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フィギュア スケート コラム 2019年4月24日

~華麗なる舞~ 番外編 田村岳斗に聞く!其の三(2018-2019シーズン総括)

フィギュアスケートーーク by J SPORTS 編集部
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J SPORTS恒例 田村岳斗コーチに今シーズンを総括。3月に終了した世界選手権の話題を中心に、自身の選手である紀平梨花選手・宮原知子選手、さらに男子結果について、おうかがいしました。

J SPORTS 世界選手権では濱田美栄先生・田村岳斗コーチのチームから紀平選手、宮原選手が出場しましたが、改めて大会を振り返っていただきます。

田村 アリーナ・ザギトワ選手、優勝おめでとうございます。ザギトワ選手は、オリンピック後、うまくいかないところがありましたが、今回の世界選手権でしっかり合わせてきました。オリンピックチャンピオンの余裕という感じではなく、意地、絶対に勝つという気持ちをザギトワ選手が1番強く持っていたと感じました。普通であれば、その気持ちに空回りするところですが、さすがです。エリザヴェート・トゥルシンバエワ選手はフリーで4回転サルコウをキメての銀メダル。自身初の世界選手権メダル、さらには世界選手権での4回転成功。こんなに早く女子シニア選手でも4回転を跳ぶようになってしまった。ジャンプテクニックの進化は男子に負けていません。トゥルシンバエワ選手は歴史に残る事をやってのけました。おめでとうございます。銅メダルのエフゲニア・メドベージェワ選手も平昌オリンピック後、苦しい時期があったと思いますが、それを乗り越えての滑りでした。ロシアは代表選考でバタバタしていたようで、メドベージェワ選手は代表に選ばれた喜びよりも重圧の方が大きかったのでは?絶対に結果を出さなければいけない状況での銅メダル。おめでとうございます。過去に2度も世界タイトルをとった選手に「銅メダルおめでとう」と言うのは間違えているかもしれませんが、今のメドベージェワ選手にとっては過去の2度の金メダルと同等か、それ以上の価値が今回の銅メダルにあったのではないかと僕は思っています。

J SPORTS 日本人選手については?

田村 ウチのチームから紀平と宮原が出場しました。坂本花織選手も含めて、日本代表3選手ともメダルを期待される自国開催で期待に応えたいという思いが強すぎたのではないかと思っています。結果については、本人たちも悔しい思いはあるでしょうし、僕も同じです。それでも世界のトップ選手が集まる中で、紀平は4位、坂本選手は5位、宮原は6位の成績です。

J SPORTS  紀平選手はシニア1年目のシーズンとしては十分すぎる成績でした。 

田村 シーズンの出だしからすごくいい成績だったので、今回の世界選手権でメダルに対する期待はとても大きかったと思います。ただ、1年前を考えると、世界ジュニアでは8位。それが1年の間で、シニアの世界4位。グランプリファイナル、四大陸選手権と欲しいタイトルを今シーズンのうちに2つもとってくれた。この結果によって世界選手権ではメダルを獲れなければ負けいう雰囲気はあったのかもしれませんが、1年を通してみると、ものすごい進化です。大成長をしています。あの大舞台でトリプルアクセル+トリプルトウループを成功しました。世界選手権女子選手としては紀平が初めてときいています。SPのエレメンツでスコア0点がありましたが、それでもこれだけの成績ですから、世界レベルでメダル争いに参加できるまでの選手としての成長の確認ができたシーズンでもありました。今回、紀平以外の上位選手は、すでに世界選手権やオリンピックを経験しています。選手たちの頑張り、関係者やスポンサー、ファンのおかげでとても華やかな雰囲気の世界選手権だったと思います。これほどの舞台はなかなか経験できるものではありません。それをシニア1年めから体感できたことは、彼女のこれからにとって大きいと思います。でも今は次の事よりもとにかく休ませたいです。おそらく本人は若さもあり、来シーズンに向けての気持ちの方が強く、疲れはあまり感じていないでしょう。それでも確実に心も身体も疲労しています。それだけの事をやってくれました。意欲のある選手を止める事は説得が大変ですが、この時期は僕がコントロールできる範囲にいる時はできるだけ休ませたい。

40になるオッサンがピンクの袋にアメを入れてはいけないという決まりはありますか?

