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ハッベル&ダナヒュー組をおさえてチョック&ベイツ組が《最後》の全米頂上決戦を制す「このためにハードに練習を積んできた」 | 全米フィギュアスケート選手権2022 ペア・アイスダンス レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部アシュリー・ケイン=グリブル&ティモシー・ルデュク組
ペア
五輪枠は2つ。ディフェンディングチャンピオンにして、アメリカペアとしては指定大会でベストスコアを有するアレクサ・シメカ・ケネリム&ブランドン・フレイジャー組は、フレイジャーのコロナウイルス陽性で直前の棄権。つまり北京への道を確実にするためには、全米選手権を勝ち取るしかなかった。
両肩にのしかかるプレッシャーは「とてつもなく重かった」と、アシュリー・ケイン=グリブル&ティモシー・ルデュク組は振り返る。昨シーズンの世界選手権を、「第1補欠」からの繰り上がりで出場した経験を、もう2度と繰り返すまい。そんな強い覚悟もあった。SP「ホワイトクロウ」では凄まじい集中力を見せつけた。ツイストとリフトでレベルを取りこぼしたものの、ジャンプはすべて完璧に着氷。一つ一つの動作には意思がみなぎり、身長差の少ない2人が織りなすラインは美しかった。
2人の性差を取り払い、揃いの衣装で演じるFS「W.E.メドレー」は、まさにゾーンに入った状態。サイドバイサイドのコンビネーションジャンプで軽いミスがあった以外は、よどみなく、すべてがあるべきところに収まった。3年ぶりの全米選手権優勝。初めての五輪出場権を、誰にも文句を言わせぬ形でもぎ取った。
「2016年にチームを結成した時、五輪出場の夢は決して叶わないだろうと思っていました」と、26歳のケイン=グリブルは打ち明けた。「幾度となく夢を思い描いてきました。だからついに現実のものとなったことに、本当に満ち足りた気分です」と語る31歳ルデュクは、ほんの1ヶ月後には、ノンバイナリー(男女のいずれにも属さないという性自認)を公言した史上初のオリンピアンとなる。
ジェシカ・キャララン&ブライアン・ジョンソンは3年連続の銀メダルに甘んじた。SP「カム・トゥギャザー」は、スタンディングオベーションが巻き起こる見事な出来だった。冒頭のサイドバイサイドジャンプをなんとかこらえ切ると、その後はすべてを見事にこなした。SP首位のケイン=グリブル&ルデュク組との差は、射程圏内のわずか1.91点だった。
しかしFSでサイドバイサイドジャンプが2度崩れた。スロージャンプでも氷に手をつくミス。もちろん得意のリフトはすべてがレベル4で、いずれも出来栄え点による高い加点もついた。ただし首位との差は縮まるどころか、最終的には15点以上に広がっていた。
全米初優勝を逃し、五輪出場の夢も断たれた。予め定められていた救済システムにより、ケネリム&フレイジャー組に北京行きの切符が渡った。「望んでいたようなパフォーマンスは出来ませんでした。あらゆるエレメントで戦いました。簡単ではありませんでした。それでも、私達は、最後までやり遂げたのです」と、キャラランは胸を張る。
3位には実力通りにオードリー・ルゥ&ミーシャ・ミトロファノフ組が食い込み、4位のピューターメダルはカップル結成3年目、国際大会参戦1年目のエミリー・チャン&スペンサー・ハウがつけた。両ペアは1月中旬の四大陸選手権で、それぞれISU国際選手権大会へのデビューを果たす予定だ。
アイスダンス
マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組
2つの熾烈な争いが会場を燃え上がらせた。1つ目はもちろん、長年に渡って全米ナンバーワンの座を分け合ってきたマディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組とマディソン・ハッベル&ザカリー・ダナヒュー組による、「最後」の全米頂上決戦。
「最高にタフなライバルを制して国内選手権を勝ち取れたなんて、素敵な気分です。だって僕ら、このためにハードに練習を積んできたのですから。決して簡単ではありませんでした」
こんな風に激戦を振り返った勝者は、チョック&ベイツ組。パートナーを組んだ2年目から10年連続表彰台(前パートナーとさらにチョックが+1回、ベイツ+2回)、五輪経験は2回(ベイツはプラス1回)という大ベテランが、つまり2年ぶり3度目の優勝を射止めた。
