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ソチからの4年間、男子シングルは大きく変わった。4年前、ショートに1本、フリーに2本の四回転ジャンプを降りれば、上位を狙えた。4年後、若手選手が次々と台頭し、より難易度が高い複数の4回転ジャンプを武器に、円熟なスケーティングと演技力を持つベテランたちと激しい戦いを繰り広げた。
その中で、4年間かけて変わらなかったのは、王者はやはりあの人だ。
1位 羽生結弦
317.85(SP:111.68/1位、FS:206.17/2位)羽生結弦選手
フィギュアスケートの世界では数多くの優秀なスケーターがいる。その上には偉大なスケーターがいる。さらに上には、「リビングレジェンド」と呼ばれる生きる伝説がいる。羽生結弦はそこに属する。今大会を見て、率直にそう思った。
世界が疑問を抱いていた。「11月に負傷してからずっと試合に出ていない羽生結弦が果たして五輪に間に合うか。出場できても実力を発揮できるのか。」
2月16日に行われたショートプログラムで、羽生は完璧な演技と歴代2位の高得点で、「五輪王者が帰ってきた!」とその疑問に答えた。それでも、体力がより求められるフリープログラムを滑りきれるか。世界が息を凝らして、決勝のフリーに目を向けた。
言わずと知れた名プログラム「SEIMEI」。ロシア杯の時と比べて難易度は下がったが、それでも4サルコウ2本、4トーループ2本、それに複雑なつなぎが入ってる挑戦的な構成だ。冒頭の2本の4回転で満点のGOEが付けられるほど完璧だった。抑揚のあるステップシークエンスで魅せ、演技後半の4サルコウのコンビネーションジャンプもきれいに降りた。しかし、練習不足による体力の影響からか、その後の4回転トーループでステップアウトして単独になってしまい、最後の3ルッツの着氷も乱れた。
それでも、他のエレメンツで高いGOEを稼ぎ、演技構成点も高く評価された羽生にとって、勝つには十分だった。フリーの順位は2位だったが、総合得点317.85で1位に立ち、男子シングルで66年ぶりとなる五輪連覇を成し遂げた。
優勝の結果がアナウンスされ、グリーンルームで待っていた羽生は歓喜の涙をこぼした。試合後の記者会見でも、2度の五輪王者が感情を抑えきれず、「今日はスケート人生で最高の日だ。涙は心の中からだ。今の気持ちを一言でいうと、本当に幸せです」と語り、感極まった。
「ソチオリンピックの時とは違って、非常にたくさんの思いを込めてこの金メダルを取りに行きました。そして最終的に自分が思い描いていた結果になり、自分が思い描いていたメダルをかけていることが本当に幸せです」と振り返った羽生。4年間様々な壁を乗り越え、男子シングルのレベルを引き上げつつ、再び最高峰に登った彼は、もはやスケート界のGOAT、「Greatest of All Time(史上最高)」の領域に入ったであろう。
2位 宇野昌磨
306.90(SP:104.17/3位、FS:202.73/3位)宇野昌磨選手
「オリンピックには魔物が棲んでいる」とよく言うが、五輪初出場の宇野昌磨には、この魔物がまったく見えなかった。
ショートプログラムの氷に乗った瞬間から、宇野は非常にリッラクスしてるように見えた。「四季」の管弦楽に合わせ、なめらかな滑りを魅せながら、大技4フリップを含めてノーミスの演技を出し切り、3位に付けた。
フリーは名曲「トゥーランドット」。冒頭の4ループで転倒したが、すぐ気を取り直し、4フリップをきれいに降りた。その後のジャンプで若干乱れが出て、レベルの取りこぼしもあったが、全体的に完成度が高い演技でまとめた。高い技術点と演技構成点を叩き出した結果、フリーでも3位に付け、総合得点で1.56の差でフェルナンデスを上回り、初出場ながらも銀メダルを獲得した。
試合後、宇野は「最後まで満足いくようにできた。(最初のジャンプで失敗しても)焦らず次のジャンプを跳ぶことができた」と演技を振り返って、「きょうの演技に悔しさはまったくない。練習してきたことを出せた、うれしい銀メダルだ。五輪について特別な思いは何もなく、ただただ一つの試合です」とコメントした。やはりこのような平常心が五輪銀メダルの鍵となったのであろう。
また、「今回の大会を自信にしながらも、結果に関しては深く考えず、今後の在り方をじっくりと考えていきます。」と未来へ視線を向けた宇野。次の大会となる世界選手権に参加する意向を示した彼には、ぜひ五輪銀メダルを取った経験をいかし、さらなる活躍をみせてほしい。
