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田村岳斗コーチ特別インタビュー ジュニア新時代~羽生選手の最優秀選手賞受賞まで19/20シーズン振り返り
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部田村岳斗(木下スケ−トアカデミー ヘッドコーチ)
フィギュアスケート2020-21シーズンに向けて、田村岳斗コーチにインタビュー。今シーズンから木下スケートアカデミーのヘッドコーチに就任。アカデミーの話の前に、まずは2019-20シーズンを振り返ってもらった。新型コロナウイルスの影響で世界選手権が行われなかったが、ジュニア、シニアの両方で印象に残った選手とは?
昨シーズン印象的だったジュニア新世代の台頭とシニアのさらなる成長
J SPORTS:改めて2019-20シーズンを振り返っていただきます。まずジュニアに関してはどのような印象をお持ちですか?
田村:ジュニアでいちばん印象的だったのは、男子の鍵山優真選手と佐藤駿選手の活躍ですね。鍵山選手はスピードもありますし、ジャンプの質が高い。佐藤選手も同じように、ジャンプにキレ、精度がありますから、これはまた日本の男子がおもしろくなってきたなと思わせてくれました。ただ、この二人をジュニア世界選手権で抑えて優勝したロシアのモザレフ選手。世界ジュニア以外の試合でも何度か見ましたが、とにかく強い選手だなと思っていました。公式練習で見た際には、特別に目を惹く要素を感じなかったのですが、いざ試合になるとしっかりと点を取ってきて結果も出している。鍵山選手と佐藤選手を抑えての優勝ですから、2人にとっても大きなライバルとなっていくでしょう。2022年北京オリンピックの男子シングルがどうなっていくのか、楽しみな選手たちが増えました。
J SPORTS:ジュニア女子シングルについてはどうでしょう?
田村:ジュニア世界選手権で優勝したロシアのワリエワ選手はFSで4回転トウループを2本入れてきました。1本目は着氷が乱れてキレイには決まらなかったのですが、2本目は完璧でした。ただ、ロシアの代表としてあの場に立っている時点で、すごいことをやるのは予想できました(笑)。メドヴェージェワ選手やザキトワ選手、次にトゥルソワ選手、コストルナヤ選手、シェルバコワ選手を何度も試合で見ているので、僕もいちいちビビらなくなりました(笑)。ワリエワ選手については、細い体に強さを感じます。柔らかさと強さの両方を高いレベルで持っていると感じます。アメリカのアリサ・リュウ選手は、トリプルアクセルも4回転も持っていますから、ジャンプテクニックはロシア選手にも負けていません。試合で両方決まって、ジャンプ以外の総合力も高まっていけば、おもしろいことになりそうです。
J SPORTS:最近、SNSでジュニアやノービス選手のすごいジャンプ動画がアップされていてコーチがアップしていることもありますね。
田村:選手の注目度を高めたいという思いもあると思いますが、僕はあまりやってないですね。J SPORTSで1回動画をアップしてもらったぐらいです。そもそも僕自身SNSのやり方がよくわかっていません。SNSは正しい使い方をすればとても便利な道具だというのは聞いています。ただ、使い方を間違えて大きな問題になることも多いと聞いています。機械の使い方もよくわからない僕が気軽にSNSには手を出さない方がいいと思っています。
J SPORTS:それでは次にシニアについてお伺いします。残念ながら世界選手権が開催されなかったので振り返ることが難しいと思いますが…。
田村:ファンのみなさんは、羽生選手や宇野選手の完成した演技、ネイサン・チェン選手をはじめとするライバルとの戦いを見たかったでしょう。僕もその一人です。羽生選手は負けた後は必ずなにかをやってくれる選手ですし、宇野選手はステファン先生についてからそんなに時間が経ってない中で、次にどんな滑りを見せてくれるのかなとすごく興味がありました。
J SPORTS:昨シーズン序盤は苦しみましたが、後半から上り調子になっていた宇野選手に関してはどのように感じていましたか?
田村:宇野選手はステファン先生がコーチについてまだ時間が経っていないなかで、どう仕上げてくるか世界選手権で見たかったというのはあります。本人もやりたかったでしょう。彼は間違いなく世界レベル。世界選手権がなかった以上、振り返るのが難しいです。中途半端なことを言うのは、彼に対して失礼だと思うので。
J SPORTS:昨シーズン、ネイサン・チェン選手の安定感が高まったように感じました。
田村:平昌オリンピック以降、ネイサン・チェン選手の安定感が際立つようになりましたね。平昌オリンピックも失敗したのはSPだけで、FSはよかったですから。もともと力はある選手でしたし、性格的に淡々としているように見えて熱い気持ちも感じられますし、油断をするようなこともありません。冷静な判断力も強さの一つだと思います。コンディション、試合によって構成を変えてきます。普段からそういう練習をしていて、状況に応じていろいろ対応もできるのでしょう。4回転の種類が多いからできることです。単純に難易度を下げてジャンプを入れ替えたからうまくいくわけではないのがフィギュアスケートの難しさでもあります。それでも冷静にどんな状況にも対応ができる準備・技術と精神力が彼にはあります。
J SPORTS:羽生選手は第一回ISUスケーティングアワードで最優秀選手に選ばれました。
田村:それに関しては納得の受賞ですね。羽生選手は、昨シーズン、4大陸選手権も勝って、スーパースラムを達成。オリンピックも2連覇。それでもなお上手くなりたい、強くなりたいと進化を続ける精神力は、ただただすごいと言うしかありません。僕の中では、ジョーダン、タイソン、ロナウド、イチローさんと同じ並びの中に羽生選手がいます。何年もトップの座にいて、そこから上を目指して自分で目標を見つけて、努力をできるからこそ、今回の最優秀選手というのも納得です。これまで多くのライバル選手がいたのも、羽生選手にとって大きかったでしょう。今はネイサン・チェン選手がいますし、国内には宇野選手がいます。それ以前にはハビエル・フェルナンデス選手やパトリック・チャン選手。ジュニア時代も常に競って追いつき、追い越して、今度は自分より年下の選手とも戦っている。これからは鍵山優真選手や佐藤駿選手もライバルになっていくかもしれません。これだけ長きに渡ってトップにいるからこそ、うまくいかなかったことも含めて彼だけが経験してきたことがたくさんあります。そんな彼がこの先どこまで行くのか?何をやってくれるのか?ちょっと想像がつきません(笑)。
J SPORTS:昨シーズンのシニア女子では、紀平選手がロシア3人を相手に健闘しました。
田村:やはりロシアの3人は強かったですね。離されないように食らいつくことでせいいっぱいでした。しかし、紀平がいなければ、誰もロシア選手の背中が見えていなかったでしょう。
J SPORTS:ISUスケーティングアワード最優秀新人賞はコストルナヤ選手でしたが、韓国のユ・ヨン選手も新人賞候補にノミネートされていました。
田村:そこに名前が上がったことでも名誉なことです。とてもうれしいですね。僕は、彼女の練習をする姿を見るのがとても楽しいです。彼女もすごくよく練習するので。
(※インタビュー時は、詳細な大会スケジュールが決定前のものです)
田村岳斗
田村岳斗○たむらやまと
青森県出身
1998年長野オリンピックフィギュアスケート男子シングル日本代表。現役引退後、濱田美栄コーチの下でコーチに転身。今シーズンから木下アカデミー ヘッドコーチに就任。未来のメダリスト育成に尽力している。
文:J SPORTS 編集部
J SPORTS 編集部
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