのかといった意見を取りまとめ、コンセンサスを作っていくのは、どうしているのでしょうか。
O:フィギュアの方ですが、フィギュア委員会というのがありまして、そこで取り上げます。フィギュア委員会の中から「このプロポーザルを出したい」ということですね。フィギュア委員会の中にはもちろん規約部もありますし強化部もあります。そういったところから意見を吸い上げて、アジェンダとして出していく、出していかないということになります。
すべてのものをそこで決定するんですけれども、その上に国際部があります。この国際部の中で、これはプロポーザルとして出すべきだ。そうではなく、これは様子を見ましょうという形を取っています。
M:よくわかりました。そして、いくつかのアジェンダが2026~27シーズンに持ち越されました。そちらについてもご紹介したいと思います。
2026~27シーズンに持ち越された変更点
2026-2027年シーズンに延期されたルール改正点
O:全部で7から6にジャンプエレメンツが減るんですけれども、その中で同じ種類のジャンプは3つにする。そうしないと4回転ルッツを2個入れて、また2つ入れてということが起きる。すると、ジャンプレメンツ6つのうちの4つがルッツになってしまう現象が起きるので、それは避けたい。
3つまではジャンプの回転数は扱い方は同じですので、そのようにしていくべきではないかということで、皆さんからも賛成をすぐにいただけたものです。
M:偏る選手いますし、1回もやらない種類のジャンプも見られます。それから3つ目は、オイラージャンプの位置付けが変更になりました。今までは、なんとかジャンプ、オイラー、なんとかジャンプという、3連続ジャンプが認められていましたが、ひとつとしてはカウントされない。
O:今まではジャンプとジャンプの間にあったオイラーに関してはシングルオイラーとしてシングルループと同じバリューを持っている。そこが、今後のものに対しては、オイラーはシングルオイラーではなく、オイラーという表記になっていき、ジャンプもそのままになって、次のジャンプ。なので、3つまで大きなコンビネーションもありますので、そこにもうひとつジャンプをつけることができるとなっていくということなんですね。
M:今までは、なんとかジャンプ、シングルオイラー、なんとかジャンプとして、3連続で認められてしまっていたものが、オイラーは表外なので、なんとかジャンプ、Eu、なんとかジャンプ、なんとかジャンプまでできると。見た目的には4連続ができるということですね。
O:はい。オイラーをできないとなってしまうと、今度は降りた足を踏み切り足にしなくてはいけないので、トウとループしか後につけられないということなんですが、オイラーを挟むことによってフリップとサルコウも可能になってくる。それをなくすわけにはいかないといいますかバラエティがなくなってしまうので、それを残しつつ、でもひとつジャンプエレメンツが減ってしまった分、やはり多くの可能性を残したいので「オイラーは表外ジャンプ扱いにして使えますよ」となりました。
M:オイラーを含めた4連続ジャンプは迫力ありそうですね。続いて4つ目。コレオスピンやコレオペアスピン、コレオリフトが導入される。スピンは3つレベルを審議されるスピンだったわけですけど、そのうちのひとつ。自由に回っていいというコレオスピンになる。ペアもそう。ペアのリフトも、ひとつは自由にあげていいというコレオリフトになる。これは最近の潮流ですよね。サーキュラーステップとサーペンタインステップとストレートがひとつのステップシークエンスになって、もうひとつはコレオシークエンスにしましょうというのと同じような流れということですね。
O:コレオスピンを入れることで、今までもレベルを取るために忙しく、いろいろなバリエーションをしたりするのではなく、音楽に合っていれば、何をやってもいい。3回転さえ回れば、何をやってもいいという自由さがあるけれど、音楽に合った質のいいスピンも見たいのでコレオスピン。コレオペアスピンも同じですね。例えば手と手を持って振り回してもいいということです。
リフトに関してもいろいろ規制があって、レベルを取るために大変だったのですが、音楽に合っていれば何をしてもいいですよということになりました。
M:新しい形が開発される可能性もこれによってあるかもしれないということですよね。ただ、再三ここで言っておかなければいけないのは、これは予期されてはいるもののミラノ五輪直後のISU総会でもう1回審議されるということですよね。
O:我々としては、実際にこれがそうなっていくと信じているんですけれども、中には、もしかしたら2年後に反対してくる可能性はゼロではない。それは、きちんと考えておかなくてはいけないなと思っています。
M:ですから、ミラノ五輪が終わった次のシーズンに向けたプログラム作りは、やはり気をつけなければいけない。でも予期しないと作れないという、これまたジレンマがある。難しいですね。
O:皆さんがどう考えていくかは、オリンピックが近づくにつれて見えてくるところがあると思います。今回も「ミラノ五輪後だったらいいですよ」ということで納得してくださった国々がたくさんありましたので、そうなっていくのではないかなと信じています。
M:難しいですね。十中八九そうなるであろうとは推測されるが、もどかしいけれども、最後まで確定はできない。この辺りどうなるのか、注視していきたいと思います。
文:JSPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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