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【レビュー:全米フィギュアスケート選手権2021 男子シングル】21歳のネイサン・チェンが5連覇達成も飽くなき向上心「まだやるべきことはたくさんあります」
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部ネイサン・チェン
1位 ネイサン・チェン SP1位113.92 FS1位208.36 トータル322.28
21歳のネイサン・チェンが、栄光の記録をまたひとつ伸ばした。2017年から続く全米5連覇は、1946〜52年に国内選を独占したディック・バートン以来となる71年ぶりの快挙。この5年間はそもそもアメリカ国内で行われた個人戦(スケートアメリカ、USインターナショナルクラシック)もすべて負け無しで、しかも全米ではショート、フリー共に、1位の座を1度たりとも譲ったことはない。
ただ本人にとっては、この2021年大会は、決して最高の出来ではなかったようだ。
SPでは4回転ルッツ、3回転アクセル、4回転フリップ+3回転トーループをすべて成功させた。ステップシークエンスはまさに映画「デスペラード」のアクションシーンを彷彿とさせる大胆な熱演で、レベル4+GOE満点を得た。それでも「着氷が2回ほど詰まったし、もう少しクリーンに滑りたいと思っていたんです」と、本人は極めて厳しい自己評価を下す。
FS「メタモルフォーシス」では、陰影のあるエレガントな表現力と、5本4種類の4回転の両立を目指した。しかし冒頭の4回転ルッツでステップアウト+手付きのミス。「今日は少し臆病すぎました。エレメンツに挑みかるような感覚がなく、むしろエネルギー温存の方に気持ちが向いていました。これは正しいアプローチではありませんでしたね」と冷静に原因を分析する。ただし気持ちも身体もすぐに立て直したのはさすが。残りのジャンプはすべて問題なく成功させた。
たしかに今全米のFSの得点208.36ptは、チェン自身が2019年グランプリファイナルで記録した歴代最高得点224.92ptを大きく下回る。4ルッツのミスも痛いが、プログラム後半のスピンエレメンツで2つの「V(=足換えや回転数の要件が満たされていなかったとして基礎点の75%のみを適応)」評価を下された影響も、決して小さくはなかったはずだ。
「まだやるべきことはたくさんあります。練習できるところ、伸ばせるところはまだまだたくさんあるんです。このプログラムはまだ完璧ではありません。世界選が行われると仮定して、もう少しよいパフォーマンスが出せるように、今すぐにでも取り組める部分があります」
当然ながらチェンの意識は、世界選手権3連覇に向いている。「ユズやショーマ、コリヤダ、その他すべての素晴らしいスケーターたちと会えない、すごく奇妙なシーズン」の終わりに、世界中の良きライバルたちと、同じリンクで火花を散らす機会は訪れるだろうか。
2位 ヴィンセント・ジョウ SP2位107.79 FS2位183.59 トータル291.38
たくさんのポジティヴな気持ちと、小さな苦い思いを胸に抱いて、ジョウもまた5年連続で全米表彰台に上った。
真っ先に嬉しかったのは「1年前の今頃はスケートをやめようと思っていた」はずなのに、新たな目標を見つけ、こうして再び戦いの舞台に立てたこと。そしてSPで107.79ptという、自身としては最高のスコアを記録したこと。
これまでも100点超えなら、2019年四大陸選手権(100.18)と同年ワールドチームトロフィー(100.51)の2度経験している。また本人のコメント通り、昨8月のカップ・オブ・コロラドでは103.95ptをマーク。まさにこの103点を超えるために、ジョウは「着氷、スピン、コレオのすべての質を上げるためのあらゆる努力」を費やしてきたそうだ。
