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アンバー・グレンがパーフェクトな演技で初のシニア全米王座へ「あらゆるハードワークが報われた。長い旅でした」 | 全米フィギュアスケート選手権2024 女子シングル レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部全米フィギュアスケート選手権2024 女子シングル
繊細で、感激屋の24歳は、嬉し涙を止めることができなかった。ずっと待ち望んできた栄光が手に入った。パーフェクトなショートプログラムと、パーフェクトな3回転アクセルを飛んだフリースケーティングの果てに、アンバー・グレンが生まれて初めてシニアの全米王座に上り詰めた。14歳で全米ジュニア選手権を制してから、ちょうど10年目の歓喜だった。
「とてつもない衝撃に襲われました。私がここまで続けてきたあらゆるハードワークが報われたのですから。長い旅でした」
会場を総立ちにしたパワフルな演技で、まずはSPを2位で折り返した。ジャンプはことごとく高い出来栄え点(GOE)を勝ち取り、スピンもステップも、文句なしにすべてオールレベル4の評価を得た。74.98点の高得点で、SP首位イザボー・レヴィトにはわずか0.40点差でぴたりとつけた。
FSも冒頭の3回転アクセルは完璧に着氷した。3シーズン前から繰り返し挑戦し、今季ついに自らのモノとした大技を、改めて毅然と成功させた。その後も次々と問題なくジャンプを決めていく。ところが後半、演技が乱れた。まずはコンビネーションの予定が、シングルジャンプのみに留まった。さらにプログラム最後のジャンプは、フリップが1回転にしかならなかった。音楽が止まった直後の、グレンの表情は硬かった。
得点は135.48点でFS2位と、決して悪くはなかった。技術点だけで見れば4番手に過ぎなかったが、演技構成点で、他のメダリストを3点以上も大きく引き離している。特に今大会はスケーティングスキルの項目で、SP・FSともに、圧倒的なトップの得点を得た。
……もしもディフェンディングチャンピオンが本来の滑りさえ見せていれば、ドラマチックな逆転劇は起こらなかったのかもしれない。しかし、国のナンバーワンを決める大イベントには、時に魔物が顔を出す。レヴィトはFSで3回転倒し、大幅に点を落とした。総合得点210.46点で、グレンが遅咲きの全米チャンピオンになった。
「今夜のパフォーマンスは、私がお見せしたかったものではありませんでした。初めてのナショナルタイトルを、こんなやり方で獲りたかったわけではありません。それでも、勝てたことに対しては、感謝の気持ちにあふれています」
クイアを公言する女性フィギュアスケーターとしては、初めての全米選手権制覇だった。LGBTQIA+の象徴である「プライド」フラッグを肩に羽織り、グレンはリンクで誇らしげにウィニングランを行った。
「カムアウトした時は怖かった。これが私のスコアになにか影響するかもしれないと恐れました。でも若い人たちが、『私たちも自分自身を隠そうとする必要などないのだ』と、リンクでの環境をより快適に感じている姿を見ると、公言した価値がありました。こういう側面を持っているからという理由だけで、あなたがトップアスリートになれないという意味にはならないんです」
また今回の優勝を受けて、グレンの自身2度目の世界選手権行きが決まった。同時に大会翌週に中国・上海で行われる四大陸選手権は、出場を辞退。すぐに練習拠点のコロラド・スプリングスに帰り、休養と再調整に入るという。なにしろ2025年ワールドは母国アメリカのボストンで執り行われる。アメリカ女子に「3枠」を絶対に持ち帰らねばならないと、新全米女王は大いに意気込んでいる。
逆転劇はひとつではなかった。ジョセフィーヌ・リーはSP5位から一気に10点近い差を詰めて、銀メダルへとジャンプアップを果たし、サラ・エヴァーハートもSP6位から4位ピューターメダルを手にした。2月に16歳になる前者も、17歳の後者も、いわゆるノーミスの演技を2本そろえた。スピンやステップでほんのわずかなレベルの取りこぼしはあったものの、丁寧に、すべてのジャンプを成功させた。今季前半戦はジュニアグランプリを戦った10代の2人の、大きな躍進だった。
一方で2年前の全米ジュニアチャンピオンのクレア・セオは、SPで3位につけながらも、FSでは上手くジャンプが決まらずトータル5位に陥落。今季のNHK杯2位の実力者リンジー・トルグレンもまた、ジャンプに苦しんだ。故障を抱え、3回転ジャンプの練習を、大会前週にようやく再開したばかりだったという。SPではぎりぎり4位に食い込んだが、最終的に7位で大会を終えた。
なにより真新しいプログラムで臨んだSPでは、輝かしく艶やかな演技で首位につけたレヴィトの、FSでの失速が、戦いを見守る者たちの心を痛めた。
たしかに冒頭のコンビネーションで転倒はあった。崩れるように膝を折りながらも、しかしレヴィトは素早く立ち上がると、その後も集中力は切らさなかった。プログラム後半1本目のコンビネーションジャンプまで、問題なく飛び切った。そこからのコレオシークエンスも、優雅に伸びやかにこなした。
「今夜はまるで熱に浮かれた夢のようでした。震えましたし、すごく緊張しました。最初のミスを犯した時、『私はいったい何をしているの?』という状態でした」
ただ、続いて予定していたコンビネーションの、1本目で再び氷に崩れ落ちると、ここまで気力で支えていた16歳の体力が切れてしまったのかもしれない。プログラム最後のジャンプ、3回転ループで3度目の転倒。減点4を喫した。
「ナショナルでは、どうしてもすごく固くなってしまうんです。タイトルを失いたくない、と考えてしまいますから。去年勝ったからこそ、今年も私は勝たなければならない、と頭のどこかでこだわっていました」
早熟で才能高き選手だからの、苦悩。FS4位125.30点は、レヴィトがシニアとして挙げた得点としては最も低かった。それでもトータルではしっかり3位に食い込んだ。シニアとしては3年連続で、あらゆる年代別カテゴリーを通すと7年連続で、全米ナショナルチャンピオンシップの表彰台に登った。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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