RD「ビリー・アイリッシュメドレー」は研ぎ澄まされたナイフのように、滑らかに。すべてのエレメンツでレベル4+高い出来栄え点を獲得し、カーブリフトは満点を得た。
なにより2人の真骨頂は、FSの「コンタクト」だろう。長い経験がマンネリに変わるどころか、むしろ2シーズン前から自己の殻を破り続けている2人は、この日も新しい世界観でファンや審判たちを魅了した。宇宙人と宇宙飛行士との遭遇のストーリーは、決して奇抜なだけではない。あらゆる動きが入念に磨き上げられ、衣装や表情を含めた頭の先から足の先にまで工夫が散りばめられている。技術点では最高レベルを積み上げ、高い演技構成点の評価が下されたのは言うまでもない(スライディングムーブメントは出来栄え点満点)。
過去4年で3度全米タイトルを手にし、過去3度の世界選手権すべてで表彰台に上がってきたハッベル&ダナヒューは、今季がキャリア最後のシーズンと明言していた。かといって感傷に浸ったり、プレッシャーを感じている「暇」など、2人にはまるでなかったのだと言う。ポジティヴでダイナミックな2人にふさわしく、ひたすら練習と改良、そして前進あるのみ。だから課題部分でハッベルがわずかにバランスを崩したのと、ツイズルが微妙に乱れたせいで、リズムダンス(RD)を2.55差の2位で終えた後も、決して集中力を切らさなかった。
フリーダンス(FD)「ドローイング」は、まるで青春時代の集大成。ものすごいスピードに乗って、大胆かつ繊細に、ゴージャスでセンチメンタルな世界観を築き上げた。冒頭では身体の大きな2人のパワフルなリフトに圧倒され、終盤には出来栄え点「満点」のシンクロナイズドツイズルで、2人の一体感を改めて思い知った。会場にはスタンディングオベーションが巻き起こり、「マディとザック」の瞳には感激の涙が光った。
FDの結果は1位。ただし過去3勝中2度成し遂げてきたような、トータルでの逆転は不可能だった。ハッベル&ダナヒューにとって祖国アメリカでの最後の試合は、1.78差の銀メダルで締めくくられた。それでも2人は、ハッベルが断言するように、胸の奥に強い確信を抱く。
「私達には五輪表彰台に立つという目標があります。そして、この目標の達成は、十二分に可能だと考えています」
全米選手権を仲良く3勝ずつ分け合ったライバル2組と共に、アメリカ代表チーム入りする権利を巡る争いもまた、ひときわ激しかった。
RDを有利に折り返したのはキャロライン・グリーン&マイケル・パーソンズ組。パートナーを組んでわずか3年目の2人が、過去3年連続全米銅メダルに輝いてきたケイトリン・ホワイエク&ジャン=ルック・ベイカーを上回ったのだ。シーズン開幕直前に脳震盪に苦しんだホワイエクが、ツイズルで軽くバランスを崩したせいでもある。グリーン&パーソンズ組の、独創性が高く、新しいアイディアが散りばめられたプログラムが、演技構成点で2点以上も上回ったからでもある。
2014年世界ジュニアチャンピオンの先輩組が、FDでは意地を見せた。2017年世界ジュニアチャンピオンのパーソンズ率いるグリーン組が、決して劣っていたわけではない。その逆だ。抽象的な現代演劇のようなプログラムと、丁寧な技術力には、この先への期待感しかない。
ただしこの日のホワイエク&ベイカーは、迷いなく成功へと突き進んだ。終盤のステーショナリーリフトを除く、すべての要素を最高レベルで披露した。ショパンの美しいメロディーに乗り、2人が得意とする……淡く儚い詩的な世界観を氷上に披露した。1.46点の遅れをひっくり返し、2.41点リードへ。4年連続の銅メダルは、生まれて初めての五輪出場権をもたらした。
結成1年目にしてシニア1年目のエミリー・ブラッティ&イアン・サマーヴィルが、やわらかいスケーティングとはつらつとした表現力とで初出場5位に飛び込んだ。グリーン&パーソンズ組、さらにはFDで得点が伸びずに7位で終えたクリスティーナ・カレイラ/アンソニー・ポノマレンコと共に、四大陸選手権へと挑戦する。
カタリーナ・ウルフコスチン&ジェフリー・チェンは、課題の全く異なるジュニアとシニアを掛け持ちしながらも、堂々6位入賞。姉カレン・チェンは人生2度目の五輪行きを決めたが、弟ジェフリーは、人生2度目の世界ジュニア選手権へと乗り込む予定だ。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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