努力は実った。冒頭の4回転ルッツ+3回転トーループを美しく成功させると、4回転サルコウ、3回転アクセルもきっちり着氷。いずれも極めて高いGOE評価を得た。その他のエレメンツも、最後のスピンを除き、スケートアメリカより着実に質もスコアも上がった。なによりPCSがオール8点台からすべて9点台に。ヴィンセントの演じるSP「ヴィンセント」は、静かな希望に満ちていた。
だからこそフリーの失敗を本人は大いに悔しがる。2019年ワールドチームトロフィーで299.01ptをマークしたジョウは、人生初の300点超えも夢ではないと考えていたからだ。しかしジャンプの2つの失敗(4回転フリップが1回転に、4回転ルッツを転倒)で、単純計算で15点近くを無為にした。
「でもなにかを得る時もあれば、失う時もあるんです。今大会の僕は素晴らしいことを成し遂げましたし、それを誇りに思います。それに学ぶべきこと、成長すべきことはたくさんあります」
だから今は世界選に向けて、さらに努力を重ねていく。極めて難解なコンテンポラリーで、激しい終わりがひどく印象的なFS「アルゴリズム」を、(もしも開催されるのであれば)ストックホルムでぜひとも完成してほしい。
3位 ジェイソン・ブラウン SP3位100.92 FS4位176.00 トータル276.92
今シーズン初めての大会参戦で、待ちに待ったジェイソン・ブラウンの2つの新プログラムが明らかにされた。疾走感のあるリズムが肉体に取り憑き、そしてブラウンが氷上で激しく踊り出す..まずはそんなSP「シナーマン」に、魂を奪われたファンも多かったのではないだろうか。
濃密な2分40秒。音楽も衣装も、瞬きする間もないほど詰め込まれた上質のスピンやステップも、柔らかな肢体が繰り出すハっとさせられるムーブメントも、すべてが衝撃的なほどにかっこいい。あまりにかっこよすぎて何度でも見返したくなる。ブラウンによれば今プログラムはあらかじめ「2年越し」で完成する予定で、つまり来季も継続だと言うから、さらに磨き上げられていくに違いない。
「難解なプログラムです。氷上で僕がどう感じたか、そして将来より強いプログラムにするためにどう取り組んでいくべきなのか、そんなフィードバックを今大会から得られることに興奮しています」
ブラウンにとって、全米でのSP100点超えは3年連続。ご存知の通り、「4回転抜き」でFS歴代公式記録10位の96.81pt(2019年世界選手権)を誇るアーチストは、しかしアスリートとしての挑戦も決して忘れない。FSでは冒頭に4回転トーループを組み込んだ。結果は転倒に終わったが、近い将来の朗報を期待しよう。
そのFS「10番街の殺人」は、どうやら噛めば噛むほど味わいが出るプログラムのようだ。ブラウン本人さえ最初は「乗り気ではなかった」そうだが、今では「このプロが本当に大好き。7カ月かけて育ててきて、そして今では自分が誇りに思うものに変わりました」。
4位 ヤロスラフ・パニオット SP4位83.74 FS3位183.23 トータル266.97
2018年秋までウクライナのために滑り、2度のウクライナ王者も経験してきたパニオットが、2回目の全米選手権で晴れて4位メダル獲得。「人生最高の調子で、すべてが極めてスムースに進んだ」と振り返ったように、FSは4回転3本を含むすべてのエレメンツをノーミスでこなした。なによりアメリカの誇る大スター、エルヴィス・プレスリーをノリノリで踊りまくったおかげで、きっとアメリカのファンたちの心をわしづかみしたに違いない!現時点ではアメリカ市民権を申請中。いつの日かアメリカ人として五輪に出場したいと夢見ているそうだ。
3年連続の表彰台が期待された樋渡知樹は、残念ながら7位で大会を終えた。SP冒頭の4回転トーループの回転が抜け(2回転で無得点)、9位と出遅れたのが最後まで響いた。3月に予定されている世界選手権に向けては、過去の実績を踏まえ、第1補欠に指名されている。
文:J SPORTS編集部
J SPORTS 編集部
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