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ジョージア人として史上初の欧州王者。20歳のグバノワ「これはコーチたちと続けてきた努力の成果」| ISU欧州フィギュアスケート選手権2023 女子シングル レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部アナスタシア・グバノワ
ロシア生まれのアナスタシア・グバノワが、技術・表現力ともに上質なパフォーマンスを実現し、ジョージア人として史上初の欧州チャンピオンになった。優勝大本命と目されていたルナ・ヘンドリックス(ベルギー)は、ジャンプのミスに泣き、銀色のメダルで帰途についた。若くフレッシュな才能が次々と台頭し、中でも初出場16歳キミー・レポンド(スイス)が、勢い良く表彰台の3段目に飛び乗った。
「すべてのエレメントを終えた後、ただ幸福な気持ちで満たされました」(グバノワ)
しなやかで切れのあるコンビネーションジャンプから、グバノワのSPは幕を開けた。その3F+3Tと並んで、回転の速い3Lzでも、自己最高のGOEを叩き出した。しかも3つのジャンプ要素を完璧に揃え、技術点で全参加29選手中ダントツのトップスコアを得ただけではない。「Istanbul Wedding」の甘美で繊細なメロディに乗って、表現力豊かに静謐な世界を創り上げると、演技構成点でも2番目の高評価。パーソナルベストの69.81点を手に、グバノワはSPを首位で折り返した。
ロシア所属のジュニア時代に、すでに世界の頂点を争った経験がある。2016年Jrグランプリファイナルでは、平昌五輪金メダリストのアリョーナ・ザギトワと昨季世界チャンピオンの坂本花織に挟まれて、2位に食い込んだ。ただしシニアでは初めての、なにより昨季ジョージアに所属変更して以来の、初めてのビッグタイトル獲得のチャンス。
「SPのことは忘れて、冷静な頭で、FSに臨まなくてはなりません。後はただ自分のなすべきことをするだけ。そしてスケートを楽しむだけです」(グバノワ)
グバノワは凛と立ち向かった。アルカイックスマイルをたたえながら、いわゆる「ボリウッドメドレー」を楽しく舞い踊ったFSでも、確かな技術力は揺るがなかった。3Fでダウングレードを取られた以外は、すべてのジャンプを成功させた。最後のスピンは早くも嬉し涙があふれてきてしまったせいか、レベル3に留まったけれど、その他のスピンやステップはみなレベル4判定。女王にふさわしい堂々たるパフォーマンスだった。
やはりTES(3位)とPCS(2位)でバランス良く得点を積み重ね、FSも全体で1位=130.10点におさまった。トータルでは200点にあとわずかに迫る199.91点。20歳のグバノワは自身として生まれて初めての欧州タイトルを手にすると共に、2012年エレーネ・ゲデヴァニシヴィリ銅メダル獲得以来10大会ぶりに、ジョージア人女性として欧州選手権表彰台へ上がった。
「これはコーチたちと続けてきた努力の成果であり、家族や友達から受けてきたサポートの結果です。どんなに苦しい時でも、彼らは、いつも私の側にいてくれました。だから、このメダルは、単なる私個人へのご褒美ではないんです」(グバノワ)
なにより1991年に国家として独立し、1993年ヘルシンキ大会から欧州選手権に選手を派遣してきたジョージアにとっては、30年目にして初めて手にした金色の栄光だった。
ヘンドリックスには、ベルギー女子として初の、そしてベルギーにとって76年ぶりの欧州金メダルが期待されていた。実績の面でもスコアの面でも、間違いなく優勝大本命だった。プレッシャーがあまりに大きすぎたのかもしれない。SP後の記者会見で、ヘンドリックスは何度もこう繰り返している。
「自信を取り戻し、FSではスケートを楽しまなければなりません」(ヘンドリックス)
SPもFSも、ヘンドリックスは力強く滑り始めた。冒頭のジャンプを見事に決めると、流れに乗って、プログラム前半だけなら完璧な演技を披露した。
ところがSPでは後半に組み込んだ3つ目のジャンプ要素3lz+2Tで、痛恨のミス。1本目に回転不足があり、2本目も着氷時に手をついた。FSもやはり後半1発目の3Lzが回転不足&転倒。2つ目の3Fは、ダウングレード&転倒の影響でコンビネーションにできず、繰り返し違反さえ取られてしまう。
