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激戦必至!第24回冬季五輪の選手選考を兼ねた極めて大切な一戦 | 全米フィギュアスケート選手権2022 プレビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部全米フィギュアスケート選手権2022
昨年USフィギュアスケート連盟の創立100周年を祝ったアメリカの、世界屈指の歴史を誇る国内選手権は、この冬、第24回冬季五輪の選手選考を兼ねた極めて大切な一戦となる。男子3、女子3、アイスダンス3、ペア2枠……を巡る戦いは、熾烈さを極めること必至。シニアトップスケーターたちの決戦は、テネシー州ナッシュビルで1月6日に幕を開ける。
男子シングル
ネイサン・チェン
男子では1950年代以来成し遂げられていない大会6連覇に、ネイサン・チェンが挑む。
世界選手権3連覇中の22歳は、今季初戦では、わずかに不安定さも覗かせた。グランプリ大会アメリカ杯ではジャンプのミスが相次ぎ、個人戦としては約3年ぶりに1位の座を逃した。一方では失敗からすぐに立ち直る強い意志と、高い修正能力も改めて証明。わずか1週間後のカナダ杯では、ショートプログラム(SP)とフリースケーティング(FS)を2本ともほぼノーミスでこなし、いつもの最上段を取り戻した。
そもそもアメリカ杯のFSで、すでにリカバリーのための凄まじい計画を試みた。それが4回転をアクセル以外の全5種類6本を組み込むというもの。勝負師としての大胆かつ冷静な行動力で、うち4本を成功させた。しかも苦手な4回転ループも冒頭にきっちり着氷。
あれから2ヶ月以上の時が経ち、身体もプログラムも、ネイサンはさらに磨きをかけてきているはずだ。ベンジャミン・クレモンタインの楽曲に乗ったクールで現代風なSPと、モーツァルトのピアノコンチェルト23番で静かに流れるように始まるFS。重厚なレクイエム(ラクリモザ)で徐々に高まっていく感情は、突如としてヒップホップのリズムと共に力強い爆発を迎える。いつもどおりに極めてシンプルで、しかしいつにも増して上品なコスチュームは、進化しているだろうか?
(4位ピューターメダル1回を含む)5年連続で表彰台に乗ってきたヴィンセント・ジョウは、今年こそ全米チャンピオンの座に駆け上がりたい。常に最上段にはチェンの存在があったが、アメリカ杯では、ついに難敵を下し首位を勝ち取った。
自らの名前でもあるSP「ヴィンセント」の優しく包み込むような演技も、寅年に北京で行われる五輪に相応しいFS「臥虎藏龍」の凛々しく雄大なパフォーマンスも、やはり数多くの4回転で彩られている。ジョウはSPで4回転2本、FSでは4回転を最大5本組み込む。4分の1回転不足を取られることが多々あるものの、高得点を叩き出すポテンシャルは証明済み。
ちなみにチェンもジョウも学業を一旦停止中。いずれも五輪シーズン後の復学を決めており、もしかしたら2人にとっては、100%フィギュアスケートに専念して臨む最後の全米選手権となるかもしれない。
フィギュアスケートは4回転だけじゃない。それ以外にも大切なものはたくさんある。こう身を持って教え続けてくれたジェイソン・ブラウンは、今季も宝石のようなプログラムを2本揃えた。昨季から継続のSP「シナーマン」は魂と音との完全なる一体化を実現し、FS「シンドラーのリスト」はバイオリンの切ない旋律に乗って、滑らかなスケーティングで美しい跡を描く。グランプリ2戦でいずれも出来栄え点5点満点の高評価を得たコレオシークエンスは、特に逸品だ。
ただしジェイソンは、決して現状に甘んじてはいない。芸術性だけでなく、結果も同時に追い求める地道な努力を重ねてきた。今季フランス杯では、公式戦では初めて、回転不足も転倒もなく4回転(サルコウ)を着氷。全米でも勇敢にトライするかもしれない。8年ぶり2度目の五輪出場権を手に入れるために。
なにしろ今季アメリカ杯でSP3位に食い込んだジミー・マが、3枠目に飛び込む可能性を秘めている。ダイナミックで熱っぽい演技が、観客の手拍子を誘い出すカムデン・プルキネンも怖い存在だ。2年前全米3位の樋渡知樹は、今季絶不調のジャンプが安定しさえすれば、やはり表彰台乗りの実力を持つ。
また昨大会4位のヤロスラフ・パニオットも、ついに念願のアメリカ市民権を手に入れ、アメリカ人として五輪出場を望む正当な権利を有する。スケーターの両親を持ち、今季ジュニアグランプリで2大会制覇した17歳イリヤ・マリニンも、いよいよシニア全米選手権デビューを果たす。
女子シングル
カレン・チェン
ディフェンディングチャンピオンのブレイディ・テネルが、足の怪我を理由に欠場を発表。前回五輪シーズン以降、アメリカ女子を牽引してきた実力者の不在は寂しいが、五輪行きの切符を巡る争いはいまだに混戦だ。
