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【プレビュー:ISU欧州フィギュアスケート選手権2020 女子シングル】進化を止めないロシア勢が4年ぶりの表彰台独占か。筋書きのないドラマがいま、幕をあける。
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部表彰式ではきっと、3枚のロシア国旗がはためく。今季のグランプリファイナル、続くロシアナショナルの表彰台を独占した3選手は、そもそも現時点でのシーズンランキングや歴代最高得点ランキングでもトップ3の座を分け合う。つまりロシア女子によるヨーロッパ選手権7連覇はもちろん、7年連続金銀独占、さらには4年ぶりの表彰台完全独占さえ、ほぼ確実視されている。
ただし、それ以外のシナリオは、書かれてはいない。2020年1月末の時点で、果たして3人のうちの誰が最先端を突き進んでいるのかは、蓋を明けてみなければ分からない。どんな順番で表彰台に上がるのかも、誰がどんなすごいジャンプを繰り出すのかも、そしてどれほど驚くようなスコアを叩き出してしまうのかも、大会前には決して予測できない。だってアリョーナ・コストルナヤ16歳、アンナ・シェルバコワ15歳、そしてアレクサンドラ・トゥルソワ15歳の3人は、常に切磋琢磨しあい、いまだに恐るべきスピードで進化を遂げている最中なのだ!
しかも各々の持ち味がそれぞれ異なるからこそ、3人の戦いはいっそう魅力を増す。よくよく世間で言われるのは、表現力はコストルナヤ>シェルバコワ>トゥルソワ。コストルナヤは16歳にしてすでに「完成された大人の女性」の美しさを有している。ひとつひとつの動きは指先まで意識が行き届き、そのスケーティングは優雅で滑らか。しかもコストルナヤは完成度の高い3Aを武器に、SPから高得点を稼ぎ出す。
アリョーナ・コストルナヤ
高難度ジャンプの豊富さなら、トゥルソワ>シェルバコワ>コストルナヤだろう。コストルナヤは現時点では3Aのみ(練習では4Sを決めている)に対して、トゥルソワは4種類の4回転を飛ぶ。グランプリシリーズでは普通に「3種類4本」を組み込み、GPファイナルではミスこそあったものの、4Fを含む「4種類5本」にさえ挑戦した。もちろん「ロシアンロケット」は今回のヨーロッパ選手権でも、この「4種類5本」(4F、4S、4Lz、4T2本)へ果敢に挑む。
トゥルソワには大胆に行かざるを得ない理由もある。女子のSPでは4回転を組み込めないため、どうしても「FSでの巻き返し」を強いられる。今季のSPベストスコアを比較してみると、コストルナヤの85.45(世界最高)に対して、トゥルソワは74.91。対するFSベストスコアは前者162.14で、後者166.62(世界最高)。トータルパッケージで攻めてくるコストルナヤに対して、この「FSでの巻き返し」は極めて難しい課題なのだ。
アレクサンドラ・トゥルソワ
ただしトゥルソワが、GPファイナルでもトライしたように……もしもSPで3Aを入れてきた場合、状況は大きく変わる。そしてトゥルソワのSP予定構成表によれば、冒頭に3Aを飛ぶ!
表現力と4回転とを極めてバランス良く併せ持つのが、3人目のシェルバコワだ。しなやかでキュートな表現力はぐんぐんと成長中だし、スケーティングやスピンの疾走感も爽やか。つまりプログラムコンポーネンツで好スコアをマークできるおかげで、SPではコストルナヤにそれほど大きく引き離される恐れはない(それでもGPファイナルでは7点差だった)。
しかも今のシェルバコワは、FSに絶対的な強さを誇る。コストルナヤが今季のSPをすべて1位で折り返しているのだとしたら、シェルバコワはすべてのFSを1位で終えている。女子としては唯一、基礎点の高い4Lzを、FSに2本着実に降りる。しかもGPファイナルFSでは転倒に終わった4Fを、ロシアナショナルでは見事に着氷してみせた。FSで181.94点、トータル261.87点という脅威の得点をさらいとった。非公式ながら……女子の世界最高得点だ!
こうしてロシアナショナル2連覇を果たしたシェルバコワが、絶好調をキープしたまま欧州の頂点もさらいとってしまうのか。GPファイナル覇者のコストルナヤが、女王の格を魅せるか。はたまた世界ジュニア2連覇トゥルソワが、2人を再び凌駕するか。今回のヨーロッパ選手権では、とにかくロシア女子3人にばかり話題が集中してしまいがちだ。しかも長らくユーロ女子の旗頭を務めてきたカロリーナ・コストナーも、競技会からすでに2年遠ざかり、ロシア一強体制にさらに拍車がかかった。昨ユーロ3位に食い込んだヴィヴェカ・リンドフォースは、背中の故障で今季序盤から休養中。一昨季5位ルナ・ヘンドリックスも、足の故障のせいで、2年連続の欠場を発表した。
それでも、たくさんの女子選手たちが、「自己実現」に向けてヨーロッパ選手権の舞台にやってくる。昨季怪我に苦しんだニコル・ショットは、1月序盤の転倒で脚の付け根を痛めたそうだが、「パーソナルベスト更新とトップ10」目指して大会入り。18歳アレクシア・パガニーニには、12月のナショナルでFSを昨季までのプログラムに戻し、見事3連覇を果たした。オフ中に陸上ダンスで鍛えたという、表現力の成長に注目したい。25歳とすでにベテランの域に入ったマエ=ベレニス・メイテは、自身10回目の欧州選手権に挑む!
なにより急速に存在感を増しつつある「元」ロシア女子たちから、目が離せない。モスクワ生まれの3人……エカテリーナ・リャボワ16歳、ヴィクトリア・サフォノワ16歳、エカテリーナ・クラコワ17歳は、それぞれにアゼルバイジャン、ベラルーシ、ポーランドの国旗を背負いヨーロッパ選手権に出場する。
かつてサンボ70に所属し、現在はプルシェンコアカデミーで練習を積むリュボワは、昨季アゼルバイジャン選手として国際大会にデビュー。ちなみにアゼルバイジャンには人生で1度しか入国したことがないそうだが、すでに欧州(12位)、ワールドJr(13位)、ワールド(13位)と世界各地を転戦している。つい先日のユールオリンピックでも8位の成績を残した。
アンナ・シェルバコワ
トゥルソワが制した昨季Jrロシア選手権を8位で終えた後、2019年夏に国籍変更が認められたのがサフォノワ。175cmという長身とスラリと長い手足が目を引く16歳は、やはり最近までサンボ70に所属していた。ボルボオープンで優勝し、チャレンジャーシリーズのゴールデンスピン2位に入るなど、すでに目立つ成績を上げている。
クラコワは「ロシアでは自分が活躍できる場がない」と、思い切って2018年11月に国籍を変更。今季はジュニアグランプリ2大会に参戦し、シニアとしてネスレ杯、四カ国選手権、さらにチャレンジャー大会のワルシャワ杯で優勝を飾った。今回のヨーロピアン出場者の中では、ロシア女子と欠場のヘンドリックスを除き、唯一のトータル200点超えを達成している選手でもある。
国籍変更後にすぐにカナダへ飛んだクラコワは、ブライアン・オーサーの下でトレーニングを積んできた。練習では4回転も飛んでいるそうだから……この先のさらなる成長が楽しみだ!
文:J SPORTS 編集部
J SPORTS 編集部
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