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フィギュア スケート コラム 2023年1月1日

【新春特別コラム】ありがとう羽生結弦さん。これからも、よろしく。|J SPORTSフィギュアスケート班の素敵な思い出

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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平昌五輪(2018)で冬季五輪2連覇を果たした羽生さん

平昌五輪(2018)で冬季五輪2連覇を果たした羽生さん

歴史上に築き上げた、不朽の地位。冬季五輪2連覇を果たし、男子シングルとしては前人未到の「スーパースラム」……五輪、世界選手権、グランプリファイナル、四大陸選手権、世界ジュニア選手権、ジュニアグランプリファイナルの全制覇を達成。5シーズン連続で世界1位に君臨し、歴代最高得点は男子史上最多の19回塗り替えました。「記録に残る」ことに強くこだわってきた羽生結弦さんは、100年後も、間違いなく、フィギュアスケート界に燦然と輝く記念碑的存在であり続けます。

世界に名を馳せた絶対王者は、同時に、きっと、たくさんの人にとって「わたしの」羽生結弦でもあります。そのキャリアを見守ってきた一人ひとりの胸の奥には、あの日の感動や、いつかの興奮が、大切にしまわれているはずです。尊くて、きらきらと特別な光を放つ、宝物のような思い出たち。

J SPORTSフィギュアスケート班にも、忘れられない瞬間がいくつもあります。18年の競技生活に区切りをつけ、プロフィギュアスケーターとしてのキャリアへと滑り出した羽生さんへ、改めて感謝の意を表するとともに、この場を借りて、少しだけ思い出をみなさまと共有させてください。新しい年に、もっともっと素敵な思い出が増えていくよう祈りつつ。

クリスタルの煌めき

あの場にいた誰もが、現在進行系で、確信していました。わたしたちが目撃しているのは伝説の始まりなのだ、と。2012年3月31日、フランス・ニースで行われた世界選手権でした。

当時すでに、羽生さんには明るい未来が約束されていました。ジュニア時代にはグランプリファイナルと世界選手権を制覇。シニア1年目、前年の四大陸選手権では、初出場で表彰台に飛び乗りました。シーズン前半にはグランプリ大会ロシア杯で金メダルを手にしていましたから、急成長中の17歳が初めての世界選で素晴らしい成績を実現させたとしても、決して驚きではなかったはずなのです。

ただ羽生さんが披露した演技は、凡人の予想を遥かに超えていました。

伝説の始まりを告げた世界選手権(2012)

伝説の始まりを告げた世界選手権(2012)

ジャンプのミスが響き、SPを7位で折り返した後、ノーミスを誓って挑んだFS「ロミオとジュリエット」。冒頭に勇壮な4回転トーループを決めると、そのまま凄まじい勢いで次々とジャンプを決めていきます。あまりに飛ばしすぎたようにも見えました。音楽がスローテンポに変わった後、肩で大きく息をしているのにも気が付きました。ステップでまさかの転倒があったのは、すでに脚に疲れを感じていたせいかもしれません。

ところが、転倒直後に、息を呑むほど美しいジャンプコンビネーションを立て続けに2つ成功させます。そして、雄叫びから始まった、コレオステップ。まるで魂の発露であり、荒々しいまでに激しい熱情が氷上にほとばしりました。最後の3回転サルコウは、強靭な意志の力で着地を決め、ついには鬼神が乗り移ったような表情でのフィニッシュ。

後に羽生さんをチャンピオンへ、さらにはスターへと押し上げる要素が、あの4分半にすべて詰め込まれていました。東日本大震災から約1年後。日本の人々に「勇気を与えたい」という使命感に突き動かされ、全速力で駆け抜けた特別なシーズンの終わりに、つかみとった銅メダルでした。

演技後の、息も切れ切れでインタビューに応える羽生さんを眼の前にして、こんなにきれいな汗を流す人が地上に存在するのだな、と密かに思ったこともこっそり告白しておきます。澄んだ汗の玉は、まるで純度の高い水晶のようでした。

時にはロックスターのように

ワインのように時間をかければかけるほど、プログラムは熟成し、深みを増していく。2020年四大陸選手権の記者会見で、羽生さんはこんな風に語っています。平昌五輪で、人生2つ目の金メダルへと導いたSP「バラード第1番ト短調」とFS「SEIMEI」は、2年の時を経て、男子史上初のスーパースラムをもたらしました。

すでに完成したはずの作品を、さらに磨き上げる作業は、決して単純なことではなかったはずです。しかもプロスケーターへの転向記者会見で「過去の自分と戦う」「過去の自分よりもうまくなりたい」と繰り返し口にしていた羽生さんだからこそ、前回を超えるプログラムに、絶対に仕上げなくてはならなかった。

アスリートとして当然、技術面を進化させました。「バラ1」は初めて使用した2014-2015シーズンと比べると、翌年はジャンプ構成の難度アップ(4Tを4Sに、3Lz+3Tを4T+3T)、五輪シーズンはジャンプ順序の変更(4T+3Tを演技後半へ)と、目に見える形で基礎点を上げています。

