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フィギュア スケート コラム 2022年1月4日

15歳のカミラ・ワリエワが恐ろしいほどにハイレベルな戦いを制す | ロシアフィギュアスケート選手権2022 女子シングル レビュー

フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部
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カミラ・ワリエワ

カミラ・ワリエワ

ショートプログラム(SP)では参加18人中、5人が3回転アクセルを飛んだ。フリースケーティング(FS)で4回転を組み込んだのは、8選手にも達した。恐ろしいほどにハイレベルな戦いが繰り広げられたロシア選手権女子シングルで、頂点に立ったのは15歳のカミラ・ワリエワ。難度の高いジャンプを完璧に飛びこなし、もはや誰も追随できぬほどの高みに上り詰めて。

1番滑走だったSPでは、その他すべての選手の「一瞬でも首位に立つ」という希望を打ち砕いた。最終滑走だったFSでは、そこまで積み上がってきたあらゆる得点が霞むほどの、異次元の数字を導き出した。トータル283.48点。ISU国際スケート連盟非公認の記録ながら、自らが今季3度塗り替えてきた歴代最高得点を10点以上も上回った。2位とは約35点もの差を開き、男子シングルならロシア選手権3位に食い込む得点だ。そもそも演技構成点の係数の男女差(男子1、女子0.8)を取り払うと、ワリエワの仮想スコアはなんと312.99点……!

3回転アクセルをSPとFSで1本ずつ、FSではさらに4回転3本を美しく着氷した。当然ことごとく高い出来栄え点による加算がついた。ワリエワの強みはジャンプだけではない。しなやかな肢体と滑らかなスケーティングを武器に、ステップやスピンの要素でもすべてレベル4を揃えた。FS「ボレロ」では演技構成点の5項目中、演技力、構成力、音楽の解釈の3項目で10点満点が並んだ。

そもそも1年前のロシア選手権を2位で終えて以来、ワリエワは1度も負けていない。今季初戦のフィンランディア・トロフィーでSP3位(3回転トリプルの回転不足で減点)に甘んじた以外は、SPもFSもダントツ1位で突っ走ってきた。そして15歳の冬、初めてロシア女王の座を手に入れた。

ちなみに個人的な感覚では「トップと平均的の間くらいのコンディション」だったとのこと。ティーンエイジャーらしくロシア選手権後にはクリスマスホリデーを楽しみたいと笑いつつ、「でも、ほんのちょっとだけ」とも気持ちを引き締める。この先には欧州選手権と北京五輪という、世界が注目する大舞台が待っている。

コーチのエテリ・トゥトベリーゼとしては大会7連覇。しかも2年ぶりの金・銀・銅メダル完全独占となった。実は1年前とは、順番こそ変わったが、3人の顔ぶれは変わっていない。ただ昨季はエフゲニー・プルシェンコの教えを求めて旅立ったアレクサンドラ・トゥルソワが、今季はエテリ組に帰ってきた。

その17歳トゥルソワ本人にとっては、4年連続の表彰台乗り。10月に脚の故障でNHK杯を欠場し、調整の遅れが心配されたが、すべては杞憂に終わった。確かにSPは5位と出遅れた。しかし苦手な3回転アクセルを冒頭に組み込み、4分の1回転不足+転倒しながらもその後をきっちりまとめたのはむしろ流石と言えよう。

FSでは4回転3種類4本という、男子でさえ怖気づくような構成でトゥルソワは攻めた。技術点の基礎点だけで90.81点に達するというのは……もはや全日本選手権で男子シングルを制した羽生結弦の88.4(4回転アクセルと認められた場合は92.9)に比されるほどの超絶難度。冒頭のフリップで小さなエッジ違反、続くトーループで転倒、さらには3回転ジャンプでもミスがあったが、自慢の4回転ルッツのコンビネーションジャンプは2本とも見事に決めた。中でも4Lz+3Tは演技後半1.1倍ルール+出来栄え点で、一気に21.05点もの高得点を記録。あだ名の「ロシアンロケット」に相応しいジャンプ力で、堂々と2位に飛び乗った。

百花繚乱のロシア女子シングルで、4回転を成功することなく、17歳アンナ・シェルバコワは表彰台乗りを成功させた。かと言って4回転を備えていないわけではない。1年前のロシア選手権は良質の4回転ルッツとサルコーを飛び、今季のグランプリ大会2試合でも4回転フリップを決めていた。しかし今年のロシア選手権では、そのフリップで転倒。3回転コンビネーションでも着地に軽いミスがあった。

現役世界チャンピオンは、ジャンプの減点を、その他の要素できっちりとカバーした。スピンやステップでSP・FSともに全てレベル4評価を受けたのは、ワリエワ以外はシェルバコワのみ。トレードマークとも言える端正で上品な滑りで、演技構成点でもワリエワに次ぐ高い得点をマークした。残念ながらロシア選手権4連覇こそ果たせなかったが、五輪シーズンに、表彰台の上から3番目にきっちり乗ったことこそが重要だ。

だからこそエリザヴェータ・トゥクタミシェワの失望は、とてつもなく大きいものだったに違いない。昨季は6年ぶりの世界選手権表彰台に歓喜した。五輪に向けて自分らしいプログラムを2本用意した今季も、グランプリ大会2試合で銀メダル獲得と絶好調だった。世代交代の大波をかい潜り、14度目のロシア選手権に乗り込んできた。いまだ手にしたことのない五輪行きの切符を、25歳の今、ついにもぎ取る準備は出来ていた。

運命の女神は非情だ。SPでは冒頭の3回転アクセルで転倒し、コンビネーションでも2本目に3回転がつけられなかった。SP7位からの逆転表彰台にかけて挑んだFSは、トゥクタミシェワ本人としては「クリアな精神と自信に満ちた肉体」とで臨んだはずだった。冒頭には3回転アクセル2本を飛び、その後も全てのエレメンツをきっちりこなしつつ、オリエンタルな曲調の激しいダンスで、サンクトペテルブルクの観客を興奮の渦に巻き込んだ。

しかしキス&クライで現実を突きつけられた。2本目の3回転アクセルには回転不足がとられた。後半のコンビネーションジャンプは「SEQ(シークエンスで基礎点の0.8倍)」と判定され、締めくくりのスピンでは基本姿勢不足。「自分にできることはすべてやった。それこそが一番大切なこと。すべては終わった。今は休息が欲しい」と、トータル7位で立ち去った。

表彰台のすぐ下には、今季のジュニアグランプリで表彰台をほぼ独占した3人が続いた。スロベニア大会を制した14歳アデリア・ペトロシアンは、身長140cmの小さな身体で安定したジャンプを次々と決めた。4回転ループを2本入れたFSは3位に食い込み、スモールメダルのご褒美を持ち帰った。同じく14歳のソフィア・サモデルキナはすでに成熟した大人の雰囲気を湛える。SPでは3回転アクセルを、FSでは4回転2種類3本を組み込み、とてつもなく高いポテンシャルをうがわわせる。

6位には15歳ソフィア・ムラビヨワが入った。オーストリア大会の勝者は軽やかに3回転アクセルを決めた上に、他の要素で全てレベル4を並べてSP3位で折り返した。いまだ4回転は飛ばないが、流れるようなスケーティングに、柔らかく美しい身体の動きで観客を魅了した。15歳の若き女王ワリエワの下にも、次から次へと新たな才能が開花している。北京五輪の、その先も、きっとロシアがフィギュアスケートの女子シングル界を牽引していくのだろう。

文:J SPORTS編集部

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