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Text by ウェイ・ション
スケートファンは待っていた。男子シングルの「頂上対決」を。五輪シーズンが終わり、ルールが大きく変更されてから、男子シングルの大会でこんなにもトップ選手の顔が揃うのは初めてだ。新しいルールの下でも勝利の鍵はやはり「4回転」だが、エントリーした選手たちの演技構成予定表を見ると、ショートプログラムに2度、フリープログラムに3~4度の4回転を入れるのはほぼ定則になっており、出来栄え点(GOE)の幅が大きくなった現在のルールを考えると、最後の決め手となるのはおそらく4回転の「質」と、ジャンプとパフォーマンスの一体感であろう。
三つ巴の戦い
何が起こるのかが全く予想できない男子シングル競技だが、エントリーした選手の構成予定、これまでの実績、及びシーズンベストを考えると、金メダルを巡る争いは五輪王者羽生結弦、四大陸王者宇野昌磨、そしてディフェンディングチャンピオンのネイサン・チェン、この三人の間に展開されるであろう。
羽生結弦選手
ケガでグランプリファイナルを辞退してから、 羽生結弦はすでに4ヶ月間試合に出場していなかった。それでも、彼が持っているショートプログラムとトータルスコアの世界記録は、この4ヶ月間の公式大会で塗り替えられたことがない。それほどの高得点だった。今大会に臨んで、ケガをした足首の回復具合が懸念されていたが、本人は「大丈夫」と発言しており安心できるようだ。グランプリシリーズで見せたような実力を出せれば、今シーズンだけで2回も超高得点を叩き出したショートプログラムで絶対的な優勢を占められそうだ。フリープログラムは4トゥーループ-3アクセルの連続ジャンプを含め4つの4回転を入れる予定で、自信を示している。シーズン前半の大会で、プログラムについて「まだ完成形じゃない」と語った五輪王者は、果たしてどんな演技を見せてくれるのか、本当に楽しみだ。
宇野昌磨選手
先月、ISU選手権大会でようやく念願の金メダルを手に入れた 宇野昌磨も、一時期ケガで大会を欠場したことがあり足の具合が懸念されていたが、今大会初日の公式練習では「優勝したい」と、自信と意気込みを見せた。練習では封印していた4サルコウをも含め、4回転を問題なく着氷しているので、実力を出し切れば自身が持つフリープログラムの世界最高得点を更新する可能性もある。問題は、今シーズンのグランプリシリーズでなかなか完璧に決められなかったショートプログラムだ。今のところ4回転を1つしか予定していないが、保守的な路線を取ってできる最高の演技をするか、ライバルと差が開かないよう、2つに変えて攻めていくか、観るものをワクワクさせる。
ネイサン・チェン選手
今年の全米大会で圧巻の演技を2つ揃え、非公式ながらも驚異の342点を叩き出したネイサン・チェンは、学業のため自国開催の四大陸選手権に出なかったが、公式練習での様子を見ると好調子を保っているようだ。今大会では合計3種類6本の4回転をプログラムに入れる予定で、全米で見せたような演技がもう一度できれば、得点のポテンシャルは計り知れない。また、スケートだけに専念するではなく、名門大学で気を緩めることなく日々勉強に励んでいる経験が、却って彼のスケート、特に試合に臨む心境と表現面でどんな影響をもたらしているのか見てみたい。
表彰台を目指す強豪たち
ボーヤン・ジン選手
何が起こるのかが全く予想できない男子シングルの競技だから、上記3選手以外、もちろん他の好手も十分表彰台を狙える。 シーズン前半の試合でなかなか実力を出せなかった中国のボーヤン・ジンは、ようやく先月の四大陸選手権で納得のいく演技ができた。過去に世界選手権の表彰台に2回乗った彼は、今年も全力を尽くして自身3個目のメダルと、去年の悔しさを晴らして中国の2枠奪還を狙っている。
四大陸選手権でともに自己ベストを更新したヴィンセント・ジョウとキーガン・メッシングもなかなかの実力を持っている。ネイサン・チェンと同じく6本の4回転を入れる予定のジョウは回転不足の課題をどれだけ解決できているのか、そして安定感に課題が残るメッシングは会心の演技ができるのか、実に楽しみだ。
一方、今シーズン安定した演技を見せ続け、確実に実績を積み重ねてきたジュンファン・チャは、初出場となる世界選手権でどこまで攻められるのか。トレーニングメイトであるジェイソン・ブラウンは頑張ってきた4サルコウを成功させるのか、どんな美しい滑りを見せてくれるのか。考えるだけでワクワクしてきた。
ミハイル・コリヤダ選手
もちろん、ヨーロッパ勢のことも忘れてはならない。欧州選手権で一気にブレイクスルーして存在感を示したアレクサンドル・サマリンは、初出場のプレッシャーに負けずトップ選手としてのステータスを確立できるか。欧州選手権で悔しい思いをしたミハイル・コリヤダは、昨年大会メダリストらしい好演技を届けられるか。それも楽しみだ。
田中刑事選手
パーソナルベストが10点ほどしか差がない上記の強豪たちによって、ジャンプひとつで順位が大きく変わるほどのとてつもない激戦が展開される予感がする。 日本代表の田中刑事にも声援を送りたい。過去の世界選手権ではなかなか納得のいく演技ができなかったが、今年こそホームの観客の前で会心の演技ができるよう応援したい。
ウェイ・ション
中国広東省出身、早稲田大学アジア太平洋研究科を卒業。 コンサルタントを勤めながら、フリーランスのジャーナリスト・通訳として活動。数々のフィギュアスケート国際大会で記者会見の通訳を担当する経験があり、昨シーズンから国際スケート連盟ホームページの選手フィーチャーインタビュー・記事も執筆。趣味はフィギュアスケートの各種記録、データを覚えること。
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