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アレックス・ミッチェル
遠征先のオーストラリアでツアー3連勝を狙った英愛ドリームチーム「ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ」。
その指揮官、アイルランド代表のアンディ・ファレルHCは試合後、遠征3戦目の相手となったワラタスのディフェンスを賞賛した。
「彼ら(ワラタス)はラインスピードを駆使して、ブレイクダウンでハードにプレーしました」(ライオンズ、ファレルHC)
7月5日(土)にアリアンツ・スタジアム(シドニー)で開催された試合で、先にチャンスを掴んだのは地元のスーパーラグビー(SR)チーム、ワラタスだった。
現時点でライオンズにつけいる隙があるとしたら、その一つは練度不足によるハンドリングエラーだろう。一人ひとりは世界最高峰だが、追加合流もあるコンバインド・チームであり、複雑な展開プレーではミスが起きやすいと言える。
開始1分。そのハンドリングエラーがライオンズに起きた。こぼれ球を確保してビッグゲインしたのはワラタス。前戦のレッズ同様、下馬評を覆すような先制トライが生まれるのか――。
だがターンオーバーが起きた瞬間、必死の形相でアクセルを踏んでいたのが、バックスではライオンズのLOスコット・カミングスだった。
ワラタスの決定的なラストパスに対し、懸命に戻っていた198cmのスコットランド代表ロックがインターセプト。チャンスに沸いた地元ファンの大歓声を沈静化させた。
注目のファーストスクラムは直後の前半4分だ。
試合前から英愛メディアから「脅威」として注目されていたPRタニエラ・トゥポウ(オーストラリア代表)だが、組み直しの2度目で、PRトゥポウがペナルティ。ワラタスは優勢に立ちたいスクラムで逆に後退してしまった。
ワラタスの誤算は続いた。
前半12分にはワラタスがスクラムで2度目のペナルティ。ここから自陣に後退し、ライオンズのCTBシオネ・トゥイプロトゥが、スコットランド代表とグラスゴーの同僚CTBであるヒュー・ジョーンズにノールックパス。
ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ2025 オーストラリア遠征(7月5日)
【ハイライト動画】ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ vs. ワラタス
後列へのパスとみせかけた技アリのフィニッシュで、ライオンズが先制トライ。コンバージョン成功で7点を先取した。
だがダン・マッケラーHCが指揮するワラタスも並のチームではなかった。
3度目のスクラム・ペナルティで自陣22mディフェンスのピンチ。ここで激しく的確なファーストタックルを決め続けて、7次攻撃目でライオンズがミス。粘り勝ちの守備にスタジアムが沸いた。
ここで、ワラタスのFLチャーリー・ギャンブルが奮起。
エリア中盤付近のラックで絡みついてボールスティール成功。ニュージーランドU19の経験者で、ユース五輪では円盤投げのニュージーランド代表だったという異色を経歴の持ち主が、ワラタスの活路を開いた。
するとライオンズが、ここから3連続で守備のペナルティ。レフリーから「次はイエローカード」と忠告を受ける事態に。
しかしライオンズも反撃する。
守備の圧力から相手ペナルティを誘発して、敵陣エリアへ。ラインアウトから展開攻撃を仕掛けると、FWユニットの大外にいたバックス(CTBヒュー・ジョーンズ)に配球。
フットワークでゴール前の直線的なタックルをかわし、CTBジョーンズが連続トライ。一本目はスピード、2本目はフットワークで得点を奪ってみせた。(14-0)
だが、直後のワラタスに待望のトライが生まれる。
無得点だが直前にTMO判定による幻のトライもあり、ワラタスには手応えがあっただろう。キックカウンターから敵陣アタックを始めると、PRトゥポウが持ち出し、FLロブ・レオタのショートパスにより左隅で突破創出。
WTBダービー・ランカスターがタックルを振り切り、左隅へ飛び込んだ。危険なプレーがあったのではとTMO判定に入ると騒然となったが、ここはトライが認められて5点追加(ゴール不成功)。ようやくワラタスに得点が生まれた。
さらにハーフタイムを挟み、9点差(5-14)で折り返した後半開始直後だ。
後半キックオフの直後にライオンズがキックオフサイド。ここから敵陣5mに侵入する最高の展開を迎えると、ここでワラタスが得意のラインアウトモール。
前半に幻となったモールからのトライを決めきり、歓喜の2本目。2連続のゴール不成功でスコアは4点ビハインド(10-14)となったが、最高の出だしとなった。
だが、スクラムの優劣が最後まで変わらなかった。
問答無用のペナルティを誘い、ここから左敵陣ラインアウト。するとライオンズが移動攻撃を仕掛け、SHアレックス・ミッチェルがパスダミーから後半最初のトライを奪った。
リードを10点(10-21)に広げられたワラタスだが、しかし大きく崩れなかった。
終盤にはCTBジョーイ・ウォルトンがスティール。後半32分にはFLギャンブルがまたもスティール成功。スクラムとラインアウトを制圧されながら、DF強度の一貫性で11点ビハインドを守り続ける。
最終盤にライオンズはモールトライで追加点―――と思いきや、ここは前半のワラタス同様のオブストラクション(TMO判定)でノートライ。もどかしい展開が続く。
最後はライオンズにタッチキックのミス、ノックフォワードなどミスが続いて攻めきれず。
最終スコアは21-10でライオンズが遠征3連勝。しかし辛勝のライオンズに笑顔はなし。むしろ、セットプレーで負けながら、最後も堅守で失点を防いだワラタスに充実感があった。
辛勝となったライオンズのファレルHCは「勝利には満足している。勝利は必ず祝わなければならない」と話したが、もちろん課題感も示した。
「我々が持っていたテリトリーとボールポゼッションを考えると、ボールのロストやターンオーバーなどが多かったです。違ったタイプの試合で、接戦でプレッシャーを感じました。私たちにとって良い勉強になりました」
一方で、スクラムとラインアウトは安定。
ライオンズのゲームキャプテンを務めたLOタイグ・バーンは、成功率100%で10回中5回ペナルティを誘ったスクラム、そして同じく成功率100%(17回成功)だったラインアウトについて「スクラムとラインアウトの面で一歩前進した」と誇った。
うまくいかない経験もまた重要だろう。接戦を経験したライオンズの次戦は、7月9日(水)のブランビーズ戦。豪SR強豪と首都キャンベラのGIOスタジアムで激突。遠征4連勝を狙う。
文: 多羅 正崇
多羅 正崇
スポーツジャーナリスト。法政二高-法政大学でラグビー部に所属し、大学1年時にスタンドオフとしてU19日本代表候補に選出。法政大学大学院日本文学専攻卒。「Number」「ジェイ・スポーツ」「ラグビーマガジン」等に記事を寄稿.。スポーツにおけるハラスメントゼロを目的とした一般社団法人「スポーツハラスメントZERO協会」で理事を務める。
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