3つの枠に、候補者は少なくとも4人。まずはカレン・チェン。唯一の五輪経験者であり、1年前の世界選手権で堂々4位に食い込んだ高い実績を誇る。華やかさが魅力のマライア・ベルは、シーズン前に準備していたプログラムを、2本とも変えた。特にFSは自身の当たりプロである「ハレルヤ」に戻したことで、今季グランプリ大会におけるアメリカ女子最高得点を叩き出している。22歳アンバー・グレンは昨季ついに全米表彰台を射止めた。挑戦を続けている3回転アクセルが綺麗に決まれば、初の五輪も一気に近づく。
そして世界を席巻したジュニア時代とはまた異なる、魅力的なスケーターへと成長したアリサ・リウ。全米2連覇を果たした頃のような3回転アクセルを、完全に取り戻せたわけではない。むしろ16歳はスケーティングや表現力という武器を身につけた。今季はチャレンジャーシリーズ2大会を制し、シリーズ優勝も獲得。NHK杯を4位で終えた直後のコーチ変更は、果たして吉と出るか。
フランス杯ではSP途中で演技中断し、体調が心配されたスター・アンドリューズも、自身5度目の全米選手権に乗り込む。今度こそ自らの歌声に乗ってSP「アット・ラスト」を最後まで演じ切り、五輪枠だって狙って行きたい。
過去2大会の全米ジュニアチャンピオンで、今季ジュニアグランプリ大会をそれぞれ1つずつ勝ち取っている16歳リンジー・トルグレンや14歳イザボー・レビトも見逃せない。
ペア
全種目の中で、間違いなく、最も非情な順位・得点争いが繰り広げられる。全米らしくメダルは4色用意されているが、五輪行きの切符はたったの2枚。
選考基準の優先第1位は、全米3位以内。しかし今回は同時に、昨季全米選手権以来の主要大会における平均スコアが、五輪上位入りに値するものであることも求められる。
アレクサ・シメカ・ケネリム/ブランドン・フレイジャー組
現時点で平均スコアが最も高いのは、ディフェンディングチャンピオンのアレクサ・シメカ・ケネリム/ブランドン・フレイジャー組。結成2季目ながらも経験値の高い2人は、今季フランス杯3位、アメリカ杯4位と好成績を連発。また第3条件であるベストスコア自体も、アメリカ全ペアの中でトップの国際大会202.79点を誇る。
次に平均スコアが高いのはジェシカ・キャララン/ブライアン・ジョンソン組で、国際的ベストスコアで2番目につけるのはアシュリー・ケイン=グリブル/ティモシー・ルデュク組。オードリー・ルゥ/ミーシャ・ミトロファノフ組は平均点的には3番手、ベストスコアでは4番手ながら、リストに含まれる主要国際大会(ゴールデンスピン)を制した唯一のペアとしての評価を受けるはず。
……結局のところ、2022年全米選手権の結果が、極めて重要になる!
アイスダンス
マディソン・ハッベル/ザカリー・ダナヒュー組
五輪表彰台さえ狙えるマディソン・ハッベル/ザカリー・ダナヒュー組とマディソン・チョック/エヴァン・ベイツ組による、一騎打ち。力強さと滑らかさを見事に両立する前者か、オリジナリティと洗練さが際立つ後者か。ハッベル&ダナヒュー組は、今季がラストシーズンと宣言している。2年連続4度目の優勝で全米選手権とのラブストーリーを終えたい。チョック&ベイツ組は2年ぶり3度目の優勝を、初の五輪表彰台に向けたステップにしたいはずだ。
3年連続上位2席を分け合ってきた両カップルに続いて、ケイトリン・ホワイエク/ジャン=ルック・ベイカー組は3年連続3位につけてきた。今季は少々出遅れた。ホワイエクが練習中の転倒で脳震盪に苦しんだせいだ。ようやく今季のスタートが切れたのは、グランプリ大会最終戦のロシア杯(5位)。ただ直後のチャレンジャー大会ですぐさま優勝を飾り、調整が間に合っていることを証明してみせた。
なにしろすぐ背後には、NHK杯5位クリスティーナ・カレイラ/アンソニー・ポノマレンコ組とカナダ杯4位・イタリア杯5位のキャロライン・グリーン/マイケル・パーソンズ組が控えている。ジュニア時代から世界に名を轟かせてきた若き実力者たちは、飛躍の時を待っている。
ジュニア時代にありとあらゆるタイトルを総なめにしたパーソンズが、グリーンと組んで3年目だとしたら、2016年世界ジュニアチャンピオンのロレイン・マクナマラは、アントン・スピリドノフとチームを結成して2シーズン目。また2年前の世界ジュニアを制したアヴォンリー・ニューエンは、元ユース・オリンピック金メダリストのグリゴリー・スミルノフと組んで初めての全米選手権を迎える。どんな素敵な化学反応が起こるのか、楽しみだ。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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