「できる限り重圧をはねのけようと努め、できる限り最高のスケートをしようと心がけました。自分のために。ほかの誰のためでもありません。それを心に留めていました」(ヘンドリックス)
この3つのジャンプの失敗が明暗を分けた。もちろんミスの後はすぐに立て直した。プログラム後半の華ともいえるステップやスピンは、まばゆいばかりにダイナミックでゴージャスだった。SPは規定要素のステップとスピンをすべてレベル4でまとめた上に、誰よりも高いGOEをもぎ取った。FSも当然のようにオールレベル4。しかも弾力性のある肢体から繰り出されるステップ&コレオシークエンスは、群を抜く加点を得た。PCSだけなら、次点以下に1点以上の差をつけた。それでも、トータルの得点では、ヘンドリックスは首位には届かなかった。
「もちろん銀メダルを取れたことは嬉しく思っています。でも、もっと良いパフォーマンスが出来ていれば、もっともっと嬉しく感じられたはずです。だからこそ少しがっかりしているんです」(ヘンドリックス)
自身初の欧州メダル。しかし昨世界選手権で銀メダルに輝き、今GPF銅メダルのヘンドリックスにとって、決して満足できる演技内容ではなかった。
ただベルギーにとって朗報だったのは、初出場ニーナ・ピザッローネが5位に飛び込んだこと。特にFSでは、TESに関しては、全体で上から2番目の得点を叩き出した。難度の高いジャンプを飛びこなした16歳は、瑞々しく伸びやかな演技や可憐な演技力でも、見る者を虜にした。
「全力を尽くしましたし、自分のパフォーマンスに満足しています。FSではパーソナルベストも更新しました。今後に向けての励みになりますし、まだまだ上達していけます」(ピッザローネ)
エストニアのニーナ・ペトロキナ(6位)もまた、メリハリのある演技で存在感をアピール。ISU国際スケート連盟が推す2023年アワードの「Best Newcomer」部門にノミネートされた18歳は、もしかしたら、期待通りの演技はできなかったのかもしれない。SPとFSでそれぞれ2つジャンプ要素でミスを犯し、FSの得点発表後には泣き出してしまったほど。それでもPCSの高さは誇ってもいいはずだ。ヘンドリックスやグバノワ、さらには人生の喜びも悲しみも巧みに紡ぎ出す演技派エカテリーナ・クラコワ(ポーランド、4位)に次ぐ4番目の高得点を得た。
フィンランドの15歳ヤンナ・ユルキネンは、母国で、初めての欧州選手権で、決して物怖じしなかった。アリーナに詰めかけた市民を熱狂させたばかりか、成績面でもしっかり7位に食い込んだ。
若く爽やかな旋風は、なによりレポンドが巻き起こした。今季前半はジュニアGPに参戦しつつ、チャレンジャー大会にも派遣を許された16歳。3Lz(SPは4分の1回転不足と踏切注意、FSは踏切注意)以外は、すべてをノーミスで演じ切った。スピンとステップは、ヘンドリックスと同じく全体で4人しかいない「オールレベル4」の評価を受けた。数年前までモデル業も行っていたという16歳は、細く長い手足を、氷上でも美しく活かす術を持っていた。
「欧州選のメダルは、もちろん私にとって、キャリアで叶えたい夢でした。でも今回は私にとって初めての大会ですから、順位に関しては何の期待も持っていませんでした。ただ自分のベストを尽くしたい、クリーンなスケートをしたい、と考えてこの場にやってきたんです」(レポンド)
無欲で全力を尽くした結果が、SP、FS、トータルと3つのパーソナルベスト。さらには銅メダルさえ勝ち取ってしまった。スイスにとっては2011年サラ・マイヤー銀メダル以来12年ぶり(11大会ぶり)の女子シングル表彰台であり、男子ルーカス・ブリッツギの銅メダルと合わせると2008年のマイヤー&ステファン・ランビエール以来となる朗報だった。
SPで4位に食い込んだはオリガ・ミクティナ(オーストリア)は、FSで転倒3回と大きく崩れトータル12位に終わった。またニコル・ショット(ドイツ)は、逆にSPで2回転倒16位と出遅れたが、FSではベテランの意地を見せた。トータル9位まで順位を戻し、自己最高位タイで7度目の欧州選手権を締めくくった。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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