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植田 和磨
キックオフ後の20分で10-0とリードした。
ハーフタイム時は17-15。暑い中での試合に、最後はサクラのエンブレムを胸に付けた側が走り勝つイメージが頭に浮かんだファンもいたかもしれない。
しかし、ファイナルスコアは20-53だった。
6月28日(土)に秩父宮ラグビー場でおこなわれた『リポビタンDチャレンジカップ2025 ラグビー日本代表強化試合』、JAPAN XV対マオリ・オールブラックスには、1万9792人のファンが集まった。
テストマッチではないが、両チームにとって重みのある試合。いい緊張感の中で試合はおこなわれた。
翌週から2週続けておこなわれるウェールズ代表戦へのチーム戦術と、個々の選手の力、コンディションのチェック。勝利はもちろん、多くの要素が含まれていた。
JAPAN XVはその試合で、好スタートを切った。
前半9分に生まれた先制トライは、日本代表が目指しているスタイルで挙げたものだった。
ピッチの中盤で攻めていたのはマオリ・オールブラックス。左ラインアウトからモールを組んで、ジリジリと押していた。
SHサム・ノックがボールを持ち出した時、前が開く。背番号9が走り、チャンスはさらに広がったように見えた。
しかし、漆黒のジャージーがラックから右に動かした時にボールがこぼれた。それが、この日は白×グレーのジャージーを着ていたJAPAN XVが攻めに転じる号砲となった。
サム・グリーン
弾んだボールに反応したNO8青木恵斗は楕円球を手にすると、前に出て、オフロードパスをサポートしていたSOサム・グリーンにつなぐ。チームに勢いを与える効果的なプレーだった。
駆け上がった12番のチャーリー・ローレンスにパス。ボールはさらに13番のシオサイア・フィフィタに渡され、11番の植田和磨まで回された。
植田 和磨
日本代表スコッドに初めて選ばれている植田は落ち着いていた。
左に味方がいる。目の前のスペースにはカバーディフェンダーが迫っている。そんな状況を見極めて自ら切れ込んでトライランまで走り切った。
リポビタンDチャレンジカップ2025 ラグビー日本代表強化試合(6月28日)
【ハイライト動画】JAPAN XV vs. マオリ・オールブラックス
植田は10-10のスコアだった前半32分にもトライを挙げた。
この時はPK後の敵陣ゴール前のラインアウトからモールを押し、トライライン直前で攻め立てる。マオリ・オールブラックスのディフェンスが寄ったところで左に展開。再び背番号11がトライスコアラーとなった。
厳しいトレーニングの中で積み上げてきた形で挙げた2トライを重ね、前半をリードしたJAPAN XV。
しかし、後半はノートライ。相手に6トライを奪われて大きく差を広げられてしまった。
複雑なプレーで崩されたわけではなかった。フィジカリティーの強さで上回られて接点で前に出られるようになる。オフロードパスをつながれてチャンスを広げられて一気に走り切られたり、判断よく防御のギャップを突かれたり。根本部分の差が感じられた。
マオリ・オールブラックスのキャプテンを務めたHO、カート・エクランド主将は、集まって間もないチームが合宿を繰り返してきた相手よりコンビネーションが取れていたことについて、「マオリの血が騒いだ」とユーモアで答えた後、「みんなスキルが豊富です。(起こったプレーへの)反射神経というか、(子ども時代から)いつも庭でやっているようなことをみんなピッチ上で表現できた」と続けた。
この試合の指揮を執ったニール・ハットリー ヘッドコーチ代行は、「結果については残念」としながらも、「いいところもたくさんありました」と、チームが前に進むための材料を探していた。
試合後のロッカールームでも選手たちに、「チャレンジして良かった点を増やし、ターンオーバーやエラーを減らそうと伝えました。リーグワンレベルを経験して来た(代表)新人選手たちにとっては、ひとつ上のレベルを経験できた、学びの機会となった。そこでつかんだものを伸ばしていこう」と伝えた。
ゲームキャプテンを務めた下川甲嗣は、後半に崩壊したディフェンスについて「自分たちから仕掛けていこうと言っていたのですが、後半は、システム、フィジカリティー、エフォートに関して一貫性を持つことができずに相手にチャンスを与えてしまった」と振り返った。
この試合のすべては1週間後のウェールズ戦に生かされ、それは勝利に直結するだろうか。
ただの大敗に終わらせないことが求められる。
文: 田村 一博
田村一博
前ラグビーマガジン編集長。鹿児島県立鹿児島中央高校→早稲田大学。早大GWラグビークラブでラグビーを始める。ポジションはHO。1989年、ベースボール・マガジン社に入社。ラグビーマガジン編集部に配属される。1993年から4年間の週刊ベースボール編集部勤務を経て、1997年からラグビーマガジン編集長に就く。2024年1月に退任し、現在は編集者、ライターとして活動。
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