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【レビュー:ISU世界フィギュアスケート選手権2021 アイスダンス】 五輪の出場枠を2人の絆でたぐりよせた小松原美里&ティム・コレト組 シニツィナ&カツァラポフ組が混戦の中初優勝!
フィギュアスケートレポート by 野口 美恵北京五輪の出場枠をかけたフィギュアスケートの世界選手権。連覇中のガブリエラ・パパダキス&ギヨーム・シゼロン組(フランス)が今年1月、コロナ禍のなか十分な準備が出来ていないとして、欠場を表明。金メダルの最終力候補が抜けたことで、混戦が予想された。
小松原美里&ティム・コレト組
まず、日本の小松原美里&ティム・コレト組は、五輪枠1つを獲得する、見事な滑りだった。2人の持ち味であるダイナミックな滑りと、やわらかな空気感が、ストックホルムの会場を満たした。リズムダンス18位、フリーダンス20位での19位。日本代表にふさわしい、頼もしい演技だった。2人は16年からカップルを結成し、17年1月に入籍。10年11月に、五輪出場の要件となる日本国籍取得を取得した。まずはこの世界選手権で出場枠を取ることが、夢へのかけ橋だった。
「全日本選手権の会見では『2枠』取るつもりなんて大口をたたいて、自分を奮い立たせることでここまで来ることが出来ました。世界ランキングやポイントからすると1枠ぎりぎりのところにいるのは分かっていたので、本当に枠が確定するまでドキドキしました。五輪にむけて、やっとスタートラインに立ったという気持ちです」
と小松原。コレトは、流ちょうな日本語でインタビューに答えた。
「今年は、キャシー・リード先生にも習うようになって、新しいことがたくさん身についてきました。自分達のパワーを信じて、来季も頑張ります」
2人とも、紆余曲折のスケート人生を超えて、ここに辿り就いた。小松原は日本ではカップル競技が育ちにくい環境だったこともあり、イタリアに渡り、アイスダンスを続けていた。コレトもパートナーを探し続け、韓国やノルウェー代表として出場していた。アイスダンスに魅了され、道を模索していた2人が出会い、そして、国籍と五輪の出場枠を2人の絆でたぐりよせた。来季は日本の国内で、この「1枠」の切符を争うことになる。2人が歩んできた人生の深みが伝わるような、心に刻まれる演技を心待ちにしたい。
ヴィクトリア・シニツィナ&ニキータ・カツァラポフ組
そして表彰台争いは、ロシア、欧州、カナダ、米国とベテランがそろい、混戦となった。コロナ禍の異例のシーズンを乗りこえて、初優勝を手にしたのは、ヴィクトリア・シニツィナ&ニキータ・カツァラポフ組だった。リズムダンスの『雨に唄えば』では軽快で息の合った滑り、フリーダンスの『Andante』『我が母の教えたまいし歌』では美しさの極みといえる滑りをそれぞれ披露。2人の華やかなオーラが、観客のいない会場を温めているように感じさせた。
14年ソチ五輪でエレーナ・イリニフと組んで銅メダルを獲得したカツァラポフにとって、それから7年の歳月をへて世界の頂点に立ったのは、いかに感慨深いことだったろうか。キス&クライに座ったあと、カツァラポフはずっと目をつむったまま得点板を見ることが出来ず、祈り続け、優勝が確定した瞬間に両手を挙げて跳びあがった。
「もうこの感情を言葉で説明することは出来ません。僕たちのすべての感情は今日、演技で出し切って、氷の上に置いてきましたから。昨季の欧州王者になってから、僕たちはもっと進化できると火が付いて、これまでの倍の練習をするというくらいの気持ちでやってきました」
とカツァラポフ。シニツィナも
「今日は演技前から目がうるんでいて、そして演技を終えてもその涙は止まりませんでした。感動的な時間でした」と答えた。
また銀メダルを手にしたのは、マディソン・ハッベル&ザカリー・ダナヒュー(米国)。30歳同士のベテランカップルだ。フリーダンスは『ハレルヤ』のメロディに溶け込んでいくような、しっとりとした滑りを見せた。214.71点で自己ベスト更新しての銀メダル。ハッベルは、こう語った。
「本当はこのタイミングで金メダルを持ち帰りたい気持ちはありました。でも誇らしい銀メダルです」
平昌五輪4位の悔しさを胸に、演技にさらなる磨きをかけてきた30歳。北京五輪にむけて、確実な一歩を記した。
3位は、パイパー・ギルス&ポール・ポワリエ(カナダ)。2011年に結成し、8度目の世界選手権で初のメダルを手にした。
「すべての出来ることを積み重ね、一歩一歩進んでここまで来ました。とても誇りに思います」とギルス。ポワイエも、
「ここまでの道のりはとても長く感じました。長年積み重ねてきたフラストレーションをすべて捨てて、やっと解放されたような気持ちです」と語った。
一方、マディソン・チョック&エヴァン・ベイツ組(米国)は、リズムダンス3位発進となり、フリーダンス『エジプシャン スネイク ダンス』ではエキゾチックな演技を披露したものの、総合4位に。
「残念ながら今日は、小さなミスがいくつかありました。しっかりと課題を持ち帰り、来季はより強くなった姿をお見せしたいです」とベイツ。28歳と32歳のカップルは、3度目の五輪に向けて意欲を高めていた。
来季は五輪シーズン。それぞれのカップルが、最も得意とするジャンルの曲で勝負をかける。美しく強い戦いは、ますますヒートアップする。
文:野口美恵
野口 美恵
元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝、20年冬季マスターゲームズ・シルバー部門11位。
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