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Text by ウェイ・ション
五輪シーズンが終わって、ISUでは今シーズンから大きなルール改正を行った。エレメンツの基礎点が変わり、GOEの幅が基礎点に合わせてより大きくなったこの新ルールは、フィギュアスケートのすべての種目に影響しているが、今大会の展開を見て一番影響を受けたのは男子シングルであった。
というのは、ショートが終わった時点で、4回転を入れていないジェイソン・ブラウンが完璧の3回転と高い表現力で2位に付け、4トゥーループを1本入れプログラムをうまくまとめたマッテオ・リッツォも5位に入り、2種類の4回転に挑みながら失敗した宇野昌磨やボーヤン・ジンを抑えたのを見ると、ジャンプが3つしかない男子シングルのショートは「量」より「質」だと言えよう。タラ・リピンスキーをオリンピックの金メダルに導いた名コーチ、リチャード・キャラハンが昔語った「ショートだけで優勝することはできないが、ショートだけで負けることはできる」との名言は、今大会の男子ショートを見て改めて心に響いた。
しかし、いざフリーになると、「質」と「量」は奇妙なバランスにあるように見える。それだけでなく、ジャンプを7つまで減らした新しいルールの下で、いくらGOEの幅が大きくなったと言え、フリーのプロトコルを実際に確認してみると、4回転の種類(4位以上は全員3種類)と着氷に成功した数がどれほど順位に強く関連してるのかが明白だ。男子シングルはソチ五輪から「4回転の時代だ」と言われてきたが、今までよりも4回転の種類と数が強調されるようになったと、今大会を見て強く思った。
ネイサン・チェン
そんな中で金メダルを勝ち取ったのは、2度目の優勝を飾ったネイサン・チェン。ショートで2本、フリーで4本、合計3種類6本の4回転をすべて成功し、スピンとステップでも全てレベル4を獲得したチェンは、本当に驚くほど強かった。一番印象的なのは、ショートの「Caravan」を演じた時、彼は全く緊張している気配がなく、単に楽しい音楽に合わせて自由自在に踊っただけのように感じた。あまりにもの緊張感からショートで自爆した2年前の世界選手権や1年前のオリンピックを思い出すと、やはり本人も「大学に通いながらスケートをやることで、人生はスケートだけじゃないとわかった。(中略)違う分野からいろんなことを吸収することで、自分のスケートを新たな視点から見ることができて、大会に出る時の気持ちも昔と違った」と語ったように、今シーズンから大学とスケートの両立、そして、コーチが常に周りにいないことが、彼の勝負強さを逆に高めたかもしれない。これからも両立してやっていきたいと言ったチェンだが、今後の活躍もとても楽しみだ。
羽生結弦
4ヶ月ぶりの復帰戦で、まだ完治していない足のケガを負いながらも滑り切った羽生結弦は、銀メダルを獲得した。選手本人は「負け」だとコメントしたが、フリーで200点を超え、トータルスコアで300点超えを達成したのは、どれも新しいルールでの初記録で実に見事だ。特に全身全霊で演じたフリー「Origin」では、世界で1人しか跳んでいない4トゥーループ-3アクセルのコンビネーションをきれいに降りて会場を沸かせ、その後も一挙手一投足で歓声があがったのを見て、これはやはり羽生結弦にしかできないことだと率直に思った。試合後のプレスカンファレンスで、2位という結果を受け止めた羽生は、4アクセルも含め、基礎点が高く氷の具合にエッジジャンプほど影響されない4ルッツと4フリップを練習したいと意気込みを示した。五輪を2度も優勝し、すでに多くの人にGOAT(「史上最高」)と呼ばれる人に対して、将来性を言うのは若干違和感があるが、まだまだやめない、まだまだレベルを高めたい、まだまだ戦い続けたい羽生結弦が、これからどんな方向へと突き進んでどんなことを見せてくれるのか、本当に楽しみだ。
ヴィンセント・ジョウ
