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本人曰く「衝撃の」初優勝。18歳のマルク・コンドラチュク「大それた夢の中でさえ、こんな風に終わるなんて考えてもいなかった」 | ロシアフィギュアスケート選手権2022 男子シングル レビュー
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部マルク・コンドラチュク
実力伯仲の2021/2022ロシア選手権を、18歳のマルク・コンドラチュクが制した。五輪シーズンのストレスに打ち勝ち、好プログラムを2本揃えて、2度目の参戦で見事初優勝を手に入れた。
「18人が18人とも表彰台に乗る可能性を持っていた。もちろん僕もメダル目指して戦った。でも、大それた夢の中でさえ、こんな風に終わるなんて考えてもいなかった」(コンドラチュク)
全参戦選手の実力が拮抗しているからこそ、少しのミスも許されなかった。SP終了後に1位から3位までが2.19差、3位から6位まで1.61点差、3位から8位までも4.86点差という極めて僅差で並んでいた。FSに向かう選手たちのプレッシャーは、とてつもなく大きかったはずだ。
ジャンプを全て軽々と成功させ、表彰台まで0.6点差のSP4位で折り返したアレクセイ・エロホフは、FSでは逆にジャンプ7要素中4つでミスを犯した。4季前のジュニア世界王者は、総合7位に後退。「もっと練習を重ねて、大きなイベント出場を果たしたい」と今後に目を向ける。
SP3位につけたマカール・イグナトフは、1年前の銀メダルを超えるどころか、まさかのFS14位・トータル10位に沈んだ。チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第1番」――五輪でロシア国歌の使用は認めらておらず、ロシア選手の優勝時には同曲が国歌の代わりに会場に流れる――を選び、しかも4回転4本と極めて野心的な構成でFSに挑んだが、冒頭の4回転ループ以外はことごとく苦しんだ。本人の証言によるとスケート靴に不具合があり、着地が安定させられなかったとのこと。パフォーマンス全体に影響が拡大し、他のエレメンツも思うようにレベルが取れなかった。
なにより衝撃的だったのは、SP1位のエフゲニー・セメネンコが、表彰台から転がり落ちてしまったこと。昨季のジュニア国内チャンピオンにして、今季グランプリ・カナダ大会で3位に食い込んだ18歳は、SPでは4回転2本を含むジャンプを全てパワフルに飛びこなした。ところが最終滑走のFSでは冒頭の4回転トーループの転倒に始まり、本来は3−3のコンビネーションが3−2に、さらには3回転アクセルが1回転へ……。決して気持ちを切らすことなく、質の高いステップやスピンで、FS「巨匠とマルガリータ」を最後までドラマチックに演じきったが、結果はトータル4位。
対照的にSPでの失敗を、FSで取り戻した選手もいた。今季から初めて本格的にシニア国際大会の転戦を始めたピョートル・グメンニクは、大腿四頭筋の痙攣でジャンプには少々手こずったものの、決して大きく崩れなかった。むしろ質の高い要素と滑らかなスケーティングで、観客を魅了した。SP7位から最終5位に上昇。今の自分の持てる力を全て発揮できたことに「満足」しつつ、今後の課題は「スタミナ強化と持久力向上」なんだとか。
アンドレイ・モザリョフはさらに大きなジャンプアップを実現させた。コロナ禍直前の世界ジュニアを制した若き実力者は、SPでは転倒が響き8位に甘んじた。FSでも3回転アクセルでの転倒があり、本人としては「良いパフォーマンスとは言えない」そうだが、それ以外はクリーンにまとめた。「1492コロンブス」の勇壮なリズムに乗り4回転を3本成功させ、他の要素は全てレベル4の高評価を得た。FSの技術点だけなら全18人中ダントツ1位。2年前5位、昨年4位と1つずつ順調にステップを上がってきた18歳は、今年は銅メダルを手に入れた。
ちなみに3位モザリョフは1月の欧州選手権代表には選ばれなかった。4位セメネンコが「より経験あるアスリートであり、シーズンを通してより良い成績を残してきた」という理由で、1位コンドラチュク、2位ミハイル・コリヤダとともにエストニアのタリンに乗り込む予定だ。
そのコリヤダもまた、SPでは5位と出遅れた。「くるみ割り人形」は全てが凛々しく、全てが流麗だったが、アクセルだけが1回転ノーバリューと悔やまれた。
ただ今大会出場の男子としては最年長26歳のベテランは、過去3度ロシア王者に上り詰め、2016年以降の世界選手権(副鼻腔炎の影響で1試合も参戦しなかった2020年シーズンを除く)では常にロシア男子1位の座を堅持してきた実力者だ。昨季のプログラム「ヌレエフ(ホワイト・クロウ)」に急遽戻したFSで、本領は余すところなく発揮された。
変更を決めてわずか2週間で本番を迎えたせいで、本人としては「望んでいたような仕上がりにはならなかった」そうだが、少なくとも4回転2本はしっかりと降りた。柔らかなスケーティングが弦楽器の奏でる美しい旋律を際立たせ、ピアノの音色にあわせ宝石のようにステップがきらめいた。当然のように演技構成点では他を完全に圧倒。FSでは堂々1位に立ち、自身6つ目のロシア選手権メダル(3つ目の銀)を手に入れた。
つまり安定したプログラムを2本揃えられたのは、優勝したコンドラチュクただ1人だけだった。
1年前のロシア選手権開幕時は、その他大勢のひとりだった。初出場でいきなり3位に飛び込むと、「コンドラチュクとは一体誰なのか??」という記事がロシア国内を駆け巡ったほど。今年は表彰台候補としてサンクトペテルブルクに乗り込んだ。SPでは4回転−3回転のコンビネーションジャンプが4回転2回転となった以外は、世間の期待に違わずノーミスで演技終了。首位とわずか0.26点差の2位につけた。
他の選手の順位が次々と入れ替わるのを横目に、コンドラチュクは最後まで技術的に堅固であり続けた。FSで目に着いた失敗は、後半の連続ジャンプがジャンプシークエンス扱いで基礎値が下がった部分のみ。むしろSPとFSの全ての要素でレベル4を揃えられたのは、コリヤダ以外はコンドラチュクだけだった。
もちろん子供時代に感激した思い入れの深い……母国の先輩ボロソジャル&トランコフ組が2014年ソチ五輪でペア金メダルに輝いたプログラム「ジーザス・クライスト・スーパースター」を、時には悠々と、時には荒々しく演じきった。本人曰く「衝撃の」初優勝。自らが9月のネーベルホルン・トロフィーで手に入れた、ロシア男子五輪出場枠の3枠目に滑り込むどころか、コンドラチュクはフィギュア大国ロシアのナショナルチャンピオンとして堂々と五輪代表入りを待つ立場へと駆け上がった。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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