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【レビュー:ロシアフィギュアスケート選手権2021】フィギュア大国の国内選手権は連日大熱戦!
フィギュアスケートレポート by セルゲイ・ヴォルコフスキーアガサ・クリスティーのミステリーではないが、「そして誰もいなくなっちゃうのか」というタイトルを大会につけたくなるようなロシア選手権のオープニングだったが、開幕してみればコロナウイルスも思わず見入ってしまうほどの、フィギュア大国の国内選手権は連日の大熱戦となった。
ミハイル・コリヤダ選手
名伯楽であるアレクセイ・ミーシンコーチの元で、エフゲニー・プルシェンコはかつて、バレエの神・ヴァツラフ・ニジンスキーを見事に演じたが、今大会の男子シングルでは、ミハイル・コリヤダが、映画「ホワイト・クロウ」のサウンドトラックに乗って、伝説のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフに扮した。
ミーシンコーチに師事してから、「ミスは良いこと、向上へのモチベーションになる」等の発言からも感じられたが、心身の安定感が抜群に増し、イリヤ・アベルブフの振り付けも美しく映え、下馬評通り、余裕綽々での優勝を果たした。
2位はマカール・イグナトフ。大きなミスも無く順位には満足しているが、もっと出来たはず、という心残りがあるようだ。
3位はその初々しさから、チャイコフスキーも微笑んでOKを出してくれそうな、映画「ブラック・スワン」のサウンドトラックで挑んだ17歳のマーク・コンドラチュク。
力を出しきれなかった4位のアンドレイ・モザリョフ、5位の、病み上がりながら踏ん張ったアレクサンドル・サマリン、4回転無しでも素晴らしい演技で魅せた6位のアントン・シュレポフ他、ロシアン・ブラザーズのナイスファイトなパフォーマンスから、大会が始まった。
ペアは、元コーチのニーナ・モーゼルの、「現在国内では最も実力のあるペア」という言葉に深く頷ける、エフゲーニヤ・タラソワ/ウラジーミル・モロゾフ組が勝利した。彼等の「ボレロ」は必見だ。2位はアレクサンドラ・ボイコワ/ドミトリー・コズロフスキー組。町田樹さんと語り合えたら、日が暮れるまで話に花が咲くのではないかと思われる論理学者タイプのディーマ(コズロフスキー)だが、今大会は体調が回復してから試合に向けての準備期間が無く、冷や汗ものだったに違いない。3位は今季不調だったフリーを漸く成功させたダリア・パブリュチェンコ/デニス・ホディキン組。4位はアナスタシア・ミーシナ/アレクサンドル・ガリャモフ組。メダルには後一歩及ばなかったが、ボイコワ/コズロフスキー組と、お互いにスパーリングパートナーとして、タマラ・モスクビナコーチの元で、これから切磋琢磨していくだろう。
アイスダンスでは、優勝のアレクサンドラ・ステパノワ/イワン・ブキン組、2位のティファニー・ザゴルスキー/ジョナサン・ゲレイロ組は、特段順位に喜ぶ様子はなく、とにかくコロナウイルス感染から回復し、久々の試合に昨年よりレベルを落とすことなく出場、復帰することが出来たことへの安堵感が大きかったように感じられた。3位は2017年ジュニアグランプリファイナル優勝、2018年世界ジュニア選手権も金メダルの若手実力派ペア、アナスタシア・スコプツォワ/キリル・アリョーシン組。メディアカンファレンスでは、スコプツォワが「彼は見た目より力あるんです!」と言ってアリョーシンを苦笑させる初々しさも見せてくれた。
アンナ・シェルバコワ選手
今回の女子シングルは、4回転サスペンスアクション大会になる、と予想していた私の考えを大きく裏切った。それはあらためて「心の強さ」の凄味を思い知らされる出来事だった。3位はアレクサンドラ・トゥルソワ。プルシェンコチームに移籍後、なかなか結果が出せずにいたが、この大舞台でショート、フリーともノーミス、本領を発揮した上、力強い成長面を見せた。2位は14歳のカミラ・ワリエワ。ショートこそトリプルアクセルでの転倒があったものの、フリーは見事にノーミス。「ワリエワのボレロ」を滑り切り、舞い切った。優勝はアンナ・シェルバコワ。何という強さだろうか。肺炎を患った後の体調不良で、フリーを棄権することもあり得た中、4回転ルッツ、4回転フリップを跳ぶと、会場が一体となって彼女と滑り、フィニッシュした。高い技術力はもちろんのこと、シェルバコワは三連覇するに相応しい鉄のハートを持っている。
こうして、氷の女王・エテリ・トゥトベリーゼコーチの涙と観客の感動の嵐の中、戦場のフィギュアスケーターたちによる、歴史に残る「チェリャビンスクの戦い」は幕を下ろした。
日本で人気のあるロシア映画の一つに「モスクワは涙を信じない」があるが、意味するところは、「泣いてたってしょうがない、泣いてる暇があるなら何かしなくちゃ」。
試合を終えて悲喜交交であろうすべての選手たちに、エールの気持ちを込めて贈りたい言葉だ。
尚、プルシェンココーチのトゥルソワのショートプログラムへのジャッジの評価への憤懣やる方無し!の態度には、礼儀正しい日本人のみなさんの中には驚かれた方もいると思うが、いやいや、ロシア人は直接ガチでぶつかり合うことを恐れない人種なので、さもありなん、なことなのである。フリーではトゥルソワが銅メダルに輝き、皇帝もグッドマークを出していたので、今回はとりあえず、「終わりよければ全て良し」(シェイクスピア)!
セルゲイ・ヴォルコフスキー
1967年ロシア生まれ。モスクワ大学日本語学科を卒業。
日本人と結婚し、ソ連崩壊を機に日本に移住。フリーランスの通訳・ジャーナリストとして活動。日本文化への関心が高じ、ロシア語で俳句を紹介するブログも執筆。ソチ五輪を始めとするフィギュアスケートの国際大会で、記者・通訳としても活躍している。
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