一方で2000年四大陸ではコンビネーションを前半に戻し、技術的な難度は少し控えめに。代わりに、一つひとつのエレメンツの精度を、極限まで上げました。高い出来栄え点GOEに反映され、羽生さん自らが1年3ヶ月保持していた歴代最高得点さえ塗り替えたほど。

ショパンの細やかなピアノの音に乗って描き出される世界も、徐々に変化していきました。20歳の羽生さんが舞う「バラ1」は、瑞々しく、繊細。どこか夜の始まりを思わせました。23歳の頃はノーブルで、優美でありながら、濃厚でドラマチックな力強さも。そして25歳で披露した演技は……これこそが無の境地というのでしょうか。すべてが滑らかで、淀みもなく。深く、音のない闇に吸い込まれていくような感覚を抱いて、少し怖くさえなりました。

かと思ったら、翌シーズンの新プログラムは、ひたすら底抜けに楽しかった!だってSP「Let Me Entertain You」で、ノリノリの音楽に乗って、羽生さんがリンクをところせましと暴れまわるのですから!

おかげでわたしたちは、巨大な正のエネルギーを受け取りましたが、コロナ禍の中、こちら側の興奮を羽生さんに十分に返してあげられなかったことだけは残念でした。2016年グランプリファイナルのSP「Let’s Go Crazy」では、うぉぉぉぉと地鳴りのような歓声が湧き上がり、アリーナ全体が熱狂のるつぼと化したっけ……。羽生さんは、正真正銘のロックスターなのです。

羽生さんとの真剣勝負

J SPORTSのフィギュアスケート放送のモットーは、全種目・全滑走中継。可能な限り多くの選手に演技後インタビューも行っています。シングルかカップル競技か、日本人か外国人かは問いません。どんな選手にも、大切にしている夢があり、語るべきストーリーがあります。

口数の少ない選手もいます。話し始めたら延々止まらなくなってしまう、おしゃべりさんも時々います。こちらが辛くなるほど肩を落とす若手や、泣きながらインタビューエリアを素通りしたた後、しばらく後に毅然とした態度で戻ってきてくれた大物も。

もちろん羽生さんは、常に丁寧に、真摯に、こちらの問いに答えてくれました。超がつくほどのスーパースターですから、世界選手権ともなれば、世界各国のテレビ局からインタビューを受けます。J SPORTSの専用エリアにたどり着く頃には、すでに5回以上も似たような質問に繰り返し答えた後です。それでも羽生さんは、すべてのインタビューに対して、決して手を抜くことはありませんでした。

早くロッカールームへ帰りたいと思うことだって、きっとあったはずです。痛む足首を少しでも楽にするために、スケート靴を脱ぎ、氷嚢で足首をぐるぐる巻きにした状態で、「さあ、やりましょう!」とさわやかな表情でカメラの前に立ってくれたことも。

そうそう、羽生さんがわたしたちに見せてくれたのは、満面の笑みばかりではありませんでした。猛烈に早口なときもありました。たいてい、そんなときは、「くやしいです」という一言から始まるのですが……。

頭の回転がすさまじく速く、しかも打てば打っただけ響くタイプ。だからこそ羽生さんの思いを言葉にしてもらう作業は、とびきり刺激的でした。どんな角度から質問を投げかけようか、どんな言葉を使おうか。インタビューエリアで羽生さんを待ちながら、考えを巡らせる時間は、とてつもなく緊張感あふれるものでした。羽生さんとの対話は、いつだって真剣勝負でした。

恥ずかしながら、勝負どころじゃなかったときのほうが多かったかもしれません。たとえば2017年、ヘルシンキで開かれた世界選手権の、男子フリー直後でした。ショート5位で折り返した羽生さんが、FS「Hope & Legacy」で4回転4本を含む全ジャンプ要素を完璧に決め、スピンやステップでレベル4を並べ、自身の持つFS歴代最高得点を4点近く塗り替え、SP首位との10点以上の差をひっくり返して逆転優勝を果たしてしまったものですから……もはや見ている側としては冷静さを保てなくなっていたんですね。思わず「鳥肌が立ちました」と、正直な感想が口から飛び出してしまいました。挙句の果てに「どうして羽生さんはそんなに強いんですか?」と、小学生並みの質問さしています。

それくらい、あの日の羽生さんも、神がかっていました。



わたしたちに寂しがる隙など与えずに、あっという間に次のステージへと飛び移ると、羽生さんは全速力で滑り出しています。もっと上手くなりたい、もっと強くなりたい。死力を尽くしたい。こう真っ直ぐに宣言して、高く美しい理想を追い求める旅を続けるのです。限界のない世界を、この先もわたしたちに見せてくれるのでしょう。羽生結弦さんのフィギュアスケーターとしてのキャリアは、さらなる熱と価値を帯びていくに違いありません。

文:J SPORTS編集部

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