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Text by 中村康一(Image Works)
見応えのある大会だった。優勝した佐藤駿、惜しくも優勝を逃した鍵山優真、どちらが勝ってもおかしくない名勝負となった。そして中学1年生にして4回転ジャンプを降りた三浦佳生など、将来の日本男子を背負って立つ逸材たちもそのポテンシャルを大いに発揮してくれた。
1位 佐藤駿
ショートプログラムでは3アクセルで着氷をミスしたのだが、その他は完璧な演技で68.62をマーク。驚いたのはアクセルのミスがオーバーターン、回り過ぎだったことだ。この点について聞いてみると「力を入れ過ぎて跳んでしまいました」。普段の練習でも、目一杯の力ではなく、軽く跳んで3アクセルを回れるようになっているのだという。ますます将来が楽しみになるコメントだ。全日本ジュニアでは圧巻のフリー演技を披露したのだが、「明日は全日本ジュニアと同じぐらいの演技をしたい」と意欲的に語ってくれた。
そして迎えたフリー、最初の4回転は失敗してしまったが、「自分の満足の行く演技ができました。6分間から集中してできたことが良かったです」と、笑顔を見せた。目標としていた全日本ジュニアの点数には届かなかったが、それでも140点台が出せたことを喜んでいた。
今季、し烈な戦いを続けてきたライバル、鍵山選手については、 「シーズン通して、勝ったり負けたりだったので、全中では勝てて嬉しいです。かなり刺激になっている存在です。優真みたいにもっと演技が上手くなりたい。(鍵山選手の)点数が出た時、ちょっとやばいんじゃないかと思ったんですが、勝てて良かったです」。
この両名、スコアだけ見ると僅差の勝負を繰り広げているのだが、その内容は大きく違う。4回転ジャンプを2本入れ、ベースバリューを上げる戦略の佐藤駿。一方の鍵山優真は4回転はないものの、加点とPCSで高得点をマークする選手だ。 「鍵山選手は同じジャンプでも僕より全然上手いです。加点も違いますし、見習いたいなと思います」。 来季以降もライバル関係は続く。切磋琢磨する二人の戦いを見守りたいものだ。
2位 鍵山優真
ショートプログラムでは冒頭の3アクセルがパンク。手痛いミスを引きずってしまい、その後の滑りが良くなかったと反省していた。それでも後半は立て直し、66.27と2位でフリーを迎えることになった。アクセルのミスについては「踏み切りの前に余計な力を入れ過ぎてしまい、踏み切るときに貯めた力が抜けてしまった」と解説してくれた。実は国体後に長野に到着してから、練習でもずっとアクセルの調子が悪かったのだという。その不安が試合に出てしまった、と悔やんでいた。フリーでは3アクセルを2回入れる予定だという。アクセルの修正が勝負のカギを握ることになりそうだ。
そして迎えたフリー、圧巻の演技で佐藤選手を猛追。惜しくも僅差で優勝を逃したのだが、素晴らしい演技に観客もスタンディングオベーションで応えた。 「昨日のショートがあまり良くなかったんですが、気持ちを切り替えてフリーに臨むことができました。最後の全中ということもあって、悔いが残らないように頑張りました。楽しかったという思いもあったんですけど、優勝できなくて悔しいという思いの方が強いです」。
6分間練習ではアクセルが跳べなかった。不安の残る直前練習だったのだが、本番では見事なトリプルアクセルを着氷。 「6分間練習後、すぐに全日本での自分の動画を観て、こうすれば跳べる、とイメージを作りました」。 こうしてわずかな時間に立て直した冷静さは見事としか言いようがない。4回転ジャンプのない構成ながら、フリーでは佐藤選手を上回るスコア、148.11をマークした。3アクセルを含むジャンプでの加点、及びPCSのスコアで高く評価された結果だ。
「スケーティング、表現力は一番練習してきた部分なので、そこが自分の強みだと思います。ただ本番での強さはあまりないので、もっとジャンプの練習をしていきたい。4回転も入れたいんですけど、それを入れると他が崩れてくる可能性があるので、確率を上げて完璧に跳べるようにしたい」。 と冷静に自己分析していた。4回転ジャンプについては、 「練習では結構降りたりしてるんですよ。でも曲に入れるとなると、まだ体力的な問題があって入れられないかな」。 と、試合で披露するのはもう少し先になりそうとのこと。