J SPORTS 宮原選手は、平昌オリンピック後も高いレベルでスケーティングのレベルを上げていきました。

田村 宮原は、平昌オリンピック後も真摯に練習に取り組んできました。とはいえ、長い間目指していたオリンピックに出場していい滑りができた気持ちの微妙な変化が生まれていたのかもしれません。彼女に関しては、慢心はありませんが、次に向けてどう成長していくか、焦りや悩みなどがあったと思います。アスリートにとっての4年に1度のオリンピックはとても大きいものですから、ザギトワ選手、メドベージェワ選手と同様、いくら宮原とはいえ、気持ちを切り替えるのは大変だったと思います。それでもGPファイナルにも進み、今回代表にも選ばれて6位に入りました。また、来シーズンに向けて、自分なりに課題を見つけて取り組んでいく。それを繰り返せるのが、宮原の強みです。

さて水色の袋には何が入っているでしょう?考えすぎて頭が痛くなってもバファリンはあげません。

J SPORTS 世界ジュニアに出場した白岩優奈選手については?

田村 今回、僕は世界ジュニアには行けませんでした。映像で観ましたが、白岩は2日間ともにいいパフォーマンスでした。すでにシニアに上がっている選手なので、最初、ジュニアの試合に出場することに多少のためらいがありましたが、出場の資格、チャンスがある以上でるべきだと思っていました。こだわりだけで自分の可能性を狭めていくよりはチャレンジした方がいいということを彼女自身が理解しました。結果として来シーズンのジュニアの枠取りに貢献できたと思います。そして僕はロシアの4回転軍団を体感して欲しかった。聴くより観るより同じグループで滑って感じた方が話は早い。この世界ジュニアで白岩が何を感じたか、来シーズンが楽しみです。

さて紫のフクロには何が入っているでしょう?正解してもフカヒレスープももずくスープもあげません。

J SPORTS 今回、トゥルシンバエワ選手が4回転サルコウを跳びましたが、それを踏まえて、来シーズンの女子をどのように見ていますか?

田村 トゥルシンバエワ選手の4回転に関しては練習では見ていたので、いずれは跳ぶだろうと予測はしていました。それが世界選手権という大舞台でやれたというところにすごさを感じました。4回転サルコウのトゥルシンバエワ選手は2位。3アクセル3トウの紀平は4位。それを跳んだからといって勝てるわけではありませんが、いずれくる時のために戦える状態にしておけるように対策をしていくしかありません。

日本の代表になる事も大変ですが、今回優勝したザギトワ選手、3位のメドベージェワ選手でさえ、来シーズンロシアの国内を勝ち抜くのも大変な状況でしょう。グランプリファイナルで表彰台に乗っても代表になれない過酷な国ですから。お互い我慢比べのようなところもありますが、キツさはロシアの方があると思います。だから出てくる選手は強い。負けている僕たちが先に弱音をはいていたらいつまでもロシアに追いつけない。勝ち抜いて来年また挑戦を受けてもらえるようにやっていきたいと思っています。

J SPORTS 男子はネイサン・チェン選手の2連覇で終わりました。

田村 ネイサン・チェン選手 世界選手権2連覇おめでとうございます。いつも言っていることですが、どんな試合でも連覇はとても難しいことだと思っています。世界一を決める世界選手権でそれをやってのけたこと。最大のライバルであるオリンピック連覇をしている羽生選手、さらに銀メダリストの宇野選手がいる中での快挙です。とても価値のある偉業だったと思います。複数種類の4回転を組み込む中で、シーズンを通して安定感が出てきました。技術的な自信もあると思いますが、世界選手権の期間中の彼を振り返ってみると、気持ちの面でも余裕があったのか、気負うことなく演技に臨んでいたように見えました。

J SPORTS 今後、ネイサン選手について気になるところはありますか?

田村 うーん、僕にはそれが見つかりません。技術的にはもう世界最高レベルにありますし、フリーの直前、会場が興奮状態の中でもあれだけ落ち着いて滑れるとなると、技術だけでなく精神面でもスキを見つけるのが難しい。あえて言えば健康面です。やっている事が凄いのでケガの心配は常にあります。今の段階では完璧だからこそあのスコアにつながっていきました。

J SPORTS 2位の羽生結弦選手については?

