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【プレビュー:ロシアフィギュアスケート選手権2020 男子シングル】ジュニア時代から切磋琢磨してきたアレクサンドル・サマリンとドミトリー・アリエフ。若き二人がタイトルを巡り激突必至。
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部ついに機は熟したか。ジュニア時代から切磋琢磨してきた21歳のアレクサンドル・サマリンと、1つ年下のドミトリー・アリエフとが、ロシア男子ナンバーワンのタイトルを巡り一騎打ちを繰り広げる。
過去6年間のナショナル王者は不在だ。1年前に4度目の栄光を手にしたマキシム・コフトゥンは、昨季限りで現役引退を発表した。また過去2回優勝したミハイル・コリヤダは、秋に副鼻腔手術を受けた影響で、シーズン前半に続きナショナルも欠場する。
ロシア女子が一気に4回転時代の扉を開いてしまった感があるが、サマリンもまた、(現時点では)4回転最難関のルッツに定評がある。それにしても、なんたる圧巻。サマリンのジャンプには、高さ、幅、スピード、ダイナミックさ、さらには滞空時間の長さと全てが揃っている。成功率も抜群だ。今季のGPシリーズ&ファイナル計3大会で6本挑戦し、5本を完璧に着氷してみせた!
しかも単なる4Lzではない。最大の武器は、基礎点15.70という超難関の4Lz+3Tのコンビネーションだ。成功率が高い上に、質も高いからこそ、GOE評価もとびきり高い。今季GPロステレコム杯のFPでは、冒頭の同コンビネーションでなんと基礎点+GOE=21.12点を叩き出した。これは1つのエレメントとして得られる得点としては、フィギュアスケート史上最高記録である。
そのロステレコム杯で、サマリンは生まれて初めてのGP大会優勝を果たした。フランス杯でも2位の好成績を挙げ、シニアとしては初めてのGPファイナルへ駒を進めた。残念ながらそのファイナルの大舞台で、SP冒頭の4Lzでお手つきという痛恨のミス。最終的に大会を4位で終えた。
「完全なる失敗。言い訳はしない」と男らしく語ったサマリンは、なぜかビッグタイトルには縁遠い。ジュニア時代のGPファイナルは2位に泣き、ワールドジュニアでも3位に甘んじた。ロシアナショナルではジュニア部門で銀メダル3回。シニア部門でも銀メダル2回に銅メダル1回。昨季のヨーロッパ選手権でも、やっぱり2位だった……。
ならば今年のロシアナショナルで見えない壁を打ち破り、初の戴冠を成し遂げられるか。現在は4Fと4Tの成功率を上げるべく研鑽中。ジャンプばかりが注目されがちだが、スピンやステップでだってしっかりレベル4を取る。気迫のこもった力強い滑りはもちろん、近頃は表現力も磨かれつつある。サマリン本人が自己分析する通り、おそらく「最大のライバルは自分自身」だ。
豪快で雄々しいサマリンに対して、繊細で優美なアリエフもまた、きれいな4Lzを跳ぶ。詩的な表現力や深い憂いをたたえた佇まいだけではない。今GPシリーズの初戦スケート・アメリカのSPでは、サマリンに負けじと4Lz+3Tも成功させた。さらにFPでは4T+3Tという大技も披露した。
こうしてアメリカ大会で初めてのGP表彰台乗りを達成し、地元ロステレコム杯ではサマリンに次ぐ2位に入った。しかしその先に厳しい試練が待っていた。GPファイナルのFPは冒頭の4Lzこそ見事に決めたが、続く4Tで転倒。そこでどうやら足首を痛め……残りの約3分半は文字通りぼろぼろだった。トータルで転倒3回減点4。ジュニア時代にGPファイナルで優勝を遂げた3年後の、シニア初のGPファイナルは、失意の中で終えた。
果たして心身の痛みはしっかり癒えただろうか。ロシアナショナルへは絶対に万全の調子で臨みたい。トリノでは完成形を披露できなかったが、アリエフのFSのサウンド・オブ・サイレンスは、持ち前の滑らかなスケーティングを活かした美しいプログラムだ。
ちなみに2人揃ってGPファイナル表彰台を逃したせいか、母国メディアの論調は厳しかった。フランス人ケヴィン・エイモズが予想外の初表彰台に歓喜したが、フィギュアスケート伝統国にとっては、本来ならばロシア男子こそがヨーロッパ男子ナンバーワンであらねばならなかった。欧州選手権7連覇のスペイン人ハビエル・フェルナンデスが完全に競技を退いた今だからこそ……。しかも2018年世界選の好成績でせっかく10年ぶり以上に「男子3枠」を取り戻したというのに、たった1年で2枠に減らした反動も小さくない。
つまりサマリンとアリエフの若き両肩にのしかかるプレッシャーは、とてつもなく大きい。2人にとって、「優勝本命」として挑む今年のナショナルは、決して簡単ではないだろう。
ただしファンが注目すべきは2人だけではない。たとえば昨ナショナルで4位に入り、初めて世界選手権への出場切符をつかんだアンドレイ・ラズキンや、今季初めてGPシリーズ2大会を戦ったアントン・シュレポフ……つまりトゥクタミシェワの恋人とレオノワの旦那様だって、今季もう一段レベルをあげてくるはずだ。
さらには1987年生まれのセルゲイ・ヴォロノフと2000年生まれのマカール・イグナトフだって、今年のロシアナショナルで大旋風を巻き起こす可能性を秘めている。
なにしろ32歳大ベテランは、今年のナショナル出場者の中で、唯一の優勝経験者である!連覇を果たしたのは……なんと11年前と12年前に遡る。ちなみにジュニア時代から15年間欠かすことなく、ヴォロノフはどこかの大会で表彰台に乗ってきた。今季はいまだNHK杯の4位止まりとはいえ、やはり同大会のSPで3位スモールメダルを持ち帰っている。
そのNHKでは4T+3Tをサラリと決めた。長い経験と確かな実力に加えて、強いメンタルこそが高い安定性を支える。なによりフィギュアスケートへの情熱は今でも変わらずメラメラと燃やす。……それにしてもSPクイーン、FSミューズという英国ロックバンドの楽曲をチョイスしたのは、ヴォロノフ自身の趣味なのだろうか?
ヴォロノフのGPシリーズ&ファイナル参戦が26大会を数える一方で、イグナトフは今季のロステレコム杯でGP大会デビューを果たした。ネーベルホルン杯でSP7位から衝撃的な逆転優勝を遂げた19歳は、ロステレコム杯ではSP第1滑走ながら高得点を叩き出し、最終的に3位に飛び込んだ!
ジュニア時代に膝を痛め、昨季11月は右脚骨折でシーズンをほぼ棒に振ったが、それでもイグナトフはジャンプが大好き。現在公式戦では4Sと4Tを組み込むが、練習ではアクセル以外の全てをすでに成功させているとのこと。経験不足のせいかFPの終盤で息切れする場面も見られるが……全ては時間の問題にすぎない!
文:J SPORTS 編集部
J SPORTS 編集部
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