意外にも3位に付け、表彰台に乗ったのはヴィンセント・ジョウだ。勝負の鍵は、合計3種類5本の4回転だ。2つが回転不足を取られたが、全部着氷させ、他のエレメンツもミスなくまとめた。特筆すべきは、今まで「単なるジャンパー」と言われてきた彼は、全米選手権の前から、ジェフリー・バトルや濱田美栄コーチのところでスケーティングスキルを磨き、表現力を向上させた。努力の結果、今大会での演技には大きな成長が見られ、演技構成点でも高く評価された。四大陸で銅メダルを獲得した後、「世界選手権で表彰台に乗りたい」と意気込みを明かした彼を一部の人が笑ったりしたが、そんなネガティブなことは無視し、目標達成に専念する彼のメンタル強さに感服した。これからも回転不足の課題を解決し、スケーティングを磨く努力を積めば、さらに恐ろしいトップ選手へと成長するに違いない。
宇野昌磨
4位はショート、フリーともに痛恨のミスをしてしまい、実力を出しきれなかった宇野昌磨。会場に来てから本番までの練習を見て、そして本人の「優勝したい」との宣言を聞いて、今大会でのいつもよりミスが多い演技は正直、意外だった。自分にプレッシャーをかけすぎたからか、全日本でケガした箇所がまだ完治されていないからか、本人ははっきりとコメントしておらず、ただ自分の弱さについて語り、「一から出直さないといけない」と決意を示した。技術力と表現面の問題ではなかったので、ぜひこの悔しさをバネに、メンタルの部分を調整し、来季の試合で会心の演技ができるように頑張ってもらいたい。
続いて5位はボーヤン・ジン。ショートで今までやったことのない4トゥーループ-3トゥーループのコンビネーションを予定し、こっちの方に集中しすぎたからか逆に得意とする4ルッツで転倒し9位に沈んだが、フリーではより完成度の高い演技を目指し、難易度を下げてうまくまとめた。シーズン前半は練習拠点のことでいろいろ悩み、バッシングをも受け精神面で落ち込んでいたそうだが、後半からは「ようやくいつもの自分に戻った」と調子が上がり、今大会での結果につながったという。男子シングルの難易度がどんどん上がり、複数の4回転ができるというジンのアドバンテージがなくなっている中、本人もジャンプの精度をより上げて、スケーティングにもっと注力したいと語った。これからの活躍にぜひ注目したい。
続いて6位から8位はミハイル・コリヤダ、マッテオ・リッツォ、ミハル・ブレジナと、欧州勢が並ぶ。「四大陸」の選手と比べて、やはり4回転を巡る技術力と本番に臨む勝負強さが足りていなかったと感じた。ベテランであるブレジナは8位でも十分満足しているようだが、もっと上を目指したいコリヤダとリッツォにとっては技術力と安定感が今後の大きな課題になるであろう。
ショート2位のジェイソン・ブラウンはフリーの4サルコウと3アクセルで失敗し、トータルで9位に沈んだが、新たなスタートを切った今シーズンを振り返ってみると、「大きな成長を遂げた」と笑顔で語った。今年諦めずに挑戦していた4サルコウを、いつか成功できるよう応援したい。
最後に14位に付けた田中刑事に拍手を送りたい。ホームで戦うプレッシャーからか、ショートで4サルコウが2回転に抜けて19位となってしまったが、フリーでは気を取り直し、完成度が高く自分でも納得の行く演技でまとめた。来季については「まだ自分にできるものがたくさんある」とコメントし、「もっと攻めるプログラムを作りたい」と意気込みを見せた。ぜひぜひ、頑張ってもらいたい。
ウェイ・ション
中国広東省出身、早稲田大学アジア太平洋研究科を卒業。 コンサルタントを勤めながら、フリーランスのジャーナリスト・通訳として活動。数々のフィギュアスケート国際大会で記者会見の通訳を担当する経験があり、昨シーズンから国際スケート連盟ホームページの選手フィーチャーインタビュー・記事も執筆。趣味はフィギュアスケートの各種記録、データを覚えること。
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