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18歳のイリヤ・マリニンが強さを証明。FSでのミス振り返り「僕はただそれを乗り越え、次へと向かうだけ」 | 全米フィギュアスケート選手権2023 男子シングル レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部イリヤ・マリニン
クワッド・ゴッドの初戴冠。18歳のイリヤ・マリニンが、世界中のファンの期待通り、2023年全米選手権男子シングルの戦いを制した。素晴らしく進化したショートプログラムと、小さな失望と大きな驚嘆とが入り交じったフリースケーティングとで、初めての金メダルに輝いた。
「あまりに自信があったせいで、あれこれ考えすぎて、先走ってしまったんだと思います。でも大丈夫。経験から学んでいきます。それにシーズンはまだ終わってはいません」(マリニン)
110.36点。マリニンがSPで叩き出したのは、全米選史上6番目のとてつもない得点だった。これを上回るのは、「休養中」のネイサン・チェンとヴィンセント・ジョウの2人だけ。それほどまでにマリニンは、全てのエレメンツを極めて高い完成度で披露した。
プログラム冒頭で大きく流れのある4Lz+3Tを決めると、もはや勢いは止まらなかった。惚れ惚れするような4Tは、9人のジャッジのうち6人がGOE+5(つまり満点)の判定を下した。3Aにも大きな加点がついた。しかも、開幕前に「ジャンプ『以外』の要素に集中していく」と宣言していたように、この日のマリニンはスピンやステップですべてレベル4を得た。上体をしなやかに使い、緩急あるムーブメントを一つひとつ丁寧にこなし、演技構成点でも全体で2位の高評価!
「今季のSPを分析し、どこを改良すべきかを考え、その部分に集中してきました。これが今日のパフォーマンスにつながったと思いますが、自分が上手くやり遂げられたことには驚いてます」(マリニン)
2位ジェイソン・ブラウンに10点以上の差をつけ、なにより3位以下は25点近くも突き放し、マリニンは笑顔で首位に立った。
一方でFSの終わりに、マリニンは悔しさを隠せなかった。9月のUSクラシックで史上初めて成功させた時から、必ず着氷してきた4Aで、まさかの転倒があった(+4分の1回転不足)。続く3つの4回転ジャンプ(F、Lz、S)は圧巻の出来ながら、後半に入ると再びミスを連発。4Lzからの3連続ジャンプの予定が、2Lzのシングルジャンプに。さらにこれまで組み入れていた3F+3Tを、「4回転5種類6本」に挑むため4T+3Tに格上げしたはずが、上手く合わせられず2T+1T……。演技後に「冒頭から意欲もエネルギーも出なかった」と振り返ったように、あきらかに本調子ではなかった。
しかし、直後に、マリニンは凄まじい底力を見せる。3Lz+3Aのシークエンスの終わりに……3Tをねじ込んだのだ!ただでさえ基礎点15.29点という大技を、19.91点のさらなる超大技へと引き上げた。GOE出来栄え点を含むと21.28点。ISU非公認とはいえ、たった1つの要素でこれほどの得点が記録されたことが、果たしていまだかつてあったのだろうか(北京五輪のネイサンの4Lz+3Tでさえ21.21点だ)。
若さゆえの不安定さと、それをはるかに上回る強さを示して、マリニンは全米チャンピオンになった。FSだけなら2位の177.37点だったが、圧倒的な立場は揺るがない。トータル287.74点で、ネイサン・チェンが6年間守り続けてきた玉座へ、駆け上がった。
「いつだって浮き沈みはあるもの。僕はただそれを乗り越え、次へと向かうだけです。この大会を振り返って、取り組むべき課題を探っていきます。世界選手権へ向けて、もっともっとよい準備をするために」(マリニン)
次々と繰り出す4回転で、マリニンが話題を振りまいたのだとしたら、約1年ぶりに競技のリンクに戻ってきたジェイソン・ブラウンは、その完成された表現力で私たちを陶酔させた。
2020年の春に振り付けし、その後はエキシビションやショーナンバーとして温めてきた「メランコリー」を、SPでジェイソンは美しく舞った。崇高な芸術作品は、淀みない技術に裏打ちされていた。冒頭の3Fはジャッジ9人中7人が、ステップシークエンスとコンビネーションスピンは8人が、GOE+5の最高評価で絶賛した。演技構成点の「構成」には9人中6人が、「プレゼンテーション」には7人が、10点満点を惜しみなく与えた。4回転はなくとも、全米選手権で5大会連続のSP100点超えにふさわしい出来だった。
