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期待の大きさは、女子日本代表戦史上最多観客数となって示された。
7月26日、17時5分のキックオフ。秩父宮ラグビー場でおこなわれた女子日本代表×女子スペイン代表には5244人のファンが集まった。
その1週間前、北九州での両チーム同士の第1テストマッチでサクラフィフティーンの愛称で呼ばれるチームは、32-19のスコアで勝った。
8月下旬から9月にかけて開催されるワールドカップに出場する同代表の、大会前の国内最終戦にかかる期待は大きかった。
夕暮れ前とはいえ、酷暑の中でのキックオフ。前戦では挙げた5トライすべてをFWで挙げたサクラフィフティーンが、この試合で世界に通用するパフォーマンスを見せてくれることをファンは期待した。
PR小牧日菜多がよく動いて2トライを挙げ、途中出場のHO谷口琴美がモールを巧みにコントロールして3トライを奪う内容に地力の高まりは感じられたけれど、チームが掲げる「日本らしいラグビー」の広がりを期待するファンも多かったはずだ。
香川メレ優愛ハヴィリ
結果的に30-19と、この日も勝利したのは赤白のジャージだった。
チームにモメンタムを与えるパフォーマンスを見せたのは11番、WTBで起用された香川メレ優愛ハヴィリだった。
父はトンガ出身。力強いランナーは、セブンズ代表でも活躍した実績もある。所属するナナイロプリズム福岡では、15人制をプレーする時にはNO8を務めていた。しかし、サクラフィフティーンではWTBでのプレーを求められた。
前に力強く出るボールキャリーが得意で好きだ。NO8のプレーが忘れられない自分がいたが、「そんな気持ちで(WTBを)やっていてもダメだ」と気づき、アウトサイドでのプレーを伸ばし、チームに求められる選手になる覚悟を決めて変わった。
この日のトライは、よく声を出し、内側の選手と連動して動いたから生まれたものだった。
最初のトライは前半13分。背番号11は、左のライン際でインサイドの選手たちがチャンスを作るのを見て声を出し、ボールを受けた。
ゴールポストのやや右寄りのスクラムから攻め、FWが鋭く、ゴール前へ迫ってスペイン防御を集める。そのあとに左にボールを動かし、最後はFB松田凜日がラストパスを放った。
ラグビー女子日本代表テストマッチ2025(7月26日)
【ハイライト動画】日本 vs. スペイン
26分の2つ目のトライは、相手ラインアウトでターンオーバーしたところから始まった。
サクラフィフティーンがフェーズを重ねること7。防御を揺さぶった後、ボールが背番号11へ渡る。その時は約22メートルを走り切った。
「FWが前に出られる力強さを得たので、アウトサイドにスペースがよくできるようになった」
スペイン代表との第1テストマッチ時から、選手たちはそう話した。その状況を全員で把握し、挙げたトライ。「同じ絵を見てプレーする」ことを実践した。
選手たちの口からは、「チームの得点力が上がった」との声も聞こえてくる。要因は一つではない。合宿を繰り返して鍛えられたFWの強化、細やかなコーチング、そして選手間のコミュニケーション能力が高まったからだ。
ロースコアでしか勝てなかった以前の姿はなくなった。
この日、スベイン代表は前半11、後半12と多くのペナルティを取られた。その結果、サクラフィフティ―ンは特に前半を敵陣で過ごす時間が長かった。しかし、奪ったのは2トライだけ。1週間前から防御を修正してきた。
この顔合わせは、W杯でのプールステージ第3戦でもおこなわれる。短期間の中での3試合目は、さらに相手が対応力を高めるだろう。国内テストマッチ2連勝も、油断禁物だ。
松村美咲
後半は両チームとも3トライずつを挙げた。
サクラフィフティーンのトライは、FL長田いろは主将がキックチャージから奪ったものと(後半6分。チャージ→直接キャッチからのトライ。必見!)、大きくボールを動かして外のスペースを攻略したもの(20分、WTB松村美咲)。後半30分には武器になってきたモールでのトライもあった。
しかし、トライの取られ方には課題が残った。
いずれも自陣深い地域、トライラインの近いところに攻め込まれた際、短い時間で5点を重ねられた。そのエリアに入り込まれない戦い方と、ダブルタックルの徹底が求められる。
肉体改造が進むサクラフィフティーンも、パワーの差は埋め切れていない。
この試合翌日にはW杯へ向かう32選手が発表された。「この仲間と戦う」と決まれば結束はさらに強くなる。8月24日のアイルランドとの大会初戦は、目指す「ノックアウトステージ進出(8強入り)」を実現させるために勝たねばならない一戦。そこで乾坤一擲の80分を実現するためにも、8月9日に敵地でおこなわれる、W杯前最終戦のイタリア代表との試合で不安を払拭するパフォーマンスを出してほしい。
史上最多観客数で示された女子ラグビーへの熱がさらに高まるかどうかは、世界の舞台で歴史を変えるかどうかにかかっている。
積み上げてきたものすべてを出し切って、ファンの数をさらに増やすことを期待したい。
文: 田村 一博
田村一博
前ラグビーマガジン編集長。鹿児島県立鹿児島中央高校→早稲田大学。早大GWラグビークラブでラグビーを始める。ポジションはHO。1989年、ベースボール・マガジン社に入社。ラグビーマガジン編集部に配属される。1993年から4年間の週刊ベースボール編集部勤務を経て、1997年からラグビーマガジン編集長に就く。2024年1月に退任し、現在は編集者、ライターとして活動。
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