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【レビュー:ISU世界フィギュアスケート選手権2021 男子シングル】 羽生結弦の首位発進とネイサン・チェンの逆転劇、そこに食い込んだのは17歳の鍵山優真 北京五輪シーズンの激戦を予感させる一戦
フィギュアスケートレポート by 野口 美恵宇野昌磨(左)、羽生結弦(中)、鍵山優真(右)
羽生結弦とネイサン・チェンの一騎打ちが予想された男子シングルは、最後の最後まで固唾を呑む展開となった。羽生の首位発進とネイサンの逆転劇。そこに食い込んだのは17歳の鍵山優真、そして宇野昌磨はメダリストの背後に迫る4位。北京五輪シーズンの激戦を予感させる一戦となった。
羽生のショートは、まさに圧巻だった。2本の4回転とトリプルアクセルをきっちり決め、ロックに乗って盛り上げる。無観客の試合だったが、画面越しでも羽生が放つ情熱が伝わってくるような演技だった。106.98点での首位発進。
「1つ1つの動きにお客さんと繋がるような振付があるのが魅力のプログラムです。曲のエナジーは差し切れたと思います」
しかしフリーは、いつもと違った。通常は1時間前にウォーミングアップする羽生だが、「ちょっとしたトラブルがあった」といい、会場入りが遅れる。本番は冒頭3本のジャンプでいつにないミスがあり、その感覚のズレに最後まで耐え偲ぶような演技だった。フリーは4位で、総合289.18点で銅メダル。
「バランスがどんどん崩れていったなかで、なるべく転倒にならないよう頑張りました。自分の中では原因はしっかりしてますし、点数ほどの大きなミスではありません。自分のなかではやりきれたなという感覚です」
渡航直前には東北地方で震度5強の地震があった。東日本大震災10年という節目での思いも背負っていた。渡航3日前まで練習していたという4回転アクセルへの思いもあった。そして4回転アクセルを練習してきた影響で筋力がアップしており、それは微妙な力加減の差を生んでいた。しかし、そんな言い訳には終始せず、ただ前を向く姿を見せた。
ネイサン・チェン
一方のチェンは、ショートの冒頭の4回転ルッツで転倒。2018年のグランプリファイナル以来の転倒だというから驚きだ。
「久しぶりの国際大会で、移動やジェットラグなど色々な変則的なことがありました。それに合わせられなかったのはアスリートとして言い訳しようがありません。これは進化するための良い機会だと受け止めています」
ミスを前向きに捉えなおしたチェン。フリーは5本の4回転を入れた鬼のジャンプ構成を成功させた。「今日はこの場を楽しもうと決めて、一瞬一瞬を抱きしめるような気持ちで滑りました」
フリー222.03点、総合320.88点で4連覇と、不動の強さを示したチェン。羽生への思いを馳せた。
「ユヅルは今日は望む演技ではなかったと思います。彼は競技のレベルを上げ、会場の空気を変え、スポーツの革命を起こした人物です。まだまだ彼から学ぶことばかりです」
この2人に食い込む活躍を見せたのが、初出場の鍵山優真。「ミスなくやれば表彰台も狙える」と強気発言で自分を鼓舞してきた。
ショートは4回転2本を含む、パーフェクト演技で2位発進。フリーで3本の4回転をきっちり決め、フリー190.81点、総合291.77点をマークし、メダル確定が分かると、跳びあがって喜んだ。
「僕なんかが最終グループにいて良いのかなと思いましたが、ここまで来たからには日本代表としてやらなきゃと思い集中しました。来季は、もっとしっかりジャンプの調整をして、シニアらしい滑りをしたいです」
また宇野昌磨も4位と、来季の五輪に向けて好位置をキープした。ショートは2本の4回転を降りたもののトリプルアクセルで転倒しての6位発進。フリーは4回転2本を成功させ、フリー3位、総合277.44点での4位となった。現地入り後の調子が悪かった中で、本番は何とか持ち直す演技だった。
「ここに来てからの練習で出せるマックスでした。今後は調整が課題です」
ミハイル・コリヤダ
またロシアの26歳、ミハイル・コリヤダが復活のシーズンとなった。19年に結婚、昨季は持病の手術で休養し、今季は巨匠アレクセイ・ミーシンのもとに移籍。もともと伸びやかなスケーティングとジャンプが持ち味だったが、それが洗練され、ベテランの魅力が光る演技をみせた。フリーでは2本の4回転を成功させ、総合272.04点での5位に。
「ミーシンコーチは僕にとって偉大なメンターです」と語った。
さらに、結婚しまもなく父になるという29歳のキーガン・メッシング(カナダ)も4回転が好調で6位。ブライアン・オーサーのもとで卓越した美しい滑りを磨いた26歳のジェイソン・ブラウン(米国)が7位と、ベテラン勢がそれぞれの個性を伸ばしてきた。また表彰台候補だった4回転ジャンパーのヴィンセント・ジョウは、ミスが多くショート25位で、フリーに進めない悔しい一戦となった。
男子は複数の4回転が求められる一方で、大技に挑む危険性も大きい。それぞれが自分の個性を見極め、来季はさらに強く美しい戦いが見られるだろう。
文:野口美恵
野口 美恵
元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝、20年冬季マスターゲームズ・シルバー部門11位。
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