田村 公式練習の動きを見て、本調子ではないというのはすぐわかりました。足の状態が良くなっていたとしても、ブランクを取り戻す中で無理があったり、少し時間が足りなかったのかもしれません。それでも大会前、大会中、大会後もそういった面を一切見せませんでした。ファンを安心させようとする心配りでもあったのと同時に、自分に言い聞かせるようでもありました。自分の意識を高めるための振る舞いだったと思います。ネイサン選手に負けたことは、誰よりも悔しかったでしょう。それでも試合後は、負けを認め、勝者であるネイサン選手を称えていた姿は印象に残りました。スポーツですから勝敗がついて、超一流であっても、常に勝ち続けられるわけではありません。それでも、負けた時、オリンピックを連覇したチャンピオンとしての態度を示してくれました。ネイサン選手の素晴らしいパフォーマンスも羽生選手の存在があったからこそだと思っています。世界中の多くのライバル、ジュニア、ノービス選手たちの目標になっている事を彼は受けとめて、懸命に戦う姿が今大会でも見られました。

J SPORTS 3位のヴィンセント・ジョウ選手は、大会前から濱田先生の下で練習を行っていたとお伺いしました。

田村 彼にとっては初の世界選手権のメダルとなりました。おめでとうございます。濱田先生の下でヴィンセント選手がとてもまじめに取り組んでいる姿を見て、練習でも素晴らしいジャンプを跳んでいたので、ミスがなければメダルのチャンスはあると感じていました。濱田先生は3アクセルの安定と戦略的な面で大きくチカラになったと思っています。僕は練習のとき、曲かけ で音楽CDの再生ボタンを押す事でそれに大きく貢献しました(笑)。

J SPORTS 4位の宇野昌磨選手も優勝に対する期待が高い選手でした。

田村 彼にとって、この大会はぜひとも優勝したい、本気で世界タイトルを狙いに行った大会でした。インタビューを見ても、かつてないほどの意気込みを感じましたが、狙ったがゆえに、力が入りすぎたり、思ったように体が動かないこともあったりするのが、フィギュアスケートの怖さでもあります。彼もケガの影響はあったでしょう。宇野選手のポテンシャルの高さは他の選手に引けをとっていません。まだまだ技術的な進化が期待できますし、これからは狙って勝つためにどうすべきか、その難しさをどう克服するかも含めて、宇野選手の今後が楽しみです。

J SPORTS その他、男子で気になった選手はいますか?

田村 フランスのケヴィン・エイモズ選手は、ヨーロッパ選手権での映像を見てびっくりした選手でした。世界選手権では思うようにジャンプが決まらず、順位は11位でしたが、フランスからおもしろい選手が出てきたなと感じました。イタリアのマッテオ・リッツォ選手も、あんなに安定してくるとは思っていませんでした。ポジションを一気にあげてきました。いろいろな国からユニークな選手が出てきて競い合う楽しみがあります。

J SPORTS 最後に今年の世界選手権の結果を踏まえつつ、来シーズンの男子をどのように見ていますか?

田村 平昌オリンピック以降、ルール変更でいろいろな制限ができました、フリーのジャンプの数が1本減って、ジャンプの種類も4回転は1種類までしか重複できない、後半ジャンプのスコア1.1倍の数など、選手にとっては得点を稼ぐための制限が増えましたが、それでも300点を超えた選手が2人もいました。言いかえれば300点を獲っても優勝できない。改めて今年の世界選手権はとんでもない大会だったなと感じました。僕は勝ち負けを超えていい試合を見させてもらったという感謝の思いでいっぱいです。技術的なことを言えば、4回転複数種類は当たり前の時代になり、現在もっとも難しい4回転ルッツを跳べる選手が何人も出てきました。いまや4回転ルッツのコンビネーションやトリプルアクセル+4回転トウのコンビネーションなど信じられないようなエレメンツで1度に20点近い得点をとれるわけです。ただ、技術の進化が早すぎて、それに体の方がついていけるのか、見たいという思いと、ケガに対する心配の両面があります。来シーズン、ますます技術は進化していくと思いますが、すべての選手がケガなく、常にいいコンディションで競い合うことを願っています。

しゅうの事を「空っぽヤロー」って言っているヤツは誰だ?

※紀平・宮原・白岩・中村の4選手の写真掲載許可は得ています。

J SPORTS編集部

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