ところで鍵山選手の父、鍵山正和氏は典型的なジャンパータイプの選手だった。ジャンプに関してはまだ鍵山正和氏の現役時代に及ばないと思うが、スケーティング、表現についてはかなり近づいているのでは?と聞いてみたところ、 「映像で観ても父には全然負けてます」。 と、まだまだ遠く及ばないと話してくれた。そして他の昔の選手の動画も観て参考にしているそうで、 「昔のシニアの選手はとても体を大きく使えていて、シンプルな動きでも綺麗に見えるところが凄いと思います」。 と、学ぶべき点を多く見つけているようだ。彼の演技の質の高さの理由が垣間見えたように思う。
3位 三浦佳生
ショートプログラムはジャンプのミスが響いた演技となってしまった。転倒はなかったのだが、ステップアウトなど着氷で減点されたジャンプが多かったのが残念だ。ただ話を聞くと、1週間前の練習中、リンクのフェンスに頭部を強打し、8針縫う怪我を負ったのだという。そのためあまり練習できずに試合に臨んだようで、その割には良くできた、との感想を語ってくれた。十分な練習ができていないため、フリーでは4回転は1種類、トウループのみにする予定とのこと。万全の状態ではないのだが、精一杯の演技を期待したい。
そして迎えたフリーで、彼は4回転ジャンプを降りることができた。中学1年生での成功は快挙だ。 「細かなミスが出てしまったんですが、4回転を降りられて、PCSもいつもよりも出ていて良かったです。緊張はしたんですが、自分なりに堂々と演技できたかなと思います。来年こそいい演技をしたいと思います。来年は自分が引っ張っていきたい」。
今シーズン序盤から4回転に挑戦してきたが、スタミナなどの問題からなかなか結果につながらなかったが、ジムに通って体力作りの努力をしてきたことがこの試合に結実した形だ。ただ、臨戦過程としては全く順調さを欠いていた。1週間前の怪我だけではなく、フリー当日の朝の公式練習では靴の足首に巻くビニールテープを忘れ、公式練習で一切ジャンプを跳ぶことができなかった。ジャンプを跳ばない彼の練習を見ていて故障かと心配したのだが、全く予想外の理由だった。 「焦りましたね。毎試合、笑いを提供してます」。 と屈託なく笑うが、来季こそは完璧な準備をして試合に臨んでもらいたいものだ。
4位 吉岡希
ショートプログラムでは自己ベストをマーク。初めての60点台を出せたことを喜んでいた。昨年12月から林コーチのチームに移り、田中刑事、山隈太一朗らとともに練習しているという。それ以来練習時間が増え、特に以前はあまり練習していなかったスピンを熱心に練習するようになったのだそうだ。移籍してからまだ日は浅いのだが、「アクセルが安定してきました」と早速その効果を実感しているようだ。
迎えたフリー、「ミスも多かったので、悔いの残る演技でした」と反省していたが、4回転トウループの失敗の後もスタミナが切れることなく、立て直して3アクセルを成功させたことは見事だった。「今のチームに移ってから曲かけ練習が多く、普段の練習からスタミナを鍛えられてます」と話してくれた。来季の目標は4回転トウループを安定させることだという。試合での成功を楽しみに待ちたい。
5位 中村俊介
ショートプログラムでは今季取り組んできた3ルッツ+3トウループを、着氷が乱れながらも成功させ、出来栄えにはほぼ満足した演技だったようだ。「昨日、久し振りに降りられて、手応えがあったので挑戦しました」とのこと。夏以来調子の悪かったこのコンビネーションジャンプだが、全中直前に調子が戻り、試合で成功させられたことを喜んでいた。57点というスコアについては、「もう少し出てほしかった」と率直な感情を吐露していたが、明日のフリーで更に点数を伸ばすことを誓っていた。「総合で170点欲しい。4位を目指しています」とのこと。新プログラム、“火の鳥”も素敵だった。町田樹さんの演技を参考にしているのだそうだ。 フリー演技を終えた時には「ノーミスだ、やった!」と思ったそうだが、その後、コーチから「ダブルトウループ何回跳んだ?」と言われて、ダブルトウループを3回跳ぶミスを犯していたことに気づいたのだそうだ。