3位 ハビエル・フェルナンデス
305.24(SP:107.58/2位、FS:197.66/4位)ハビエル・フェルナンデス選手
2度の世界王者、6度の欧州覇者たるハビエル・フェルナンデスが、五輪最後の舞台に立ち、渾身の演技を届けた。そして、ようやく念願の五輪メダルを手に入れた。
ショートの音楽はブレークスルーした12/13シーズンにも使っていたチャーリー・チャップリンの映画「モダン・タイムス」より。得意とするコミカルな曲調に合わせ、フェルナンデスはすべてのエレメンツをきれいに完成し、円熟の演技で魅せ、シーズンベストをマークした。
決勝のフリーの音楽はミュージカル「ラ・マンチャの男」より。スペインを代表するミュージカルだが、歌詞をよく聞くと、フェルナンデスの長年に渡るスケート人生の写しでもある。
「あなたの夢をずっと見ていた。あなたに会ったことも触れたこともないが、心の中からあなたのことを知っている。」4年前、演技中でルールに対する計算ミスによって、オリンピックのメダルにわずかに手が届かなかったフェルナンデス。それから4年間、悔しさをバネに、念願のメダルを目指し技術力と精神力をより一層高め、2度の世界王者へと成長した。キャリアの集大成となるこの演技に、4サルコウが抜けるミスがあったが、その他のエレメンツは全て高い質でクリアした。「そうしてやがては世の中も正されるだろう。男は嘲笑され傷を負っても、最後の勇気を振り絞り、届かぬ星を追い求め!」ドン・キホーテの歌声ではあったが、最後の試合ですべてを出し切るフェルナンデスの心境でもあったであろう。高い技術力と心を込めた演技を見せた結果、フェルナンデスは総合3位に付け、「届かぬ星」だったメダルをつかんだ。
試合後の記者会見で、フェルナンデスは「このメダルのために、このオリンピックの夢を叶えるために、何年もの時間と努力をかけた。やっと手に入れた。僕はやっと眠れる。やっと休める。やっと周りの人と祝えるんだ」とコメントし、休養の意向を表明した。
4位にはショートで自己ベストを更新し、フリーでも190点台の高得点を叩き出したボーヤン・ジン。表彰台には届かなかったが、中国男子シングルの五輪での歴代最高成績を塗り替えた。次の世界選手権では、ハン・ヤンがけがのため欠場するので、中国男子からは彼一人のみ。五輪でノーミスできなかった悔しさをバネに、ディフェンディング・メダリストとしてベストな演技を期待したい。
特筆すべきのは、5位のネイサン・チェン。ショートで五輪の魔物に乗っ取られ、不本意の演技となったが、フリーではすべてを出し切り、果敢に6本の4回転に挑んだ。しかも、一つに乱れがあった以外、全部着氷させた。この五輪の歴史に残る演技で、フリープログラムでは1位に立ち、127.64の技術点も歴代最高となった。とてつもない才能を持つ彼にとって、五輪での最終結果は惜しかったが、次の世界選手権では雑念を払い、このような演技を再現できれば、念願のメダル、ひいては金メダルも十分狙えるはずだ。
続いて6位にはアメリカの新星ヴィンセント・ジョウ、7位にはショートでサプライズの好演技をしたドミトリー・アリエフ。オリンピックという大舞台を経験し、しかも上位に入った二人の若手選手は、将来の大会でどんなパフォーマンスをしてくれるのか、そして今回の五輪で悔しい思いをした8位のミハイル・コリヤダは、次の大会となる世界選手権でどんな演技でリベンジするのか、本当に楽しみだ。
最後に、忘れてはならないのはパトリック・チャンだ。3度の世界王者たる彼は、今大会の個人戦で9位に終わったが、主力を務めた団体戦では見事に念願の金メダルを手に入れた。この結果を以て競技から引退したが、彼の右に出るものがいない美しいスケーティングと数々の名プログラムは、長年フィギュアスケートを見てきた人々の記憶に残るであろう。
ウェイ・ション
中国広東省出身、早稲田大学アジア太平洋研究科を卒業。 コンサルタントを勤めながら、フリーランスのジャーナリスト・通訳として活動。数々のフィギュアスケート国際大会で記者会見の通訳を担当する経験があり、昨シーズンから国際スケート連盟ホームページの選手フィーチャーインタビュー・記事も執筆。趣味はフィギュアスケートの各種記録、データを覚えること。
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