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高みを目指す宇野昌磨が大会2連覇の偉業に挑む | ISU世界フィギュアスケート選手権2023 男子シングル プレビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部友野一希、宇野昌磨、山本草太
で、初めて世界王位を射止めてから1年。「成績が落ちてしまってもいい。新たな挑戦をしながら、もっともっと成長したい」。こう公言し、決して失敗を恐れず、ひたすら高みを目指してきた宇野昌磨が、2023年世界選手権へ新しいタイトルを獲りに行く。
今シーズンは全戦全勝で突き進んできた。GPファイナルは5度目の参戦でついに金メダルに到達したし、全日本では9年連続表彰台5度目の栄光に輝いた。憧れの選手たちを夢中で追いかけてきた25歳が、今や自らが頼もしい背中を見せつける存在となった。
後輩からもたくさんの刺激を受ける。昨シーズンは日本の後輩、鍵山優真のジャンプやプログラムの完成度の高さに圧倒され、自らも負けていられないと奮闘した。今季はイリヤ・マリニン(アメリカ)の4回転アクセル成功に、やる気を大いに掻き立てられた。だからこそアスリートとして、今季もフリースケーティング4回転4種類5本の高難度構成に強くこだわる。
むしろ今季の宇野にとって、大会第一の関門はショートプログラムかもしれない。アーチストとしても高い資質を有する世界チャンピオンは、SP「グラビティ」で新たな表現力への扉を開けた。メロウでセクシーなギターブルースに、今季前半の宇野は、コンビネーションジャンプを完璧に落とし込むことができなかった。GP大会2戦は同要素のミスが響きSP2位発進となったし、GPFも全日本も、4回転+2回転止まり。……とはいえ昨季もシーズン前半戦は4+2で通してきたが、後半戦は4+3にシフトアップ。今年もシーズンのクライマックスに向けて、問題なく仕上げてくるはずだ。
逆にFSでは、クラシカルで、ノーブルな、宇野らしい魅力がさらに深まった。プログラム前半は「G線上のアリア」の流れるような弦楽器のハーモニーを、氷上に豊かに描き出し、後半はアリア曲「我が苦しみよ、急げ!」で劇的に締めくくる。競技性と芸術性の完全なる融合を、この世界選手権でも、改めて披露してくれるに違いない。
かつて浅田真央が3度、安藤美姫が2度、羽生結弦が2度と、世界選手権優勝を複数回成し遂げてきたが、いまだ2連覇を果たした日本選手は存在しない。それほどまでに難しい試練に、宇野昌磨は母国日本で挑む。
金メダル大本命として参加するはずだった7年前の世界ジュニアの直前に、右足首骨折して以来、苦しいシーズンをいくつも乗り越えてきた山本草太は、ようやくシニア世界選手権の大舞台までたどり着いた。
まるで失われた時間を取り戻すように、今季は前半戦から好成績を連発。フランス杯で生まれて初めてGP大会表彰台乗りを果たし、続くNHK杯でも同じ成功を繰り返した。初めてGPFにも進出を果たし、金メダルの宇野の横で、銀メダルも手に入れた。初めての世界選ながら、当然メダル候補の一角として名を挙げられる。
ついに「正代表」の座を射止めた友野一希も、自己最高5位を上回る成績が期待できる。「代打の神様」として参戦した昨世界選ではSP3位に食い込み、大舞台にふさわしい実力を証明すると共に、日本男子スモールメダル独占の快挙を演出した。なにより最高のエンターテイナーとして知られる友野は、今季もプログラム締めのステップシークエンスで……観客をたっぷり魅了してくれるはず!
宇野の最大のライバルであり、今大会最大級の目玉は、やはりアメリカ代表のマリニンだろう。4回転アクセルの衝撃を、さいたまスーパーアリーナは待っている。
9月中旬のUSクラシックのFSで、史上初めて公式で完璧な4Aを成功させたマリニンは、この基礎点12.5点超大技を今シーズン計6回飛んできた。クリーンな着氷は3回。GPアメリカ杯では、冒頭のこの1本だけで16.61点もの高得点叩きだした。一方で4分の1回転不足が3回で、うち転倒も1回あった。全米選手権ではわずか6.25点(さらに転倒の減点1)に留まり、リスクの大きさも物語る。
「クワッド・ゴッド」の武器は、決して4回転アクセルだけではない。FSにはやはり4回転4種5本を組み入れる。しかもジャンプの基礎点が1.1倍となるプログラム後半に、4+1+3のコンビネーションジャンプをねじ込んでくる。体力を恐ろしく消耗する構成であることは間違いない。世界で唯一4回転全6種を飛びこなす18歳だけに、今季何度か種類を入れ替え、ベストチョイスを模索してきた。今大会では間違いなく、マリニンにとって現時点最高の組み合わせが披露される。
ただジャンプ以外はまだまだ成長過程。GPファイナルFSではほぼ全てのジャンプを完璧に飛びこなし、TES技術点では宇野を約3点上回ったが、PCS演技構成点では逆に宇野が16点近くも引き離している。
そのPCSで全参加中最高のパーソナルベストを誇るのが、同じアメリカのジェイソン・ブラウンだ。ご存知、伸びやかなスケーティングと、柔らかな肢体と、極限までに磨き抜かれたプログラムを武器に、4回転抜きで数々の名誉を勝ち取って来た。しかも北京五輪後、アイスショーを転戦することで、持ち前の芸術性はさらに成熟度を増した。全米選手権での「競技会復帰」は銀メダルで祝った。今大会でも、我々をたっぷりと陶酔させつつ、確実に上位に食い込んでくる。
過去3大会は日本とアメリカが男子表彰台を独占してきたが、ヨーロッパ勢も奮闘したい。欧州チャンピオンのアダム・シャオイムファ(フランス)や、昨年末GPFに欧州勢として唯一進出したダニエル・グラッスル(イタリア)は、どこまで表彰台争いに食い込めるか。かつての好調さを取り戻しつつある元GPF3位ケヴィン・エイモズ(フランス)や、今季イタリア選手権優勝以降調子の良さを維持しているマッテオ・リッツォ(イタリア)、今季英国杯で自身初のGP表彰台に乗ったデニス・ヴァシリエフス(ラトビア)等々も伸びやかなスケーティングスキルや高い表現力で、必ずや魅力的なプログラムを届けてくれるはずだ。
また四大陸選手権では4位終わったチャ・ジュンファン(韓国)は、本来のパフォーマンスさえ出すことができれば、表彰台争いに食い込む高い実力はある。その四大陸で嬉しい競技復帰を果たしたボーヤン・ジン(中国)の、4年ぶりの日本での試合出場も、心から大歓迎したい!
そしてキーガン・メッシング(カナダ)にとっては、キャリア最後の世界選手権。昨四大陸選手権で、キャリアで初めてISUチャンピオンシップの表彰台に乗るなど、最高の引退シーズンを全力で突っ走って来た31歳には、自らのルーツでもある国で……思いっきり楽しい時間を味わってほしい。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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