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【プレビュー:ロシアフィギュアスケート選手権2020 女子シングル】フィギュアスケート界を席巻する新しい波。世界最高峰の戦いが幕を開ける
フィギュアスケートレポート by J SPORTS 編集部新しい波がフィギュアスケート界を席巻している。今季シニアに転向したばかりのロシアのティーンエージャー3人は、女子シングルのスタンダードを一気に塗り替えた。2019年12月27日・28日に開催されるロシアナショナルでは、間違いなく、彼女たちが世界最高峰の戦いを繰り広げる。
もちろん3人とは、2019/20シーズンのISUグランプリシリーズをそれぞれ2つずつ勝ち取り、GPファイナルの表彰台を独占したエテリ・トゥトベリーゼ門下生にほかならない。上からアリョーナ・コストルナヤ、アンナ・シェルバコワ、そしてアレクサンドラ・トゥルソワだ。ファンにとっては嬉しいことに、3人の切り札や魅力はそれぞれに異なる。簡潔に言えばコストルナヤは3回転アクセルを跳び、シェルバコワは4回転ルッツをフリースケーティングで2本入れ、そしてトゥルソワは4種類もの4回転ジャンプを持つ。
今季の初戦フィンランディア杯で初めて3Aを成功させたばかりだというのに、2ヵ月後のGPファイナルでは、コストルナヤは完璧な3Aを計3本も組み込んだ(SP1本、FS2本)。16歳のGPファイナル覇者は、1つ年下のシェルバコワやトゥルソワと違って4回転こそ跳ばないが、そもそも女子は規則によりSPに4回転を組み込むことはできない。つまりコストルナヤのダイナミックで完成度の高い3Aは、今季出場した4つの大会でSPを全て首位で折り返したように、今回のロシアナショナルでもSPで大幅リードを稼ぐのに極めて有効だ。
コストルナヤの魅力は、ジャンプだけに留まらない。GPファイナルで世界歴代最高のトータル247.59点を叩き出した理由は、むしろプログラムコンポーネンツスコア(PCS)の高さにある。なにしろ直接対決となったグランプリファイナルでは、PCSだけでシェルバコワを約5.5点、トゥルソワを10点以上も上回った。滑らかなスケーティング技術と成熟した表現力が、クールビューティーな顔立ちや均衡の取れた肢体とあいまって..見る者を美の世界へと引き込む。エレメントの合間は難しいつなぎで飾られ、それでいて流れは決して途切れない。
技術力と表現力の完璧なる調和を実現させ、世界中のフィギュアスケート関係者たちに早くも「女王」と呼ばれるコストルナヤに対して、15歳のシェルバコワやトゥルソワにとっては、現時点では4回転ジャンプこそが最大の武器だ。しかし、この武器は、シーズン中にも着実にグレードアップを続けている。
基礎点の極めて高い4回転ルッツを、シェルバコワはジュニア時代から軽々と跳んできた。昨ロシアナショナルでもFSの4Lz成功で、SP5位からの劇的な逆転優勝を決めた。今季9月のロンバルディアトロフィーでは、国際試合で4Lzを跳んだ史上初のシニア女子になった。そして10月のスケートアメリカでは、シニア女子としては史上初めて、1つのプログラムで4Lzを2本組み込んだ。
決して4回転だけではない。スピード感あふれる滑りや質の高いスピンもシェルバコワの持ち味だ。それでも12月のグランプリファイナルでは、さらに4回転の数を増やした。つまり4Lz2本に加えて、初の4F挑戦。残念ながら4Fは転倒に終わったが..もしも決めていたら、逆転優勝も不可能ではなかった。だからこそナショナルでは、2連覇目指して、改めて4F込みの難しい構成に挑んでくるに違いない。
一昨季にジュニアグランプリを制し、2年連続で世界ジュニアを勝ちとってきたトゥルソワは、今シーズンを4回転「2種類3本」でスタートさせた(初戦ネペラ杯、4Lz2本、4T1本)。続くスケートカナダとロステレコム杯では「3種類4本」(4S1本、4Lz1本、4T2本)に増やした。GPファイナルではなんと「4種類5本」(4F1本、4S1本、4Lz1本、4T2本)へと拡大。実際は4Sがすっぽ抜けて2Sになり、また4Tで転倒があったものの、男子でさえネイサン・チェンや羽生結弦しか挑戦できないほどの難しいジャンプ構成だ。なによりジャンプ基礎点が1.1倍となるプログラム後半に4回転を2回組み込むとは...!
表現力はいまだ発展途上ながら、「ロシアンロケット」の異名を取るトゥルソワこそが、3人の中では最もアグレッシブだと言われる。GPファイナルのショートプログラムでは3Aも初めて試みた。練習ではすでに成功している3Aを、ロシアナショナル本番できっちり降りることさえできれば、ライバル2人にとってはとてつもなく大きな脅威となる。
ところで今季のグランプリファイナルで表彰台を独占した3人は、世界歴代トータルスコアでもトップ3に並ぶ(1位コストルナヤ、2位トゥルソワ、3位シェルバコワ)。ご存知の通り、ちょうど1年前のロシアナショナルでも表彰台を分け合った(1位シェルバコワ、2位トゥルソワ、3位コストルナヤ)。
ただし1年前とは状況が異なる。つまり3人全員がシニアの国際大会への参加可能年齢(シーズン直前の7月1日時点で15歳以上)に達しておらず、ナショナル4位以下のシニア選手にヨーロッパ選手権と世界選手権への出場権が割り振られた昨季とは違うのだ。3人が揃ってシニアに転向した今季、他の選手たちがシーズン後半戦の大舞台へ駒を進める可能性は極めて小さい。2015年の欧州&世界チャンプのエリザベータ・トゥクタミシェワや、翌季から欧州&世界2連覇を果たしたエフゲニア・メドベージェワでさえ、おそらく表彰台争いに割り込むのは至難の業となる。
それでも、かつての女王たちだって、決して進化を止めてはいない。トゥクタミシェワは今季5年ぶりに、グランプリシリーズで2度の表彰台乗りを揃えた。GPファイナルと同時期に行われたISUチャレンジャーシリーズのゴールデンスピンでは、FSで3Aを2本跳び、大会優勝と同時にシリーズ制覇も決めている。すでに4Tは習得済みで、さらに4Lzも練習中。23歳で迎える初めての大会であるロシアナショナルで、初めての4回転ジャンプを決めてくるかもしれない。
20歳のメドベージェワは、カナダで幅を広げた表現力に、よりいっそう磨きをかけた。今季グランプリシリーズでは高いPCSを連発。特にFPでは映画『SAYURI』のサウンドトラックに乗って、細やかな情愛を氷上に描き出す。着物風コスチュームも美しい。
また大ベテラン29歳のアリョーナ・レオノワが膝の負傷で、19歳マリア・ソツコワが健康上の理由で、それぞれにロシアナショナルを欠場する。さらには2019年12月13日、ロシア国営テレビへの出演中に、アリーナ・ザギトワが競技会への参加を一時停止することを発表した。シニア転向1年目にグランプリファイナルと冬季五輪の金メダルを手にし、昨季は世界選手権タイトルも勝ちとった17歳は、ただし「引退するつもりはない」と自身のインスタグラムにてきっぱり宣言。「表彰台の一番上に立ちたい」とも語る。もっと強く、もっと美しくなったザギトワが、戦いの第一線に戻って来る日を待とう。
文:J SPORTS 編集部
J SPORTS 編集部
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