現在のルールでは余分に跳んだジャンプのみがキックアウトされるので、さほど大きな減点になっているわけではないのだが、今後に向けての反省材料となった。今回、初めて参加した全国中学校大会で、他の選手から得た刺激は大きかったようだ。 「今は中学1年生でも3アクセル、4回転を跳んでいるので、自分も挑戦していきたい」。 そしてこう続けた。 「同学年に強敵がいるので頑張りたい。めちゃくちゃ気になります(笑)」。 そう、三浦佳生選手のことだ。同学年で既に4回転ジャンプを降りるライバルを強烈に意識していた。今回の1位、2位はともに3年生。彼らが全中を卒業した後は、中村選手と三浦選手がこの世代を引っ張っていくことになる。 「来季はまずジャンプの種類を増やしたい。点数も上げていきたい」。 来季からジュニアに上がるため、当然ジュニアグランプリも目標になると思うのだが、 「3アクセルが跳べないと選考会に呼ばれないのと思うので、頑張っていきたい」。 と謙虚なコメントを聞かせてくれた。課題の3アクセル、今はまだ練習でも跳べていないというが、来季は試合で是非披露してもらいたい。6位 片伊勢武
ショートプログラムは残念な結果に終わった。3ルッツからのコンビネーションジャンプで転倒。スコアは55.31に留まったが、「今日のミスも、神様から『ショートを失敗してフリーでどこまでできるか?』と試されているのだと思って、明日は頑張ります」と、独特の表現で明日への意欲を語ってくれた。緊張が試合に影響を及ぼすことの多い選手なのだが、今回は特に、リンクの氷が硬いことが気になっていて、そのことに対する不安が試合に出てしまった面もあるようだ。
フリーでは良く巻き返した印象だったのだが、自己評価は厳しいものだった。
「悔しい気持ちで一杯です。今は現実を理解してないというか、頭が真っ白です。全中は最後なので、表彰台を狙ってやっていたし、そこに全然届かなかったのが悔しい」。 演技序盤でのフリップのミスを、後半でリカバーしようと意識して滑っていたのだが、そのために焦ってしまった面があったようだ。 「今日は最後の全中なので、伸び伸びと楽しもう、という思いで滑りました。ただやっぱり緊張してしまいました」。この春から、彼は高校生になる。 「来年からはトリプルアクセルがないと勝つことはできないし、今後の一番の課題として取り組んでいきたい」。 と意欲を見せてくれた。練習でのクオリティはとても高い選手だ。努力が試合の結果に結びつくことを期待したい。
7位 佐々木晴也
ショートプログラムの演技後、フリーでは3アクセルに挑戦すると話してくれた。フリーでの3アクセルは練習で成功したどころか、「まだ曲かけで入れたこともない」状態だというが、昨年の全中には怪我のために出られなかったこともあり、最後の全中でチャレンジをしたいのだそうだ。「2年前、1年生の時は良い演技ができたので、それから2年が経って成長した姿を見せたい」と力強く語ってくれた。
そして迎えたフリー当日、朝の公式練習では3アクセルを1本成功させることができたのだが、本番では回避の決断をしたのだ。この理由について尋ねられると、 「いつも愛用の靴下を忘れてしまいまして、テンションが落ちてしまい、先生とも相談して、トリプルアクセルを回避することを決めました」。 と、まさかの靴下が理由だった。もっとも練習でクリーンに降りられたことには意を強くしたようで、「来季は3アクセルをショート、フリーで3本入れられるようにしたい」と語ってくれた。 ところでこの日の演技ではルッツにこだわり過ぎた印象があった。予定していたルッツを2本とも失敗、最後のジャンプ、サルコウからの3連続の予定をルッツに変更して何とか降りたが、これもGOEでマイナスとなるジャンプだった。「最後の全中なので思い切りやりたかった」という理由でルッツにこだわったのだそうだが、少し冷静さを欠いた印象だった。もっとも彼は自己分析の得意な選手であり、今回の失敗も今後に生かしてくれることだろう。
中村康一(Image Works)
フィギュアスケートを中心に活躍するスポーツフォトグラファー。日本全国の大会を飛び回り、選手の最高の瞬間を撮影するために、日夜シャッターを押し続ける。Image Works代表。
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