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試合の行方
『モスクワは涙を信じない』という1979年のロシア映画に「人生は40歳から始まる」という有名なフレーズがある。セルゲイ・ヴォロノフはここ数年、多くの関係者からピークを過ぎた選手として見られていたが、今シーズンは「人生は30歳から始まる」とインタビューで自らの人生を振り返りながら語るまでの復活劇を見せ、その活躍は驚きと称賛をもって迎えられた。グランプリシリーズではNHK杯優勝、アメリカ大会3位、ファイナル4位と好調をキープ、安定した4回転トウループを跳んでいる。
ヴォロノフと同じく、思慮深く賢明なインナ・ゴンチャレンココーチの指導を受けるマキシム・コフトゥンは、逆に背中の怪我に悩まされ苦境に喘いでいる。ここ数年、大きな期待を背負いながらなかなかそれに応えられない、彼の持つ複雑な人間性もまた魅力であるのは確かなのだが、そろそろ関係者やファンも痺れを切らしている状態、回復、また奮起を期待したい。
ミハイル・コリヤダは文句無く現在ロシア男子のリーダーだ。今季のグランプリシリーズでは中国大会優勝、ロシア大会3位、ファイナルでは銅メダルを獲得した。中国大会では非常に質の高い4回転ルッツも披露し、安定して好調を保っている。明るく陽気だがしっかりした性格の好青年で、ヴァレンティーナ・チェボタリョーワコーチとの信頼関係も厚く、堅実な練習振りで、さらなる活躍が期待される。
昨年2位のアレクサンドル・サマリンも4回転ルッツを跳ぶ。今シーズンは徴兵があり、その後靴の調整に苦労したが、決して諦めることのないその根性で乗り越え、グランプリシリーズではカナダ大会3位、フランス大会4位と持ち前の粘り強さを発揮している。 同じくグランプリシリーズに出場した実力者、ドミトリー・アリエフとアレクサンドル・ペトロフについては、コフトゥン同様に怪我の回復と復調を願いたい。
その他、アレクセイ・ミーシン門下の、昨年は4位と健闘した、スケートに美しいバレエの基礎を感じさせる、寡黙だが心優しい青年アンドレイ・ラズキン、良くも悪くも毎試合観客をハラハラさせてくれるアルトゥール・ドミトリエフの二人や、プルシェンコアカデミーの生徒ウラジーミル・サモイロフ他、グランプリファイナルに出場したマカール・イグナトフ、アレクセイ・エロホフ等のジュニア勢。個性という面ではロシア男子は女子よりもより見どころ満載なのかもしれない。
だが、やはり優勝候補はコリヤダとヴォロノフ。ヴォロノフは自身の言葉を映画の主人公のような成功をもって実現することが出来るか、コリヤダは、その名の由来であろうКолядование(カリャダバーニエ:クリスマスイブに子供達が家々を廻り、クリスマスの歌や賛美歌を歌ってお菓子やお小遣いをもらうロシアの伝統行事)を自身の勝利で祝うことが出来るかが最大のハイライトだ。
セルゲイ・ヴォルコフスキー
1967年ロシア生まれ。モスクワ大学日本語学科を卒業。
日本人と結婚し、ソ連崩壊を機に日本に移住。フリーランスの通訳・ジャーナリストとして活動。日本文化への関心が高じ、ロシア語で俳句を紹介するブログも執筆。ソチ五輪を始めとするフィギュアスケートの国際大会で、記者・通訳としても活躍している。
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