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フィギュア スケート コラム 2014年3月22日

「鉄の街」そして「スポーツの街」シェフィールド

フィギュアスケートレポート by 野口 美恵
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ロンドンから特急電車で約2時間半、約300㎞北方にある街、シェフィールド。人口約40万人でイギリス5番目の規模だ。映画「フルモンティ」や「マイ・スウィート・シェフィールド」の舞台となった街といえばイメージが湧く人もいるだろう。

シェフィールドは、「鉄の街」として知られる。近郊の鉱山から採掘された良質な鉄をもとに、鉄鋼業をはじめ刃物や銀製品の製造で栄えてきた。しかし産業革命後は鉄鋼業が衰退し、近年のシェフィールドは、スポーツの街へ生まれ変わろうと変換期を迎えている。工場だったレンガ作りの建物は、ホテルやオフィスなどに再利用され、かつての栄華の面影を残す。また1991年にユニバーシアードを誘致して以降、多くの近代的なアリーナが建設され、現在ではプロのサッカー、ラグビー、アイスホッケーなどが本拠地を構えるようになった。

またスケート関係者にとっては、シェフィールドは必ずといっていいほどお世話になっている街だ。ブレードのブランド「ジョン・ウィルソン」「ミシェル・キング(MK)」を製造しているHD社はシェフィールドに工場を構え、数々の名ブレードを生み出してきた。初級~中級のほぼ全選手が使う「コロネーション」に始まり、多くのトップ選手が愛用している「ゴールドシール」「レボリューション」「パターン99」「ゴールドスター」「ファントム」など、すべてがシェフィールド産。もちろん浅田真央、高橋大輔ら日本のトップ選手もこれらのモデルを使っている。価格は工場直売で250~300ポンド(3万円前後)で、輸入代理店を通した日本での価格の約3分の1だ。

このHD社は、今大会の会場内に臨時直売店をオープン。かつてビクトリア女王とアルバート王子に献上したという、スワンの首があしらわれた特製ブレードを店頭に展示している。試合のブレイクになると、多くの観客たちが展示された優雅なブレードを見に集まり、シェフィールドとフィギュアスケートの深く長い歴史を感じている様子だった。

会場となる「モーターポイント・アリーナ」は、イギリスのプロリーグであるエリート・アイスホッケー・リーグの「シェフィールド・スティーラーズ」の本拠地。試合の無い時はコンサートなどにも利用される大型アリーナで、室内の空調もしっかりしている。外気は0~5度。イギリス全体が暖冬のため、ロンドンよりは気温が低いものの、東京と同じくらいの肌寒さだ。例年なら雪が降る季節だが、たまに雨がパラつく程度。

観客の大半は、イギリスから。ファンスケート(趣味のスケーター)の裾野は広く、観客の応援も熱い。会場には、1980年レークプラシッド五輪王者でイギリスで最も有名なフィギュアスケート選手でもあるロビン・カズンズの姿も。

地元選手の出場はそれほど多くないが、ペアのスタシー・ケンプ&デイビッド・キング組の演技では、1つ1つのエレメンツの成功ごとに割れるような拍手が起こり、人気ぶりが感じられた。試合翌日には、テレビの朝の情報番組で特集が組まれるなど、イギリス全体がヨーロッパ選手権で盛り上がっているのが感じられた。

他国では、イギリスと最も近いフランスや、ドイツからの応援が多い。

観客はみな大きな国旗を振って選手にエールを送っていた。

野口 美恵

元毎日新聞記者。自身のフィギュアスケート経験を生かし、ルールや技術、選手心理に詳しい記事を執筆している。日本オリンピック委員会広報としてバンクーバーオリンピックに帯同。ソチ、平昌オリンピックを取材した。主な著書に『羽生結弦 王者のメソッド』『チームブライアン』シリーズ、『伊藤みどりトリプルアクセルの先へ』など。自身はアダルトスケーターとして樋口豊氏に師事。11年国際アダルト競技会ブロンズⅠ部門優勝、20年冬季マスターゲームズ・シルバー部門11位。

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