「このSPが大好き。背後には秘められた意味が大きくて、だからこそリンクの上でこれを演じるのは、僕にとってパーソナルな瞬間なんです」(ブラウン)
笑顔で手を振るジェイソン・ブラウン
FS「インポッシブル・ドリーム」もまた、卓越したスケーティングが映えた。プログラムの最後の最後で、3Fに転倒があり、たしかに直後のスピンのレベルに響いた。ただ、ジェイソンが紡ぎ出す幸福な時間の中では、そんなミスなどほんの些細なものにすぎない。あらゆる緩急を完璧にコントロールしたステップシークエンスでは、ジャッジ全員がGOE満点を出した。まるで氷上の詩人だった。
「僕のキャリアは、多くの意味で、終わりを迎えていました。でもここのリンクに帰ってきて、再び演技を行い、自分の物語を書き直そうと、僕自身が選んだのです。そして、これこそ、僕が最も誇りに思っていることです」(ブラウン)
FS177.06点、トータル277.32点で、ジェイソはが5年連続8度目の表彰台を楽しんだ。2014年ジェレミー・アボット以来の最年長となる、28歳での全米メダル獲得。フィギュアスケーターとして、喜びも悲しみも味わい尽くしてきたジェイソンは、新しい銀メダルを手に再び競技人生へと漕ぎ出していく。次の旅はもちろん、3月末の世界選手権@さいたまだ。
マリニンやジェイソンと並んで、世界選手権への切符を手に入れたのは、アンドルー・トルガシェフ。21歳の元全米ジュニアチャンピオンは、ひどく遠いところから戻ってきた。故障に苦しみ、丸々2シーズンを棒に振った。今季いくつかの国内ローカル試合を戦い、地方予選を経て、ようやくたどりついた全米選手権だった。
SPは出走18選手中1番滑走。最初の4Tで転倒と回転不足があった以外は、丁寧に、ほぼノーミスでプログラムをまとめあげた。5位78.78点で、表彰台まで6.65点差につけた。
FSは最終グループで戦った。この日は冒頭の4Tを綺麗に決めた。たしかに4回転を飛んだのはこれ1本だけ。しかし3回転を美しく、確実に飛ぶことで、GOEで高い加点を積み重ねた。ステップとスピン1つがレベル3に留まったものの、ダイナミックでパワフルなコレオシークエンスでは、ブラウンに肉薄するほどの高加点を得た。2年間の空白を埋めるような、熱演だった。
得点が発表された瞬間、トルガシェフは両手で顔を抑え涙ぐんだ。トータル255.56点で、大きな銅メダルをつかみとった。FSだけならマリニンを0.41点上回り、金色のスモールメダルさえさらいとった。
「一生懸命トレーニングをしてきました。自分のすべてを捧げ、ベストを尽くし、毎日1%成長しようと努力してきました。だから自分の滑りには、驚いてはいません。それでも、この舞台で、これほど久しぶりにあの滑りが出来たことは、信じられないことです」(トルガシェフ)
SP3位の好演技を見せた2020年ジュニア世界選手権以来、トルガシェフはISU公認大会に1試合も出場していない。つまり世界選手権の出場条件、いわゆる「ミニマム」(直近2シーズンの技術点の最低ライン)は、当然クリアできていない。トルガシェフは急遽、2月末にオランダで行われるチャレンジ・カップに出場予定。ミニマムスコア獲得を目指す。
マリニンやトルガシェフと同じく、元世界的フィギュアスケーターを両親に持つマキシム・ナウモフが、4位ピューターメダルを獲得。3年前の全米ジュニアチャンピオンはSP・FSともにジャンプでミスがあったものの、伸びやかなスケーティングから繰り出されるスピンとステップは、メダリストの中で唯一のオールレベル4。「自分が期待していた以上」の出来で、生まれて初めてのシニア全米表彰台に登ると同時に、四大陸選手権出場権を勝ち取った。
またFS後半に熱演を実現させ、自己最高5位で終えたジミー・マと、SP4位で折り返し、FS前半でミスが続いたものの後半しっかり盛り返して総合6位入賞のリアム・カペイキスも、次戦は母国アメリカで開催される四大陸選手権だ。
ノーミスでSP3位に飛び込んだ樋渡知樹は、FS冒頭のジャンプで大きく転倒。その後ミスが続き、トータル10位に後退した。また昨世界選FS3位のカムデン・プルキネンは、SPでの2度の転倒で11位と大きく出遅れた。FSでもジャンプに苦しみ、最終的に7位で終了した。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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